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体の贈り物

"みんな彼が『快適』に過ごせるよう努めている、と答えが返ってきた。私はその言葉を聞かされることにうんざりしてきていた。本当の意味は、要するに、望みなしということだ。"1994年発表の本書はエイズ患者を世話するホームケア・ワーカーを語り手に逃れられない死と向き合う十一の『物語』。連作短編小説。

個人的には以前読んだ『書店ガール』で、著者が紹介されていたことをキッカケにLGBT関連作に贈られるラムダ文学賞受賞の本書を手にとりました。

さて、そんな本書はUCS【Urban CommunityService】というエイズ患者専門の支援組織に属する職業意識に溢れるホームケア・ワーカーである『私』が第1章『汗の贈り物』から第4章『肌の贈り物』までエイズ患者の自宅を一人ずつ訪問ケアするエピソードが硬質の文体で描かれた後、第5章からは時間が経過して、再び第4章までの患者たちを再訪する事で、エイズが遅らせることは出来ても【死を免れることができない病であること】が、彼ら彼女らとの『永遠の別れ』を通じて、実感として『私』にも影響を与え、また読者にも余韻を残して終わるのですが。

まず、本書に登場する患者たちの姿から1980年〜90代に『後天性免疫不全症候群』という長ったらしい名前を持つ『謎の病気』として、また同性愛者の男性が感染する割合が高かったことから、様々な『性差別自体も助長することにもなった』エイズ【当時の混乱した様子】を記憶の奥底から生々しく想起させられた。

また、エイズ自体も未だに研究や治療が進められている一方、2020年代の現在だとやはり、新型コロナウイルスが日常に【突然訪れる死のイメージ】として猛威をふるい、また世界的な混乱や分断を生み出していますが。そういった意味で本書はエイズ文学ではあるも、終末期の病人との交流を描いた『看取り文学』として、また高齢化社会における『介護文学』として普遍的な魅力を保っていると思いました。

身近な人をなくす事が多くなってきた年代の方や、ホームヘルパーなど福祉に関わる人にもオススメ。

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