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鴨川ランナー

"早まるな ペースを維持すること。 目の前にある百メートルに集中すること(中略)きみは再びイヤホンをかけて、音楽をつける。君は頭を下げる。橋を渡って、祇園の方向に走り出す"2021年発刊、京都文学賞受賞作含む本書は異文化間の軋轢を繊細に描いた青春小説。

個人的には外側から見た日本、京都に興味がある事から手にとってみました。

さて、そんな本書は、どこか著者自身の経歴とも重なるアメリカ人青年の"きみ"が高校時代の選択科目で日本語を選択したことをキッカケに、大学卒業後にさらに日本語を学習すべく、英語指導助手として京都に滞在するも【周囲の自分に向けられる視線や扱い方に戸惑いや葛藤を抱えてしまう】表題作・京都文学賞受賞の『鴨川ランナー』そして、福井県を舞台に英会話教室の倒産で仕事を失ってしまい貯金を切り崩す日々を過ごす主人公が、ある日同僚の紹介で【結婚式の牧師役バイトをシニカルにする羽目になる】書き下ろし作『異言』が収録されているのですが。

やはり、日本。日本語、日本人。京都を、それこそ本書でも紹介されるピエール・ロティといった、自身や自分の文化圏の優位性や自惚れをもってエキゾチックな【異国の理想郷】として一方的に描いた"かっての外国人"ではなく、あくまで『等身大の現代人男性』として【異文化コミニュティに関わる悩み】を独特な文体で書いている表題作、『鴨川ランナー』が新鮮でした。

また、英会話教室の倒産による混乱は実際のニュースとして覚えていたので『異言』の主人公たちの大変さ、また、その中でも生活していくための【したたかさは充分に理解できる】のですが。結婚式でよく見かける"拙いカタカタ日本語をつかって祝福する"牧師(バイト)への見方はちょっと変わってしまったかなあとか。

京都、福井に縁ある方はもちろん。異文化、異言語コミュケーションに興味ある方にもオススメ。

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