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【展示解説】Rhoikos&Theodros “(PLACE)”Theme 001:Jens

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために発令された緊急事態宣言と、それに伴う自粛期間の解除後、(PLACE) by methodCIRCLEでは初の開催となった前回の企画展、古谷萌さんの「vermilion」は、グラフィックデザイン及びイラストレーションによる展示でした。現在開催中のRhoikos&Theodros(ロイコスアンドテオドロス)による企画展「“(PLACE)” Theme 001:Jens」では、ファッションデザインとプロダクトデザインの視点から生まれた作品が展示されています。

元々、(PLACE) by methodはギャラリーである、という認識は甚だ薄く、ましてやアートギャラリーだなんて、恐れ多くてとんでもない!という態度で運営をしています。Jensを初め、ファッションブランドさんが受注展示会を行う際には、スペースの貸し出しも行っておりますし、あくまで、我らmethod inc. の事務所脇にある、フリー(自由な)スペースであるという位置付けです。

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だからこそ、会社の活動の背景にあるモノづくり、そして主にデザインという分野を背景に、この場所においては、ひとまず商売はさておき(根は商人なので売れたらもちろん、めちゃ嬉しいんですけど…)、まずは、とにかく色々試していこう!という基本姿勢を保ちたい、と考えています。その意味では、そもそも今回の展示自体、かなり実験的な性格を帯びていると言えるでしょう。

R_T_logoのコピー

Rhoikos&TheodrosとJens

ロイコスアンドテオドロスは、2020年にファッションブランド「Jens」のデザイナーである武藤亨と、プロダクトデザイナーの小宮山洋(YOH KOMIYAMA DESIGN)の2人によるアートユニットです。

Rhoikos&Theodros
ロイコスアンドテオドロスは、既存のモノ・空間を変容させ、その鑑賞によって新たな発見を促すアートユニット。Jensのデザイナーである武藤亨と、プロダクトデザイナーの小宮山洋によって、2020年にスタートしました。個々の感性を活かし合う創作方法を重視し、他の組織・個人の活動を作品に取り込むことで生じる関係性を、空間やモノに拡張しながら、新たな意味・体験の創出を試みています。

Jens(イェンス)
普段なれ親しんだ素材を最大限に活かし、日常と非日常を行き来する洋服やジュエリーを提案する。プロダクトやインテリア、アートなど空間を演出するものも身につけるものと同軸に捉え、空間的なアプローチの新作発表「プレビュー」を毎シーズン行っている。

ちなみにユニット名は、紀元前500年代半ばにギリシャ・サモス島で、初めてイオニア様式が用いられた建築史上重要な建造物、ヘーラー神殿を手がけた建築家、ロイコステオドロスに由来しています。ファッションとプロダクト、それぞれ異なるデザイン分野に身を置きながら、建築、そして空間に対する、2人の強い興味と関心が窺えます。

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“(PLACE)” Theme 001:Jens

展示名は、”(PLACE)”。何でまたアーティストがこの題名を付けたのか、正直なところ混乱しました。とても紛らわしいので(苦笑)。とは言え、展示名は単に会場及びその思想を暗に示していると推測されます。また、副題は、Theme 001:Jens。こちらは作品を制作するにあたって、その対象となった存在を示していることは、下記の説明文章からも明白です。

本展は、Jens のこれまでのアーカイブに着想を得て、Jensの展示空間で、重要な役割を果たす「28mm径のパイプ」の什器に着目。ただの”什器”と認識していたパイプが、展示空間の中でインテリアの一部・プロダクト・彫刻・絵画とその姿を拡張させていく表現は、鑑賞者が理解していたはずの意味や本質を溶かすように、モノや空間を新たな視点・感覚から捉え直す機会となります。

作品らしきもの

今回、展示されている作品は、合計で12点。それでは、作品1つ1つを紹介していきましょう。28mm径のパイプを基本に、使用されている素材はJensらしく、身の回りで入手しやすいものばかりです。

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Curtain カーテン
服とカーテンが重なりあうパイプシステムは、そこにある機能性のみならず、服が空間化することで生まれるいくつかの情緒的な可能性を示唆している。

普段はハンガーを掛け、洋服を吊って見せている1本のパイプに、長くて大きな布をかければカーテンのようにも見えます。その間にパイプの直径分の僅かな空間が生じることで、これら2つの要素は共存し、そのことによって景色が変わり、同時に空間は仕切られ、前後に区切られます。

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Closet クローゼット
服やモノが仕舞われている空間を拡張したパイプシステム。服やモノの持つ気配や雰囲気が空間として立ち上がる。

家庭用の収納用品にも同様の構造がありますが、パイプを1本増やして2本とすることで、その間の空間を拡張したり、狭めたりと自由に活用することが可能となり、また、空間もより明確に認識できるようになります。布によって、ただ空間が仕切られるだけでなく、重なりも視覚的な奥行きをもたらしています。

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Light ライト
真鍮で出来たパイプの中から光が漏れ出している。光もパイプも空間にある同軸の素材として捉えた作品。

径の異なる真鍮のパイプをモビロンバンドで結束し、太いパイプの中にはLEDライトを仕込み、もう一方を別のパイプに通すことで、この展示空間において多用されている蛍光灯と、パイプが同様の形状であることへの気付きが投げかけられています。さらに真鍮を用いていることで、互いの光の質のコントラストも際立ちます。

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Mirror 鏡
鏡面加工された板がパイプにはさまれている。それだけでは自立せず何かに寄りかかったりどこからか吊られたりすることでこの鏡は成立する。

4本の真鍮のパイプをモビロンバンドとラップで結束し、鏡面の真鍮板を間にはさむことで鏡として成立させています。この作品も真鍮を採用することによって、純粋な姿見としての鏡の機能よりも、風景が映り込んだり、光が反射して床に照らし出されたりする、鏡の別の機能的側面を、改めて鑑賞者に思い起こさせてくれます。

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Coat hunger コートハンガー
真鍮で出来た大きな円柱と三本の細長いアルミパイプで構成されたこのプロダクトは一切の接着が無く、そのモノの持つ重心や力点、作用点などのバランスだけで構成されている。

洋服がハンガーで吊り下げられていることで、コートハンガーとしての機能を認識できますが、洋服とハンガーを取り払うと、その過剰な大きさから受ける存在感や雰囲気は、立体作品としての佇まいが感じられます。

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Telescope 望遠鏡
覗き込んだパイプの穴からは、遠くにある対象物がより近くにあるかのように。近くにある日常がより遠くに感じるような。

直径の異なる2本を連結させた長い1本のパイプを、角度を付けて斜めに吊るすだけで、元々はハンガーを吊るすためのパイプが、ついつい覗き込んでしまいたくなるような、情緒的な側面を浮かび上がらせています。敢えてパイプを連結させることで、意匠的にも望遠鏡のような印象を与えています。

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Ring hook リングフック
服を掛けるパイプの、その先にある指輪用のフックと指輪。どんな小さな部屋にもロマンティックスペースを。

中に真鍮が埋め込まれたパイプと、それを輪切りにしたようなリングが、パイプに差し込まれた木製のフックに引っ掛けられています。ジュエリーを吊るして収納するためのパイプですが、別の見方をすると、ジュエリーでパイプを装飾しているのかもしれません。リングの制作は、Naotokojima jeweryを主宰する小嶋直人によるもの。

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Speaker スピーカー
アルミパイプの内側に耳を傾けると、音のような音楽のようなものが流れてくる。音楽が空間そのものに変換され溶け込んでいる。

パイプの内側にスピーカーを差し込むことで、スピーカーの存在は空間から消え失せ、音だけが残り、空間を漂い続けています。音源は研究者としてだけではなく、音楽家としても活動し、作品を発表している土井樹によるものです。

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No title 無題
ギャラリーの外に配置され吊るされているパイプシステム。ギャラリーからひとたび外に出たパイプは建物や街並みを展示空間に置き換える。中華屋のおじちゃんにとって謎でしか無いこの物体は、それでも街並みや景観のひとつの要素となり、公共性を帯びていく。

企画展にあたり、アーティストに無理を言ってお願いし、実現した作品です。パイプだからこそ室内のみの作品展示に留まらず、外部に染み出しいくことが比較的容易であると考え、建物や街並みを彩る立体作品として成立することを狙っています。将来、団地のベランダをハックした展示の開催を、心より願っています。

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今回の作品に関して、R&Tの片割れである武藤さんが、自身のSNS上で表現していた「らしきもの」という言葉が、個人的にはスッと入ってきました。作品らしきもの、インスタレーションらしきもの、レディメイドらしきもの、ファッションらしく、プロダクトらしく、アートらしきもの、けれども、そのどれでも無いようなもの。まだ定義されたり、名付けられていない、中間領域にあるもの。だからこそ冒頭でも述べている通り、多分に実験的であり、それ故に謎深く、また、興味深くもあります。

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Moving 引越し
どこからか運び込まれた大量のダンボールが誰もいない小空間に整然と積まれ、押し込められている。ダンボールを開けるとおそらくそこには美しい服が入っている。あなたはダンボールを自由に移動させ気に入った服を探すことができるし、それを購入することもできる。整然と積まれていたダンボールは鑑賞者が服を探すたびにその姿を緩やかに変えていく。

隣のCIRCLEでは趣向を変えて、Jensの洋服のアーカイブ販売が行われています。(PLACE) by methodで、毎週日曜に開催されている無人展示と呼応する、無人での販売は、ショップらしきものでもあり、倉庫らしきものでもあり、そしてインスタレーションらしきものとも言え、その姿勢は、形や表現を変えても一貫しています。

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#デザイン #ファッション #プロダクトデザイン # Jens #武藤亨 #小宮山洋






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