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「日本語を外国語として科学的に学び直す」日本語教育能力検定試験

「これから求められるのは、何でも面白がられる人だ」と言っていたその方は、長年勤めていた会社を定年退職され、日本語講師への道を進まれた。普段から、学習者の誤用に注意を払うだけではなく、日本にあふれる「面白い日本語」にもアンテナを立て、メモを取って調べるのだそうだ。

前回の「日本語をいろんな視点から見ること」という話しを別の現役日本語講師の方に話すと「日本語を外国語として科学的に学び直す」必要性があると仰っていた。また別の日本語講師の方は、講師時代に出会った面白い学生たちを描いた本を書いたのをきっかけに、今は作家になったのだという。

うーん、言語を通して見える世界もまた広く面白いものだなぁーと、#やさしい日本語での情報発信の文章が、まだろくに書けていない自分は思う。

ベトナムにいると、とにかく周りのベトナム人から「日本語を教えてほしい」と言われる。私自身は、自分がベトナム語を学ぶことに必死で、仕事自体も移動が多く、そもそも日本語を教えたことがない、関西弁がしつこく残る(?)日本語を話す日本人なので、「本気で学びたかったら、日本語を教えている友人を紹介するよ」と、せめて自分ができることとして、繋げる役割を担っていた。

ただ、日本語学習者が、どのような日本語の試験を受けているのか、どのような背景で日本語を学びたいと思ったのか(もしくは学ばないといけないのか)、日本語を学習することによって、学習者はどういった在り方や生き方を目指しているのか・・・等、そんな背景には興味があった。そして、同時に、日本語講師の方々の登竜門である「日本語教育能力検定試験」というものは、どのような内容の試験なのか、にも興味があった。

まぁ、結論、「ここまで、学ぶのか!というか、これは分野を超えて、普通に読み物としても、面白そうだ」と思ったので、出題範囲と問題文を紹介する。

日本語教育能力検定試験の問題文例

1.社会・文化・地域
1-1.世界と日本
世界情勢が日本語教育にどのような影響を与えるのか
1-2.異文化接触
移民や難民政策を含む人口の移動と異文化調整。学習者の日本での役割(仕事や社会的地位)や生活環境、期間、どのような資格で来たか、そのために日本語で何ができなければならないのかを把握すること。
1-3.日本語教育の歴史と現状
言語政策及び日本語教育事情。日本語教育がたどってきた歴史的経緯、とくに日清戦争から日中戦争・太平洋戦争までの日本語教育史。
1-4.日本語教育の資質・能力

問題例:

1.〇〇は、当初、災害などの非常時に外国人に情報を伝える手段として提唱された概念だが、現在は、日常生活に必要な情報の伝達にも使用範囲が広がってきた。  

2.日本の中長期在留者に対して、2012年7月より新たに〇〇が交付されることになり、今までの「外国人登録制度」は廃止された。

3.太平洋戦争終結までに、最も長く日本語教育が行われた地域はどれか。
マレー、パラオ、フィリピン、フランス領インドシナ

1.やさしい日本語 2.在留カード 3.パラオ

※3.東南アジアの占領地における日本語教育は、1941年ごろから3年間程度行われただけであった。しかし、パラオやミクロネシア地域では、第一次世界大戦終結から30年にわたって日本語で学校教育が行われた。東南アジアで日本語学習が盛んになったのは、1981年、マレーシアのマハティール首相が、「ルックイースト政策」を提唱し、日本へ多くの留学生を送り出したことがきっかけといえる。

2.言語と社会
2-1.言語と社会の関係
言語使用は社会的要因によって変化する。類似した社会的背景を持つ話者集団による「社会方言」と、地域ごとの言語である「地域方言」に分けられる。
2-2.言語使用と社会
敬意表現は、2000年に国語審議会が提唱した概念で、「コミュニケーションにおいて相手や場面に配慮して使い分ける言葉遣い」。
2-3.異文化コミュニケーションと社会
外来語、若者語、敬語の意識、慣用表現の意味と用法などの使用実態を知る。アイデンティティや多言語主義など社会言語学を広く学ぶ。

問題例:

1.言語接触により誕生した接触言語の一つで、異なる言語の話者の間の共通語として用いられるものを〇〇という。限られた場面で使用され、語彙数は少なく、文法は簡略化されている。

2.〇〇とは、政治的、社会的に中立的な表現や用語を使うことで、偏見・差別のない社会を目指そうとする考え方である。(例:看護婦→看護師、ビジネスマン→ビジネスパーソン)

1.ピジン 2.ポリティカルコレクトネス

3.言語と心理
3-1.言語理解の過程
談話理解には主に発話の理解や文章の読解などが含まれ、そこには予測、推測、記憶といった処理システムが関わっている。記憶から効率よく情報を引き出すための記憶の活性化も必要になる。
3-2.言語習得・発達
学習者タイプを理解し学習ストラテジーを指導。インプットとアウトプット、習得順序。第一言語と第二言語習得の違い。
3-3.異文化理解と心理
異文化をどう理解し受け入れるか、ステレオタイプや文化的気づき。母語喪失、均衡バイリンガル、母語保持など。

問題例:

1.言語と文化の結びつきを重視する考え方で、目標言語圏の文化を受け容れることが言語習得を促進される、逆に文化を受け入れられないと言語の習得も進まないとされる。この考えを〇〇という。

1.文化変容モデル 

※モノリンガルは一つの言語使用、バイリンガルは二つの言語使用、マルチリンガルは三つの言語以上の使用が可能な場合を指す。バイリンガルでも、どちらの能力も不十分な場合をセミリンガルという。

※外国人就学児童の日本での生活が長くなると母語よりも日本語の方が優位になる傾向が強いが、子供が母語を喪失すると、家庭内でのコミュニケーションが困難になるという問題が生じる。また、母語や母文化の喪失は、その子どもの文化的アイデンティティーに関わる重大な問題なので、母語を保持しつつ、日本語能力を伸ばすことが求められる。

4.言語と教育
4-1.言語教育法・実技(実習)
基礎的な知識と教育実践を関連付ける。どのような目標の授業で、いつ、どんな環境で、どんな人たちに、何を使って、どのような方法で説明し、その説明の効果をどのように確かめ、その結果を次回の文法説明の改善にどう生かすのか。客観的に分析し、計画を立て、問題解決する力が求められる。
4-2.異文化間教育・コミュニケーション教育
国際理解や異文化を受容する訓練、指導する際の留意点。
4-3.言語教育と情報
何をどう教えて、どう評価するか。模擬授業にも参加。

問題例:

1.日本国外における日本語教育の現場では、日本語ネイティブ教師とノンネイティブ教師による〇〇が行われることが多い。

2.20世紀初頭、言語運用の中でも「話す」「聞く」を重視する教授法としてパーマーが提唱した教授法は何か。
オーディオ・リンガル・メソッド、オーラル・メソッド、ナチュラル・メソッド

1.チーム・ティーチング 2.オーラル・メソッド

※オーディオ・リンガル・メソッドは、行動主義心理学と構造主義言語学に基づいた教授法で、フリーズによって提唱された。ナチュラル・メソッドは幼児の言語発達過程を参考とした教授法である。

5.言語一般
5-1.言語の構造一般
「日本語を外から見る」対象言語学。言葉は生き物だと理解し、「言葉の変化」が起きる原理や傾向を大局的に見られる目を支えるのが一般言語学の知識。

5-2.日本語の構造
日本語という言語がどんな特質(音声、音韻体系、文字と表記、日本語史など)を持った言語なのかを確実に把握しておくこと。

5-3.コミュニケーション能力
言語運用能力、受容・理解能力、対人関係能力、異文化調整能力などの全てを含むコミュニケーション能力。

問題例:

1.「聞く」「聴く」「訊く」のように、似た意味を持ちながら別の漢字で書き分けることのできるものを〇〇という。

2.隠喩・換喩などの〇〇表現は、日常の言語表現に深く根差しているものである。

1.同訓異字 2.比喩

最後に、問題文章の中で、日本語について書かれていた文章が、まさに「日本語を外国語として学ぶ」に相応しいかと思い、そのまま転載する。

 ある言語かほかの言語に比べて難しいかどうかなど、簡単に言えることではない。しかし、こと書記言語に限って言えば、日本語は確かに習得に困難を伴う言語であろう。使用される文字の種類が多いからである。  
 数字やローマ字はひとまずおくとしても、そのほかに、平仮名・片仮名・漢字という3種類もの文字があり、教育や報道を含む日常生活で、漢字仮名交じり文が常用されている。仮名は数も限られており、比較的、文字の形もシンプルであるが、それゆえに「る」と「ろ」、「ぬ」と「ね」、「よ」と「ま」のように識別しにくいものもある。一方、漢字は数が膨大である(現行の常用漢字表にある漢字の数は、2000を超えている)上に、形の複雑なものが多く、いずれにせよ、習得には時間がかかる。
 さらに、それぞれの文字の読み方が、また複雑な問題を含んでいる。仮名は表音文字であり、文字と音価がほぼ一対一で対応しているが、それでも多少の例外はあるし、漢字に至っては、そのほとんどがそれぞれの複数の読みを持っているため、さらに習得の負担は大きい。
 漢字の読み方の困難さは、単に音読み・訓読みの二大別にあるだけでない。訓読みだけでも複数の読み方を持つ漢字がある。そのほとんどは、「危うい」「危ない」、「覚える」「覚める」のように送り仮名で判別できる場合が多いものの、中には、送り仮名まで同じであるのにもかからわず読みが複数ある場合(例:開く、入れる)もある。熟語についても同様で、「日本(にほん・にっぽん)」のように、どちらでも重大な違いのないものもあるが、「工夫(くふう・こふう)」のように、読み方が違うとまったく別の単語になってしまうものもある。
 また「恐い」と「恐れる」、「汚い」と「汚れる」のように、送り仮名によって読みが変わる上に、品詞も分かれる漢字まである。さらに、日本語母語話者には案外意識にしくいものとして、助数詞の「本」のように、先行する数字によって読みが変わる漢字もある。
 とはいえ、表意文字としての漢字に魅力を感じる学習者は少なくない。そのような学習者の関心を生かすためにも、漢字教育では、単なる文字教育を越えて、語彙や文法とも絡めながら、指導していくことが求められよう。

実際の試験では、上記内容の他に聴解問題や記述式問題もあるのだが、ここでは割愛する。それにしても、範囲が言語習得の科学、日本語史、心理学、異文化理解、歴史や背景、片仮名語表現、社会情勢、コミュニケーション等とてつもなく広く、これはもはや暗記ではなく、日々体現していくしかないような・・・同時に、ベトナム語を外国語として学んでいる身からすると、これは自分自身の脳内の学習過程をメタ認知できるような、なんだか科学的に学べる気がしてきた。

「日本語教師は『日本語の正誤を判定する人』ではない。日本語教師に求められるのは、まず、疑問が生じたときに何を参照すればよいかが分かる、ガイドとしての資質。そして日本語を外国語として分析する力が必要。」

なるほどなぁ。ガイドとしての資質。最近でいうと、帆走者のような存在でもあるような。日本語学習者は、教室の外でさまざまな日本語に触れ、「教科書で勉強した言葉と違うけど」という質問を投げかけてくるそうだ。言葉は生きている。

またひとつ、面白い「言語の物語」と出会ったような感覚。勉強し続けよう。この日本語教師側の見解を知ったうえで、以前書いた日本語学習者側の「日本語能力試験」の試験内容も繋がったなぁ。

引き続き、いろんな視点から物事を見ていく目を。



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