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食糧生産への旅路【本:食糧と人類】

うわー。足りない。人生が足りない。とことん知り尽くすまで。本質に迫るまで。そんな壮大な人類と食糧を巡る文明史であり通史。ちょっとわかった気になった途端、やっぱりわからない。そんな本。近代農業の全否定ではなく、有機農業の全てが良いとは言い切らず、淡々と、それでも深く、農業生産を取り巻く歴史・文化・環境が学べる。

アマゾンの熱帯雨林地域で、森林が伐採され、大地があらわになっている光景を目の当たりにした著者ルース・ドフリースが不覚にも涙をこぼすところから、この文明史への追求が始まる。目の前に起こっていることは、なにを意味しているのか、どう理解すればいいのか、著者は自問自答を続ける。品種改良、飢餓、薬物、害虫との闘い、食生活の変化、健康、家族形態、居場所と仕事、自然との距離感、地球の未来、地球の循環メカニズム、バッタの大量発生、農場経営者、地質学者、博物学者、経済学者、考古学、窒素、炭素、土壌、植物、リン、酸素、オゾン層、遺伝子、食物連鎖、緑の革命、フードマイレージ、ハイブリット米・・・冒頭の文章で「ベトナム南部のメコンデルタの青々とした水田」「アイルランドのジャガイモ飢餓」とあったので、今までの自分の人生と関わってきた文明と歴史に高揚しながら、一気に読み入った。

The Big Ratchet: How Humanity Thrives in the Face of Natural Crisis by Ruth DeFries 飢餓を克服した大増産の文明史

1.鳥瞰図ー人類の旅路のとらえかた
2.地球の始まり
3.創意工夫の能力を発揮する
4.定住生活につきものの難題
5.海を越えてきた貴重な資源
6.何千年来の難題の解消
7.モノカルチャーが農業を変える
8.実りの争奪戦
9.飢餓の撲滅をめざして
10.農耕生活から都市生活へ

「本書がめざすのは、人類が歩んだ旅路をなぞり、どのような経緯でここまで到達したのかをあきらかにすること。いままでをふり返れば、きっとこの地球上でのわたしたちの未来の姿が見えてくるはずだ。」

・人類史が過去に経験した破綻の危機はほとんどの場合、飢餓と食料不足だった。現在、わたしたちが直面している問題は、この食料不足によるものではなく、飽食が原因だ。

・メコンデルタにいながら、やはりオンラインでの大学院修士を目指したいとも思う。

・食料不足を予想した経済学者のトマス・ロバート・マルサス

・20世紀後半、世界全体でトウモロコシと米の年間生産量はほぼ3倍、小麦は2倍以上に増えた。牛、豚、鶏の肥料となるトウモロコシが豊富なため、食肉生産量も増加して3倍を突破した。

・文明を動かす究極のエネルギーとは何か

アイルランドのジャガイモ飢餓は、前進、破綻の危機、方向転換のサイクルを説明するのにうってつけ。ジャガイモの登場が、力強く歯車をまわす転換点になったが、1845年、ジャガイモ疫病菌がアイルランドで猛威をふるい、大飢餓を引き起こした。ジャガイモで食いつなぐ国民はすでに相当数にのぼったていた。着実にまわっていた繁栄の歯車に疫病、飢餓、死が振り下ろされた。人間と自然の密接な関係が一定の限度を超えたあげくに起きた典型例

・社会は繁栄し、その後に滅亡したとしても、ヒトという種は前進と方向転換を延々とくり返している

・人類と自然界との長い歴史をつぶさに見ていくと、人間は旺盛な想像力を絶えず発揮して問題を解決しては、新たな問題を生み出しているのがわかる。どんな文明も、その基盤には地球の驚異的なしくみと、それを活用して食料を得るためのヒトの創意工夫がある。

・ヒトが生息するための三要件:安定した気候、栄養分の循環、多様な生命

・地質学的なリン循環
どうすればリンの気長な旅に割り込んで、循環をスピードアップできるのか、人間の知恵が試された
→糞尿と枯れた動植物の死骸に含まれるリンを短期間で循環させること
→リンを掘り出して運んでくること

・川が運んできたシルトで地味を豊かにする方法は、チグリス・ユーフラテス川、ナイル川、インダス川、中国の黄河流域で栄えた古代文明で始まり、人口増加と都市生活を支えた。

・連鎖の始まりは光合成である。

・暴動と暴力、飢餓、価格急落、小麦生産量、農耕、畜産

・小説「オリバー・ツイスト」by チャールズ・ディケンズ
都市の人口の増加、産業革命前のイングランド、食肉解体くずや屎尿を集めるナイトマン、崩れる都市と農村の循環と均衡

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・水をどうやって確保するか

・化石燃料の登場:エネルギー不足の解決

・ヒトは飢えに対する恐怖、儲けを手にしたい、地質学的な気まぐれの発見、知的好奇心など、さまざまな要因から地球のメカニズムに手を加える方法を編みだす。新しい解決策が広まる方法も多種多様だ。最高の値を提示した相手にこっそり企業秘密を売り渡す、特許権の競争、戦時の技術の再利用なども絡む。ルーズベルトの予測は現実のものとなり、工業国の食料供給は肥料工場、世界各地の鉱床、少数が独占する油田という手かせ足かせに拘束されるようになった。豊富な養分は湖や海岸の汚染、大気の異変という副産物をもたらし、その影響は世界中におよぶ。20世紀前半、定住生活のふたつの疑問ー土壌の養分の補給、人間の消費エネルギーを極力減らして収穫量をあげるーの解決策が登場し、さらに人類が自然界にある方法で介入することで20世紀後半の人類大躍進を迎えることになる。大昔に狩猟採集生活から農耕牧畜生活への移行をうながしたときと同じ状況だ。空中の窒素ガス、地中のリン鉱石と化石燃料を利用した無機肥料が普及すると、再び生物学の領域で方向転換が起きた。ヒトは多くの方法で遺伝子をたくみに操作して、地球上でいっそう存在感を増したのである。

・大量生産の実現ーハイブリッド・コーン

・バッタの大群発生:西アフリカでは10年~15年に一度起きる。雨季の大雨のあとに乾季がやってくると土のなかに産みつけられたバッタの卵が孵化し、果てしなく広がる大地に大群が発生する。飢えたバッタは一旦飛び立つと、毎日自分の体重と同じ分量の作物を食べる。バッタは世界最悪の農業害虫であり、2005年は農作物にとりわけ深刻な被害をおよぼしたが、これはいまに始まったことではない。

・皮肉にも、食料の増産を可能にした人類の進歩は敵を助けた

・DDTは疾病対策に使われたあと、農業分野の市場に進出した。人類を苦しめるあらゆる病害虫を駆除できるという宣伝文句で、家庭の庭の雑草原地帯のアメリカタバコガの幼虫、西部の牧場のハエまで、守備範囲が広がった。これが飛ぶように売れた。1940年代には飛行機でDDTを散布した。

・「奇跡の米」の誕生
稲から穫れる米はアジアの食文化になくてはならないもの。1960年代に穀物の生産事情を好転させた「緑の革命」が進行するとともに人口が増加して、ますます食料が必要となった。各国は国際的な農業研究所を設立して品種改良を行い、新しい種子を農業の現場に広めた。交配を続けてざらざらした食感と味を改善し、病害虫への耐性や成長の速度といった特徴も強化して、年間の収穫量を増やした。奇跡の米は、フィリピン、中国、そしてアジア全体で収穫量を増加させた。1970年代前半、中国のハイブリット・ライス種子は、ハイブリッド米を生み出し、インドネシア、ベトナム、インド、アジア全体、世界各地へと普及した。

・第二次大戦後、人類の食糧危機を回避するために活動した育種家のノーマン・ボーローグ。1970年、「世界の食料不足の改善に尽くした」功績を称えられ、ノーベル平和賞を受賞。彼こそ、化学合成殺虫剤を批判したレイチェル・カーソンの主張に真っ向から反論した人物。

・ただ、ボーローグは緑の革命で人類と飢餓との闘いに終止符が打たれたわけではないと理解していた。緑の革命の勢いが少し落ち着く1980年代までに、東京、メキシコシティ、サンパウロの人口はかつてのニューヨークを抜き、都市生活者の割合は10人のうち4人になった。そのぶん、食料が必要になる。

・収穫量を増やすことが飢餓を防ぐことに結びついていないのが実情だ。農地が狭く、パッケージを購入する資金の乏しい農家は、テクノロジーのすばらしい恩恵とは無縁だ。では、さいわいにも資金力のある農家はどうなのか。とてつもない収穫量だけに目を奪われていままでのやりかたから切り替えれば、何世代にもわたって培ってきた知恵ー病害虫の害を防ぐ方法、在来種の栽培法ーはいとも簡単に失われてしまう。

・緑の革命への批判
インドの哲学者で著名な作家でもあるヴァンダナ・シヴァは、ボーローグを強く批判し、「緑の革命は失敗だった・・・得をしたのは農業機械メーカー、ダム建設業者、大地主だ」と述べている

・緑の革命が環境を改善したのか悪化させたのかは、意見が分かれるところだ。ボーローグ自身は、収穫量の増加は、環境に貢献したとたびたび主張している。1950年の収穫量のままであったら、穀類の供給をまかなうには二倍の土地が必要となっただろう。そうなれば、より多くの森が超滅し、草原が失われ、多くの野生生物が絶滅したにちがいない。反面、農地では以前とは比較にならないほど大量の化学肥料が撒かれている。窒素固定をおこなう工場では化石燃料を燃やし、畑では肥料から温室効果ガスの亜酸化窒素が出て異常気象を加速させる。農地からは過剰な窒素が流出して沿岸水域をデッドゾーンに変える。それ以外にも、緑の革命のモノカルチャーは作物に殺虫剤を大量に散布し、地下水を枯渇させ、土地に根差した在来作物を排除する。ボーローグはこうした批判をはねつけた。環境保護を訴える欧米諸国のロビイストの多くはエリート意識の塊だ。じっさいに飢えを体験したことなど一度もない。ワシントンの快適でぜいたくなオフィスに陣取って、ロビー活動にいそしんでいる。わたしが50年間経験してきた途上国の悲惨な暮らしを彼らがほんの一か月でも体験すれば、トラクターと肥料と灌漑用水路をよこせと訴えるだろう。

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・農耕生活から都市生活へ
ほぼ全世界で肥満が増え、昔ながらの栄養豊かな食材が消えていく現象は、食料大増産の弊害以外のなにものでもない。現在、世界各地で飢餓に苦しむ人類は1日10憶人を切っている。肥満は10憶人を突破している。高カロリー食品が手軽に安く買える。デスクワーク中心の都市型のライフスタイルという組み合わせが引き起こしている。アメリカでは今後、成人の過半数が肥満になるおそれがあり、2030年には肥満が86%以上を占めると予測されている。世界中で肉と油の消費が増える。

・フードマイレージ(食料の輸送距離)、熱帯雨林の木陰で生態系を壊すことなく栽培されたコーヒーやオーガニック・チョコレートなど、多少高くても、持続可能な方法で生産されている認証つきの食料を購入することで、いままでの軌道とは違う未来をめざす意思表示となる。

・都市化にともなって増えている糖尿病と心臓病のリスクは避けられないかもしれない。よくも悪くも、こうして人類は都市生活へと大規模に移行していく。

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参考資料例

農作物生産量のデータ:Statistics Division of the United Nations Food and Agriculture Organization (FAOSTAT)
国連食糧農業機関(FAO)
飢餓状態と肥満状態 (WHO)
レイチェル・カールソン著『沈黙の春』
ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊ー滅亡と存続の命運を分けるもの』
食糧農業政策研究センター:バーツラフ・スミル著『世界を養うー環境と両立した農業と健康な食事を求めて』
マルサス著『人口論』

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