東京


これは恋の話でも夢の話でもなんでもない。

昨日の夜の話。

それでいて、これまでの東京の話。
これからも続くであろう東京の話。

30代もまもなく中盤戦。

すっかり愛だの恋だの、夢だの希望だの
語れなくなってしまった。

欲しいものはある程度は買える。
食べたいものは何でも食べれる。

出勤時間などもない立場の自分は
好きなときに起きて好きなときに眠れる。

そんな毎日だ。

最近の楽しみと言えばダイエットきっかけで
始めたランニングくらいだ。

酒を飲むことや音楽に触れることなどは
あまりにも自分の生活の一部すぎておそらく
楽しみとは違うからあえて除外する。

自宅の新宿から出発していくつかの
コースを日替りで楽しむ。

眠らない街、東京(新宿)なんて巷では言うけど
いろんな街を走ってみて思ったのはそんなの
真っ赤な嘘だ。

夜中の東京は歌舞伎町を除いて
どこもものすごく静かだ。

港区なんて走っていて気持ちいい反面
静かすぎて怖くもなる。

スカイツリーよりも東京タワーの方が
好きなのは寂しそうだからだとわかった。

まるで東京の正体のような気がした。

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20代の頃は、当時の彼女と毎週
いろんなスポットに出掛けたもんだ。

行きつけの汚ったない酒場
キラキラした流行りのデートスポット
ちょっと無理して行った高そうなレストラン

僕は走りながらふと思い出していた。

30歳になる寸前まで未来のことも
考えずに遊び呆けていた僕には何もなかった。

当然、お金もなかった僕は
その当時の彼女との未来など
想像できるわけもなく距離を置いた。

とてもいい女だった。
聡明で、それでいて面白くて。

いわゆるいい男が連れてそうな女だった。

だからその当時は一緒にいることが途中で
しんどくなったんだと思う。

でもそのとき漠然と僕は思った。

がむしゃらに働いて稼げる男になろうと。

それからの数年で奇跡的にも僕は
ある程度稼げる男になった。

当時の彼女を思い出すことはこの数年
ほんの数回しかなかった。

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ランニングのあとは汗を流しに
銭湯に入るのがルーティンになっている。

息を切らして行きたい
銭湯のある街を目指して走った。

自慢のロングヘアを
銭湯備え付けのシャンプーで
台無しにしたくない僕は
毎回、銭湯の前にコンビニなどで
携帯用の少し良さげなシャンプーを
買うことにしている。

買い物を終えてコンビニを出ると
少し先に見たことのある顔が見えてきた。

整った輪郭、切長の奥二重、黒のロングヘア

いい男に連れられて隣を歩く女性は
それは紛れもなく当時の彼女だった。

六本木でも恵比寿でも中目黒でもなく
神楽坂が似合う子だった。

神楽坂通りをスローモーションで
通り過ぎていく姿を僕は目で追うことは
できなかった。

正確には隣がいい男だったかなんてことも
覚えていないのです。

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帰宅して久々にギターケースから
ギターを取り出すと弦が錆びていた。

こんな出来事でしか曲が書けないのかと
思うと無性に虚しくなってやめた。

きっと明日にはもうこのことも
忘れているでしょう。

タワーマンションの低層階の窓から
眺める景色はコンクリートの塊だけです。

煙草の煙が寒空に消えていく。

誰かを愛したくて
あなたを愛したくて
誰かに愛されたくて
あなたに愛されたくて

あなたって一体どこの誰なんでしょうね。

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