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陰謀論を完全否定します

昨今インターネット上に無責任に溢れかえる言説があまりにも酷いため、それらの内容を完全否定するものである。


陰謀論で何でもかんでもユダヤの陰謀とするのは滑稽である

今日、ユダヤ人は金融の世界で大きな影響力を持っているが、だからといって「ユダヤ人の陰謀説」をでっちあげるのは、その歴史的背景を知らないことを露呈しているだけである。陰謀論から脱却してまともな思考を取り戻したい方の処方箋となれば幸いである。

発端としてはユダヤ人の歴史的な困難から始まる

民族離散の後、国家をもたないという政治不幸を背負ったユダヤ人が、歴史の中ここではとりわけヨーロッパ中世においてどのように主流へと歩み始める続けることができたのだろうか。国家による後ろ盾がないということは、現代社会においても相当な困難と苦難が予想されるのに難くないが、それに加えてユダヤ人は民族的な迫害にも常にさらされてきた。しかし、それでもなおひとつの民族として信条と行動をともにして、歴史の潮流の中で大きな役割を果たしてきたことは驚嘆すべきことではないのだろうか。この点から、ヨーロッパ中世初期におけるユダヤ人とその社会の発展について明らかにするものである。

ユダヤ人は突然に金融業で成功したわけではない


中世初期のヨーロッパは封建制社会であり、それは荘園を基礎とする分権的社会体制であった。国王や皇帝は名目的な存在に過ぎず、地方の封建諸侯の内政に干渉する力はなかった。その中で、ユダヤ人の身分は次のように考えられていた。カロリング王朝の支配から十字軍が終わるまでの五百年(800-1300年)にわたって、ユダヤ人は『君主の僕』となった。キリストの名において領主の国に誓いをするのではなく、国に代わる領主に誓いを立てたのである。ユダヤ人にとって、キリストの名においてということが受け入れられなかったことと、裕福な商人階層を形成していたユダヤ人は領主にとって非常に価値のある存在だったからである。そして、そこではユダヤ人は武器の携帯を許されていた。また、敢えてユダヤ人に攻撃を仕掛けるものもいなかった。それは王の財産に攻撃をしかけるのに等しかったからである。社会的には、十字軍にいたるまでの中世を通じて、ユダヤ人は騎士よりいくらか低いが、農奴よりはるかに高い地位にあった。このように、キリスト教徒でないがために、ある意味特権的な立場をユダヤ人は得ることができたのである。

タルムードはユダヤ人の民族的な律法にすぎない

タルムードという口述による律法の書がある。とあるユダヤ教のラビがいうところによれば、タルムードで討議されていない問題はないそうだが、実際にタルムードはそれほど広域な問題を取り扱い、同時にユダヤ人をユダヤ人とたらしめる源泉であると言うことができる。それは一民族全体の知識の驚くべき百科辞典であり、そのなかにあらゆることが述べられている。すなわち、律法、判例、倫理、哲学、歴史、地理、医学、天文学、自然科学等が、伝説や、諺や、道徳的作法の説明などと一緒に雑然と分類もされずに、まるで『元帳』に転記される前の『日記帳』といった形で載っているのである。それは異なる見解の飽くなき接近であり、その間にはかならずしも論理的関連性はないのである。それぞれの思想はそれに相応する聖句に照らして解説され、無限に豊かなものになっていった。またその中にには一種の記憶の技術がもられていて、口伝を保障するために案出された詩の形式をつかう事によって、驚くべき効果を上げている

ユダヤ人社会がヨーロッパ社会に与えた影響

また、タルムードはユダヤ人だけではなく他のヨーロッパ社会にも無視できない影響を与えている。ユダヤ人は証拠と証人を調べ、公平な裁判官による法廷手続きを執ることを当然のことを考えていたので、イギリス人が法律紛争を決闘によって決着をつけていたことは彼らに顰蹙をかっていた。すでに二世紀に、タルムードの律法により、財産権の争いの場合、両当事者に承認された三名が評決を下し、それが両者を法的に拘束するとされていた。アングロ・サクソン人も、ユダヤ人の紛争解決の方法のほうが決闘による解決より優れていることに百年たらずで気がついた。十三世紀になると、この「陪審員」方式がイギリスのコモン・ローとして成立した。ユダヤ人は早くから武力によらない合理的な紛争解決手段を見出していたし、これらはヨーロッパの諸法制にも多大な影響を与えていた。
 

ユダヤ人の特権性はキリスト教の影響である

キリスト教社会のなかでユダヤ人の職業は制限されており、彼らが選択すべき職業はキリスト教徒に禁止されていた金融業しかないといっても過言ではなかった。ユダヤ人は自分たちの間では利子付で金を貸すことを禁じ、同胞以外の人たちに対してはそれを許すという宗教法に縛られていた。この規定の意図は、集団として生き残るために貧しい共同体を保護し、ともに維持していくことであったと考えられる。そして、破れかぶれの債務者を逃がさないためにタルムードにおける裁定には長年にわたって驚くべき努力がされていた。いずれの国においても大きな債務者は、村落の貧しい中流上層階級であった。利息はおよそ年利12.5%で、これは中世の標準からみて高くはないようであった。王は理論的に、しばしば実際的にも、活気のある大きなユダヤ人共同体から巨大な利益を得る立場にあった。十二世紀のアンジュー家の王たちは、明らかに裕福なユダヤ人の裕福な貸主から上手く利益を吸収していた。ここでも、キリスト教徒ではないがために職業が制限されたにもかかわらず、経済的な成功を収めることができたという逆説的なユダヤ人の特権性が見られる。

ユダヤ人はキリスト教徒ではない為独自の合理性を生み出した

あらゆる宗教的社会的制限を受けつつもそれを巧みに利用したユダヤ人はヨーロッパ社会のなかで独自の発展を遂げたが、それはキリスト教徒ではないという異質性と、ユダヤ人の律法に基づく合理性にあると考えられる。これは単にキリスト教徒ではないということではなく、ユダヤ人の気質の底流にある特性ともいうべきものでる。それらとキリスト教文化が融合され、後の近代に見られるヨーロッパの発展へとつながったのである。

陰謀論は完全に間違っている

ユダヤ人とは国家による後ろ盾がない期間をキリスト教社会の歴史の中で渡り歩いてきたので、生存するためには金融業しかなかった。それが今日のユダヤ人の経済的成功を礎となっているが、これをユダヤの陰謀説と唱えるのは無理がある。原因を無視すると陰謀説に見えてしまうが、その歴史を遡ると決して陰謀ではないことが理解可能である。陰謀論者が述べるような陰謀が遂行できるのであれば歴史的にもっと早い段階でイスラエル国家が誕生していたはずである。また、陰謀が世間に露呈しているようでは陰謀とは呼べない。さらに、今日のパレスチナ問題はイギリス政府の責任であり、第一次世界大戦の戦費調達の為にユダヤ人とアラブ人それぞれに国家建設を約束した二枚舌外交によるものである。よくイギリス政府がロスチャイルド卿に送った書簡を証拠としてユダヤ陰謀論をでっちあげる方々がいるが、詐欺的被害にあったのはロスチャイルド卿である。一九四七年にイギリス政府はこの問題の責任を国連に丸投げしてパレスチナ問題の責任を放棄した事実が歴然としてある。

補足説明:双頭の鷲



「双頭の鷲」をもってユダヤの陰謀とするのも間違いである。「双頭の鷲」は古代シュメール文明まで遡れる歴史的背景があり、時代によって意味合いやニュアンスは異なるが一般的には「権力」象徴するシンボルとして解釈されるものである。決して「両建て」の意味ではないのである。歴史的な経緯を無視すると陰謀論者になってしまうが、客観的なユダヤ人の歴史を調べれば単純に金融業で成功したという事実のみが明らかになるだけである。それを持って陰謀説をでっちあげるのはユダヤ人の歴史を知らない方々だけである。

補足説明:ディープステート


ディープステート(DS)なる概念の創造や通俗規定を初めて行ったのは『艦隊シリーズ』の作者でもあり歴史学者でもあった荒巻義雄である。ちなみに、荒巻義雄は『艦隊シリーズ』によって架空戦記という新たなジャンルを開拓して、後の異世界転生というジャンルを間接的に開拓した始祖とも言うべき存在である。

『艦隊シリーズ』の世界観は海軍将校である山本五十六が異世界に転生(作中では照和という「後世世界」と呼ばれている)して、日本の太平洋戦争の歴史を国家的悲劇にしないために策謀を巡らせたり架空の兵器を生み出すことで一方的に日本が有利になる物語が描かれている。『艦隊シリーズ』の『紺碧の艦隊』『旭日の艦隊』でも触れられているが、高野五十六(転生した山本五十六)が大高弥三郎首相と会談した際に、米国を操っているのは「影の政府」であると何度も描かれいる。また、作中における米国ルーズベルト大統領が影の政府に脅されるシーンもある。これはノベライズだけではなく、OVAであるアニメでも「影の政府」という言葉が使われている。

この世界観が読者に好んで受け入れられたので仮定の話として荒巻義雄は「影の政府(ディープステート)」なるものが存在すれば…という仮説を小説の中で何度も立てている。作者が歴史学と地政学を専門としているので、その仮説は非常にリアリティのあるものであった。

そういった経緯はともかくとして、『艦隊シリーズ』は戦記ものの物語としては空前の大ヒット作であり今日まで続いている架空戦記のお手本となる作品である。小説やアニメに留まらず、ゲームや漫画も創作された。メディアミックスという手法でコンテンツは広く展開された。

ちなみに、このように日本で一大ムーブメントとなるような作品は欧米にも輸出され彼らは文化の違いから日本人以上に驚きと衝撃を受け影響されるのである。荒巻義雄の説得力のある仮説は『艦隊シリーズ』の世界観を盛り上げるものであったが、海外ではこの仮説を誰も知らないので、「現実」の話として歪んだ啓蒙活動を行うようになった。当然、歴史学や地政学を背景とした仮説なのでそれなりに説得力があり『艦隊シリーズ』を知らない欧米人にとっては驚くべき真実としてこの仮説は受け入れられた。

今の陰謀論は『艦隊シリーズ』が完結する頃に誕生し、ディープステートなる言葉が逆輸入される形で日本に広まった。ディープステートの正体や思想的背景など全て荒巻義雄が『艦隊シリーズ』のバックグラウンドとなる世界観を描く仮説であるのは小説を読めば一目瞭然である。

『艦隊シリーズ』はOVAであり地上波ではリアルタイムで放送されなかったため、『艦隊シリーズ』を全く知らない人も少なくない。『艦隊シリーズ』を知らない人たちにしてみれば逆輸入されたディープステートなる通俗規定を疑ってもどこからそのような概念が生まれたのか分からないので、この歴史学者である荒巻義雄の仮説をあたかも真実のように解釈してしまうのである。これがディープステートの正体である。

陰謀論者がディープステートという言葉を使い始める十年以上前に荒巻義雄がディープステートの通俗規定を行っており、『艦隊シリーズ』の作中において様々な架空の仮説を打ち出していることから鑑みて、ディープステートのオリジナルの思想背景は『艦隊シリーズ』を裏付けとしているのは想像に難くない。時系列的にも『艦隊シリーズ』が先なので合理的に説明がつくであろう。

補足説明:ミソジニー

ミソジニー(女性嫌悪)に根ざした陰謀論は、性別に関する偏見やステレオタイプに基づいており、現実的な証拠や論拠に欠けている内容であるが、旧来の偏見に基づく理論説明が簡単に行えてしまうので、そこに合理性を見出している似非科学を理論的に推進したい人々によって実践されている。

現代社会では、ミソジニーに基づく陰謀論がさまざまな形で現れている。これらの陰謀論は、女性が特定の目的のために結託していると主張するもので、女性の能力や意図を過小評価し、性別に関する不平等を助長するものである。しかし、これらの主張は現実とはかけ離れており、客観的な証拠に基づいて反証されるものである。

まず、ミソジニーに基づく陰謀論の根底にあるのは、女性が男性に対して劣った存在であるという非科学的な前提条件である。前提条件から間違っているので所謂『資本論』と同じくミソジニーの言説は最初から破綻しているのである。単純な二元論で議論することは過去の価値観であり、近代思想を常識とする現代社会においては相容れない価値観である。それでも二元論に陥るのは単純に非科学的な議論をするのに都合が良いだけである。

ミソジニーに基づく陰謀論は、女性が男性に対して恨みや嫉妬を持っているという根拠のない主張である。しかし、性別に関わらず、すべての人の多様な価値観を認めようという思想は十九世紀に誕生しており現代思想はその延長線上にある。これらの思想は古代ギリシア四大因説を由来とするもので人類が数千年かけてつくり出した価値観である。ゆえに、ミソジニーはその理論を実践することにより自らの存在をも否定しているのである。

ミソジニーに基づく陰謀論を否定し、性別平等を促進するためには、女性に対する偏見やステレオタイプを排除することが必要である。性別による制限や不平等は、社会全体にマイナスの影響を与えるのは科学的にも明らかにされている。女性の機会を平等に保障することで、より創造的な社会を構築し、全員が自分自身の能力を最大限に発揮することができるようになるというのが近代思想を拠り所とする現代社会の常識である。

ユダヤ人の陰謀とミソジニーの共通点は、実証的な証拠や論拠に基づかず、根拠のない主張に基づいているという点である。ユダヤ人の陰謀説では、ユダヤ人が世界を支配しようとしているという主張に根拠はない。同様に、ミソジニーに基づく陰謀論では、女性が男性に対して劣った存在であるという根拠のない主張や、女性が特定の目的のために結託しているという主張にも根拠はないものである。

両方の陰謀論は、社会の問題や不満を単純化し、説明するために用いられるのである。ユダヤ人の陰謀説では、世界の問題をユダヤ人が引き起こしているという単純な説明がされている。同様に、ミソジニーに基づく陰謀論では、女性が結託して男性を支配しようとしているという単純化された説明がされるものである。両方とも前提条件から間違っているので、非科学的であり拠り所とするのは各々の妄想である。

まとめ

陰謀論に染まった方々はすでにそれを商業コンテンツとして発信しているので受け入れがたいことかもしれないが、陰謀論の基本的思想背景は『艦隊シリーズ』に由来するものである。それが様々なオカルトコンテンツと組み合わされて逆輸入されることによって現在の陰謀論は成立している。

『艦隊シリーズ』の小説の完成度は非常に高く後の架空戦記の元祖ともいうべき作品となっているので陰謀論者の方は是非一読願いたい。まるで、鏡を覗き込むかのように陰謀論の元となった架空の仮説がそこに存在するからである。

故人ではあるが財界人の藤田田も著作『ユダヤの商法』の中でユダヤ人の合理性に学ぶとこが大であるとして自ら実践して経済的成功を収めている。ユダヤ教のラビであるマーヴィン・トケイヤーも日本通であり、数多くのユダヤ人の合理性を説いた自己啓発の書籍を出版している。こういう明確に日本社会から高い評価を受けているユダヤ人もいることから、陰謀論者の言説には矛盾が生じてくるのである。ユダヤ人の歴史的背景は前述した通りである。

世の中の全ての事象をユダヤ人(またはCIAと置き換えられることもある)の陰謀として論じるのは乱暴である。これらの思想背景は全て『艦隊シリーズ』に由来するものであるので、架空のおとぎ話と現実を区別することが重要である。

代表的な例は五島勉の『ノストラダムスの大予言』であるが、これはフィクションであり小説である。ノストラダムスの原著も抽象的な表現でいかようにも解釈可能な文章であるので解釈の仕方によっては予言が的中したかのように読解できるものに仕立てられているのである。オウム真理教はこれを現実のノンフィクションと認識したので大変な過ちを犯した。陰謀論者はオウム真理教を批判するが、批判の手法はオウム真理教と同じである為、説得力が皆無なのである。常識としてフィクションはエンターテイメントとして解釈されるものである。

エンターテイメントとしての陰謀論を現実世界のものとするのはディープステートの通俗規定を行った荒巻義雄の望むところではないし、必ずどこかで矛盾するものである。あくまで陰謀論を貫くのであれば、荒巻義雄が生み出した世界観を超えるものでなければ陰謀論としてのクオリティも高くないものとなるであろう。私見にはなるが、荒巻義雄の『艦隊シリーズ』の模倣作品は膨大なのでオリジナルを超えるのは困難であると結論付けるものである。

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