2022/2乃4/フラッシュメモリー/「MERCURY FUR」白井晃演出・吉沢亮主演。

____________夜中目覚めた人たちへ。

白井晃演出作品ということで「MERCURY FUR」をふらりと見に行った。僕は見る前にパンフレットを見ないことにしている。特に大劇場では。パンフレットは[分かりたい]人に、こう見て欲しいという興業側の見方が誘導されていることが多い。(小劇場とか昔のアングラとかのパンフレットはそのように作られていないのでさにあらず。でも見る前に見ない)

しかし、世田谷パブリックシアターは大劇場であったが、観劇後に見た「MERCURY FUR」のパンフレットの内容は素晴らしかった。白井晃の演劇に対する気持ちが伝わってくる。

何でこんなに込んでいるんだ?コロナ渦に…。先日の国立劇場『南総里見八犬伝』がらがらだったぞ。松緑、菊之助も好演。冒頭の玉の演出が、ドラゴンボールを思わせてなかなか良かった。菊五郎さんの顔がなんとなく真面目だったのは、菊之助の義父のことを思ってのことか…。と、ついつい余計な詮索をしながた見たのを思い出しながら席に着く。パンフレットは、もちろん見ない見ない。

さて「MERCURY FUR」/マーキュリー・ファー。

役者たちが若くてパワー全開で、引込まれていく。最近、日本の若手俳優にあんまり乗り気になれなかったので、おっ、いいな、と、冒頭から気持ちが前のめりになる。とくに主役。日本の若手を良いなと思うのは映画『キングダム』以来か…などと思いながら見ていたた…。アウトローヒーローのような役回りでもあるが実は、そうじゃなくて暴力的でなおかつ繊細な愛の表現をする役どころで…一番感心したのは、世田谷パブリックシアターの大劇場空間が、全盛期状況劇場のテントの舞台のようになっていたことだ。もちろん白井晃の演出もあるだろう。そして後で知ったのだが、主役は吉沢亮でした。客席が埋まるわけだ。

白井晃パンフレットにこう書いている。

〈肉体のない言葉が無責任に行き交い、肉体のない愛が宙を舞う。そんな実体のない世界に私たちは生きているように思います。だから、傷つけ合いながらも必死に食らいつき、生きようとする兄弟の姿に憧憬を覚えるのです。

彼らが語る記憶の中にはどれも愛情に包まれた家族との時間がたくさん含まれています。〉

と。肉体を背景にした言葉、言葉をもった肉体。そんな唐十郎・状況劇場時代の演出のような…ことを白井晃はしている。寺山修司の演出ばりに寺山演劇もやる人なので、驚かないけれど、言葉化した肉体をもって演じるのは、この広さでは無謀だ。だけど吉沢亮とともに成功している。間違いなく。言葉をもった肉体で演じる…それはそんなに簡単なことではない。

状況劇場の根津甚八、NHKドラマの石川五右衛門役で人気を博し、のち、TVや映画に進出していったのだが、劇場公演に出演したことがあった。あの根津甚八がと、見に行ったが演技がカット割り的になっていて、右見て、左見て…みたいな。映像で生きる演技は舞台では映えない。(根津甚八でも俳優としては凄いし好き。石井隆監督の「GONIN サーガ」の根津…。)映像にでてなおかつ舞台でも演技ができる、ましてや空間を押さえ込むくらいの力量というのは、なかなか持てるものではない。(中村吉右衛門とか…)

吉沢亮は、大劇場をテントのような熱い空間にする演技をしている。なぜこんなことができるのか。演劇も演技も映画もそのなかの役者のあり方も、何か変わらなくてはいけないのではないかと…。表現として[今]であること、そして魅力があること、若いという身体の暴力性をだしても、それが嵌まっていく、感動を生む演出や演技というものがあるのではないかと思う。「MERCURY FUR」には、そういう役者はいなかったが、映画『キングダム』の時には、バイプレーヤーたちの演技が臭すぎる。自分を出す演技…。物語にじゃまになっている。吉沢亮は、物語になろとしている、物語の言葉になろうとしている。肉体ごと…。そんな印象だ。

まだまだ見続けて、考え、受け止めないと彼の魅力は全部もらえてない。

白井晃がパンフレットで言っている。

夜中目覚めた人たち。にこの演劇をとどけたい。夜中に目覚めた人たちとは…

ここなんかおかしいいんじゃない?って気づいた人たち。

演劇の表現にはもっと幅広い表現方法があるはずだと、今ある制作方法に懐疑的に思っている人たち。

こういう作り方はどうだろうと トライし続ける人たち。

タイトル戦でも実験し続ける棋士たち、羽生善治、藤井惣太…。打ち方を投げ方を試合の中でもトライして変えていく大谷昇平、ダルビッシュ有、田中将大…。勅使川原三郎も本番の舞台で変化を組み込む。本能的に意識的に。

夜に目覚めた人たちの舞台はどこか美しく愉しみを感じられる。

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