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裏浅草通信フルーツパーラーゴトー②「フルーツをもっとおいしく楽しむ本」


史上最大の試練、文字を触っているのに文章が書けない病にかかっているうちに、
ゴトーさん著作の『フルーツをもっとおいしく楽しむ本』が出版された。
こちらに気を使っていただいた上でのこの為体___。もう4年も取材を続けているだろうか。ゴトーさんのフルーツパフェの本を出そうとして、まだ果たせていない。文章が書けないのは、病じゃなくて、技術、能力不足であり、それはほとほと参っている。(改善努力はしているんだけれども…)

取材を通じて印象深かったことは、いくつもあって、それが『フルーツをもっとおいしく』にも書かれていて、よかったなと思う反面、なにやってるんだろう自分、という忸怩たる思いもある。
フルーツパーラー・ゴトーは、その名の通り、フルーツのパフェ——をリリースしている。あらゆる面でフルーツ、ファーストなのだ。クリームもフルーツを活かすようにセットされているし、パフェのデザインもフルーツが美味しく見えるようにデザインされ組みあげられている。そのフルーツに特化して編集されているのが、『フルーツをもっとおいしく楽しむ本』で、編集者なかなかの手練…いやもしかしたら元出版社にいたゴトーさんの密かな技が生きているのかも…。

さて、本は読んでもらったら、すべてで…この本を片手に、ジャムを作ったり、フルーツをカットしたりしようなかなどとほくそ笑んでいる。取材の最中に教わって、「ミソノ」のナイフをゲットした。でも、実は…包丁では以前、心に刺さることがあって…割烹仕様の有次を、花板さんに誂えてもらったことがあって…でも、素人がいかに巧くても(自分は巧くないが…)プロと素人の間には深い河がある。
 野坂昭如は、黒の舟唄で、男と女のあいだには/深くて暗い 河がある/誰も渡れぬ 河なれど/エンヤコラ今夜も舟を出す。
今、書き写しながら思ったけれど、だれも渡れないと言っているのに、舟をだすんだ…。渡ろうとするんだ。凄いな、さすがだなと…。
いやいや野坂さんは置いといて…。深くて渡れない河がある。カウンターを挟んだこっちと向こうでは。根元まで刃の入った両刃の包丁だったので、片刃で料理していた自分にはとても…さらに切れ味のために、妨錆加工がしていないので、新品の刃にレモンを充てたら30秒で錆のプリントができる。スタートアップが大変で、5分使っても…1時間手入れするのを繰り返す。そうするうちに金属の間に、野菜などの細胞が入り込んで、目の前では錆びなくなる。下手の横好きで止めておけと、つくづく思った。でも「腕は錆びても包丁は錆びさせないでね…」と、笑いながら言われた最初の言葉の意味を噛みしめて、錆びないところまでは、手入れし続けた。半ちくな自分が、二度とプロへ向かって作動しないように。でも、興味あるので…ほんとうに興味だけで「みその」のナイフを手に入れた。普通のペティナイフとちょっと違う…だいぶ違う。果物専用だということが良く分かる。フルーツを扱っているところはたいていこれですね…。割烹用有次並の大変さがある。当然のこと、僕は、指を切った。親指のあたりに穴が開いた。いや、危ないナイフではない。全然。使うほうの腕が、フルーツと「みその」を知らないだけだ。

ゴトーさんの取材のビフォーアフターで、もっともギャップが大きいのが、キュウイとアメリカンチェリー。あくまでもギャップの大きさであって、黒無花果とか、太陽の卵とか、金柑をはじめとする柑橘系、ブドウ類の多様性…感動に近い快感が食べる度に身体を巡る。印象が極端に変わったものは…という話である。キウイは、酸味の強さが印象だっが、そういうことはなくて、黄色のでとても美味しいのがあったり、程よい甘さがあったり。一つだけ苦手だったフルーツが軽く解消した。アメリカンチェリーの味は、まさにアメリカ好きの甘さで覆い尽くされた味だと思い込んでいた。しかもアメリカのプロダクツ感満載の…と思ってた。どれも同じ、それがアメリカのクオリティ。それに毒された戦後の日本の、JA的一辺倒な味。どれもこれも…。いや違う。美味しいものは美味しいのだ。気がついた。それは、他のお店でアメリカンチェリー入りのパフェを食べた時だった。あれっ?味がしない。いつもの(ゴトーさんの)アメリカンチェリーと違うぞ。そのとき味に意識がいった。味は、半分知識、半分経験の記憶に下支えられた、ある種の文化的行為——によってなりたっていると、信じている。食べるのは一番大切。でも知識も重要。美味しく食べるためのいろいろは身体に入っているほうが良い。それが満載なのがこの本だ。読んでから食べるのか。食べてから読むのか。それは自由だ。

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