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日々徒然読書録2月~3月②

 2月は『鳥の起源を追って』という文章を書くのに『雨月物語』『撰集抄』あたりの本をだいぶ読んだけれど、それとはまったく関係なく、山科の『春秋山荘』で展覧会を行なうために通っていたときのことがまざまざと思い出され、もう少し「天智天皇陵」のあたりを散策すれば良かったと悔いが残っている。山に野生の茶を探しにばかり行っていて、山荘付近の磁場をもう少し身体に含んでおけばよかったと…。鏡山に登ったり…狩り場を探したり…すればよかった。

 ということで、歴史に弱い自分は、もう一度、山科の歴史を身体化すべく読書をしている。最近思うけれど、どうにか身体化しないと、理解ができない体質のようだ。
まずはコミックに頼って…。
○天智と天武○中村真理子○原案監修・岡村昌拡
  BLぽいところがあるが全体を把握するには良いかも。どこらあたりに突っ込みを入れてこれ以降、どうやって読書をしていけばよいかの目処をたてることにした。
中大兄皇子と大海人皇子と額田王女の三人の関係は、文芸に興味をもつ人間としてはまず気にかかる。ここから入ろう。
続けてもコミック。
○天の果て地の限り○大和和紀
額田王女視点で、三人の関係を描いている。二人の皇子の死に対して優し過ぎる描き方をしているが、たぶん大和和紀の特質なのでは…と感じた。不条理であってもその死に対しては優しく、昔の仕合わせな時代を思い起こしてすべてを再び同期する。けっこうぐっとくる表現ではある。

二人の皇子と額田王から入るところが見えてきた。ということは『万葉集』。三人の和歌、そしてその関連の人たちの歌を読む。で、また漫画で。
○まんがで読む万葉集
監修が吉野朋美なので良いかなと。吉野朋美学者ではあるが歌の心が分かるのではと見込んでこのまんがを選ぶ。そして同時に入門書三冊。
△はじめて楽しむ万葉集△上野誠
△眠れないほどおもしろい万葉集△板野博行
○田辺聖子の万葉散歩○田辺聖子
+
新訂新訓『万葉集』佐々木信綱編

——
万葉集研究も日本書紀研究も分厚く行なわれているので、今更高校生のような入門をしている自分にコメントはない。歌音痴、歴史音痴、方向音痴の自分に少しでも改善が見られればとはじめた読書?だから…。日本文学全集を個人編集している池澤夏樹が、古典には歌を理解する心が必要といっているが、まさにその通りだと思うので、古典を読む時の、補助線あるいは分け入っていく道具になればと…。

で、平行していろいろ本を机に積んだが読み切れず、
[戦争を読む]の山から

◎『オホーツク核要塞』◎小泉悠
を読み上げた。自分が去年からテーマにしている…というか中川多理のPassageの選書のテーマになっている…樺太/韃靼がメインで取り上げられていて、オホーツク海の地政学的(小泉悠は地政学とは云っていない)な現実と、文学文化を重ね合わせてわくわくしながら読んだ。
国際政治chで小泉悠は、この本の紹介を自身でやっていて、サブタイトルが「文章の書き方」と「核兵器を祝福するロシア正教会」なのでどツボに嵌ってしまった。文章の書き方は非常にためになったので取り入れようと思っている。ICBMにロシア正教会の聖人の名前をつけているというはなしは、特に分析しきれないこのプーチンロシア戦争の根底を少し垣間見させてくれる。

◎高柳重信読本◎『俳句』編集部編
という特集があって、高柳重信の全句集が読める。富澤赤黄男と近いところにいて前衛俳句のもう一人の旗手である。『日本海軍』という句集があって、日本軍の軍用艦の名前を句にしている。
自分は今は富澤赤黄男(全句)や安西冬衛の結婚以前の詩、初期の山口誓子の描いたものを深く注視しているが、高柳重信の前衛句もまた興味深い。

/の部分は行がえになっている。
『日本海軍』は、松島からはじまる。

松島を/逃げる/重たい/鸚鵡かな
橋立に/見ざる/聞かざる/徒寝して

という感じで…どうなんだろう全艦網羅しているような気もするが…
で、船名のリストを見ながら気がついたのだが、日本軍の艦の名前は、歌枕に関連する土地名が多い。ロシアがロシア正教会を踏まえての聖人とすると…日本は天皇の歌を踏まえての歌枕——。

しかも高柳重信が面白いのは、リストは

大和(戦艦)まして大和は真昼も闇と野史に言ふ
武蔵(戦艦)無二の武蔵の無念無念の蝙蝠よ
信濃(戦艦)信濃晴れたり加之四月馬鹿
高千穂(新戦艦)海彦も畳を泳ぐ嗚呼高千穂
富士(空中戦艦)雪しげき言葉の富士も晩年なり/不易なるかな絶えて富士なき富士見坂/いまわれは遊ぶ鱶にて逆さ富士/赤富士や不二も不一も殴り書き

こういう風に終わっている。富士が最後で、それは空中戦艦であると…。
安西冬衛の軍艦は、惹かれている要素が強いが、高柳重信は安西冬衛よりもオタク的に惹かれつつ、自分をそこに乗せてカウンターしている前衛者でもある。富澤赤黄男が軍人でありながらのそれが故の冷徹な物質感を出してくる前衛性と合わせて、俳句モダニズムの凄じいあり様と、その表現の高さに惚れ惚れとする。

空中戦艦『富士』と軍艦『茉莉』に乗ることが当面の目標であるかもしれない。

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