SHIRO番外編✳︎負けたヒーロー✳︎
まるがおくんたちのいる画用紙の上で、今日も彼らが飛んだり跳ねたりあそんでいるとふとながほそくんが人影があることに気付きました。
「おや?誰かいるみたいだぞ。」
「なんだって?お客さんかい?」
まるがおくんが覗き込もうとしてバランスを崩しました。
3人は人影の方へ近づいてみました。
そこには全身をスーツに身を包みマントを羽織った人形が横たわっていました。
みると足の膝から下が取れてしまっていて、繋がっていたはずの足がすぐ横に落ちていました。
その人形はまったく動きませんでした。
「ねぇ、もしかして、死んじゃってる?」
「どうしよう。」
3人が慌てていると
「まだ死んでなどいない。」
人形が言いました。
「うわ、しゃべった。」
まるがおくんが驚いてひっくり返りました。
ながほそくんが近づいていき、人形を覗き込みました。
「きみ、でもすごい怪我をしているようだよ。なにかあったのかい?」
それを聞いた途端人形は拳を強く握り締め、悔しそうに言いました。
「ああ。ヒーローともあろうものが、悪のボスに負けてしまったんだ。不甲斐ない。」
3人は顔を見合わせました。
「このへんに悪のボスがいるの?」
「君は、ヒーローなの?」
「そうだ。わたしの名はゼット。この世界を守るヒーローだ。だが、負けてしまった。ヒーロー失格だ。」
「とりあえず、その足を治そうか。
痛そうだし。」
かおだけくんが言って、それから3人でゼットの足を持ち膝にくっつけようとしました。
なかなかはまらず、ゼットは痛みを訴え続けましたが何度か挑戦しやっと足が膝にはまりました。
足の関節部分をさすりながら、ゼットがゆっくりと起き上がりました。
「ありがとう、助かった。君たち、ここで見たことは内緒にしてくれないか。私が負けたなんて知ったら応援してくれる子どもたちが悲しむんだ。」
「いいけど、これからどうするの?」
「ああ、ボスに再度挑みたいところだが負けて自信を失ってしまった。ヒーローとはしばらく名乗るのをやめようと思う。」
ゼットはうなだれて言いました。
「そしたらヒーローはいったんやめて、ぼくたちと遊ばない?」
まるがおくんが言いました。
「遊ぶ?そんなことしてたらボスが襲ってくるかもしれない。あ、いや、ヒーローはやめるからいいのか。」
「君は固くなりすぎだよ、もっと気楽にいこう。」
かおだけくんが言ってゼットの背中をどんと叩きました。
「ほらほら、向こうで遊ぼう。」
3人に言われるがままゼットは画用紙まで導かれたのでした。
3人とゼットはお絵描きをしたり、なわとびをしたりダンスを踊って過ごしました。
はじめそんな時間に戸惑いつつも、ゼットは次第に楽しい気持ちになっていました。
そしてこんな時間がずっと続く日常も悪くないなと思いました。
それから数日ゼットは3人と過ごしました。
しろやくろ、ベル、ティムや小人たちのことも紹介してもらえ知り合いも増えました。
みなあたたかくゼットのことを迎えてくれました。
しかし楽しい時間がどんどん増えているはずなのに、
負けてしまったあの場面を思い出しため息がもれてしまうのでした。
それを見ていたまるがおくんたちがある日ゼットに声をかけました。
「ゼット、君時々元気ないようだけど。
大丈夫かい?」
「ああ、自分でもなんでかわからないんだ。」
「ゼット、君さ。ヒーローでいるのもヒーローでいないのももしかして辛いんじゃない?」
かおだけくんが言いました。
ゼットは驚いてなにか言おうとしましたが、言葉にできず肩を落としただけでした。
「なんていうかさ、ヒーローをやめたって決めたならヒーローじゃない生き方をもっと楽しんでていいと思うんだよ。でも、君は楽しくなさそうだろう?
だからさ、もしかしてヒーローでいるのが嫌だからヒーローやめたって言ってるだけじゃないのかなって思ったんだ。」
「ああ、まさしくその通りさ。」
「だとしたらさ、どっちも辛いんだったら後悔しない方を選んだほうがいいんじゃない?」
まるがおくんが言いました。
「後悔か。」
「そうさ。だって自分で自分の道選ぶなら、悔いなんて残したくないし、楽しい方がいいじゃない。」
まるがおくんはそう言って微笑みました。
「それに。」
まるがおくんが続けました。
「君、負けたって言ってたけどまだ負けてないよ。」
「え?」
「だってまだ君、完全にあきらめてないじゃないか。ヒーローでいることをさ。
だとしたらヒーローとしてもう一度戦ってさ、それでもし次勝ったらおあいこだろ。
諦めない限り何度だって挑戦していいし、諦めない限り君は負けてないよ。」
「そうだね。」
ながほそくんが言いました。
諦めない限り、負けてない。
その言葉にゼットは衝撃を受けました。
「そうなのか、わたしはまだ負けてないのか。」
「そうさ。あ、でもヒーローに戻ったとしてもぼくたちとは変わらず遊んでほしいな。
ゼットのことぼくたち大好きだからさ。」
「ああ、もちろんさ。」
ゼットはそう言って、まるがおくん、ながほそくん、かおだけくんとそれぞれ握手をしました。
「わたしはヒーローゼット。
悪のボスになど屈しない。何度だって挑戦するぞ。」
ゼットが叫ぶと
「ヒューヒュー。待ってました。
ヒーローゼット!」
指笛を鳴らし、飛び跳ねて3人が応えました。
「わたしは君たちに助けられた。
君たちとの時間や、かけてくれた言葉があったからわたしはヒーローに戻ることができる。
君たちも立派なヒーローだ。
本当にありがとう。」
ゼットが言いました。
「え、僕たちもヒーローだって。」
「やったね。」
「かっこいいね。」
3人は喜びました。
それからゼットは3人の元を飛び立ち、悪のボスの元へと向かいました。
再度戦い、勝ったり負けたりを繰り返し、その度に3人の元へ行っては勝った報告も負けた報告も楽しそうに話しているのでした。
✳︎ひとこと✳︎
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は落書き3人組が主に出てくる物語です。
そして新登場、ヒーローゼット🦸
うまくいかなくたって何度もチャレンジしていい🔥
諦めない限り失敗ではない、
大切なことは成功するまで続けること
そしてチャレンジを楽しむこと
様々な偉人の方々のエピソードからインスピレーションをいただきました✨
電球の発明をしたトーマス・エジソンさんは、成功にたどりつく裏で約2000回の失敗をしたのだそうです。
そんなエジソンさんの言葉。
『私たちの最大の弱点は、諦めることにある。成功するのに最も確実な方法は、常にもう1回だけ試してみることだ』。
わたしもこの言葉を胸に刻みたいと思います😊
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