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投資家同士で「読書」を語ってみた 後編(2023年6月)テキスト版

後編のテキスト版です。前編はこちら↓


renny: 今月は読書についてお話を進めてきました。前編は最近読んだ本や、本を読んだ順番を振り返って遠回りしてたなと思わせるような読書体験についてお話ししました。後半最初のテーマは、本の好みのタイプについて話してみようと吉田さんからご提案いただいています。

こんな本と出会うと興奮しちゃう!

吉田: 私はこういう本に出会うと興奮しちゃう!ってタイプがあってですね。その1冊を読むことで、いろんな本を読みたくなる本です。このタイプの本を出されることが多い著者が松岡正剛さん。「千夜千冊」というウェブサイトで長年書評を書き続けている方です。何万冊という蔵書をどう読んで、どう覚えるのか分からないけど、様々な本を紹介しながら自分の語りたいことを語っていく方なんです。日本文化を学びたいなって思ったとき、本当に役に立った本が、その松岡正剛さんの「日本という方法」という本で、これを読むと日本の古典も読みたくなるし、古典に限らず様々なジャンルの本が出てきて、私は1冊との出会いから一体何冊の本を読んだのか分からないくらい読みました。

renny: それはすごいですね。

吉田: 同じような傾向での本で、最近読んだ本だと、岩波新書から出ている「世界史の考え方」。これは2人の歴史家が、歴史書の著者を招いて3人で鼎談する本です。全部で5冊ぐらいだったかな、5人の著者を呼んで、歴史の話をするって構成になっていて、その著者が書いた本も読みたくなるし、話の中で出てくる本も読みたくなるし…。私にとっては産業革命の章が面白かったので、その後、産業革命に関する本をたくさん読んだりしましたね。この1冊と出会うことによって、そこから考えが広がるみたいな。。。

renny:網が広がるというか、アンテナがあちこちの方面に伸びていくみたいな感じですかね。たとえば最初にあげられた「日本という方法」に出会われたのは、どういうきっかけだったんですか。

吉田:昔、まだ有名じゃなかった頃のチームラボさんに仕事で関わっていて、そのチームラボさんがその松岡正剛さんが講演会をやるときのオープニング映像を作るっていう話を聞いて、なんか面白そうだなと思って講演会に参加してみたんです。そうしたら、ものすごい知識量で喋るおっちゃんが出てきて、この人の頭の中どうなってるんだろう?と思って、本を買って読んでみたっていうのが最初でした。

renny: すごく博識な人の書いた本だから、読んでみようかというような、そういう感じですね。なるほどね。1冊読むことによって次の1冊とか、本を媒介にしてスタートするというような感じだと思いますが、僕の場合は最近はそんなにないのかな。僕の場合、今までは読まなかったような本を読む一つのきっかけは、編集者さんなんです。この人が編集した本だったら読んでみようかなと思う編集者の1人が、ダイヤモンド社にいる今野良介さん。ダイヤモンド社なのでビジネス書っぽい本は多いですが、ちょっと普通のビジネス書とは違うかなという内容で。だから今野さんが新しく編集にたずさわった本なら読んでみようかなと。そのおかげで普段は読まなかったような本と出会ってるようなとこありますね。

吉田: 編集者が誰ってあんまり表に出てないですよね。

renny: そうですね。でも本を作られてる方に聞くと、編集者は本の出来上がりに対して関与度が大きくて、例えば本のタイトルとかも編集者の人がつけている話はよく聞きますね。だからこの本が面白そうだな、って思うきっかけの一つに、今野さんが編集してるかどうかを見てたりします。

吉田: 本の後ろの方に編集者の名前が出ているのかな。

renny: 今野さんのTwitterを見てたりします。ただダイヤモンド社の本とかだと、編集が誰とか書いてありますね。

吉田: そうなんですね。

renny: 僕は最近、編集者の方とか、どういうチームで本ができ上がったのかっていうようなので、本を選ぶというか出会うというようなことがあるのかなと。

吉田: なんだか投資信託の選び方とちょっと似てますよね。

renny: そうかもしれないですね。価値があるものを知るというか、読む、学んでみる、調べてみるとかっていうのは確かに似てますね。だからある意味、今野さんは僕にとっては本のファンドマネージャーみたいなところあるのかもしれない。

吉田: なるほど。

renny: 僕は1冊の本を読むというよりは、そういう本のファンドマネージャーさんに意見を求めてるところはあるのかもしれないですね。先ほどの吉田さんの1冊の本を読むことでいろんな本を読みたくなる、というきっかけも、著者の方のお話を聞かれたのがきっかけだったので、この人面白いなって思う人が紹介するとか、その人の考えのベースになったものが、どういう本だったのかっていうのを聞くと、本が読みたくなるという面は大きいでしょうね。

吉田: そうですね。

読書体験が人生を変える

renny: だからそういう意味では、たとえば投資の本でも、どういう本に影響を受けたか、とかっていうようなのが結構あるのかなと思います。前にお聞きしましたが、改めて投資でこの本に大きく影響を受けたとか、投資方針やスタイル、考え方に影響を受けた本を今挙げるとすれば何になりますか?

吉田: 私は結局、将棋の羽生善治さんなんですよね。最終的にそこに行き着いた感じはあります。

renny: なるほどね。僕は前編でも言いましたけど、本の読む順番とかが変わってたら、何に投資して、今どういう資産を持ってるかが、かなり変わってたんじゃないかなと思ってます。投資を始めた頃に読んだ本で、バンガードのボーグルさんの「インデックスファンドの時代」、チャールズ・エリス「敗者のゲーム」、バートン・マルキール「ウォール街のランダムウォーカー」とかも読んで、そして前編でもお話した「貧乏人のデイトレ 金持ちのインベストメント」の影響を受けて、パッシブ運用に傾いていきました。先日「ウォール街のランダムウォーカー」の僕が持ってるのは古めのバージョンではありますが、改めてページをパラパラめくってみたんです。たとえば価値について言及している部分はあるかなと探してみると、企業価値の話ではなく、市場がそれをどう評価してるかというバリエーションのことを価値だと書かれていました。あの本を読んでいたら、企業の創り出す価値とかそういうものに関して、あんまり意識が向かなかったんだろうな、というようなことを今読み返して思いました。吉田さんの過去の投資のお話を伺っていると、パッシブには関心が向かなかったっていうように理解をしていますが、やっぱりこの手の本に触れられることも、あんまりなかったっていうことなんですかね。

吉田:いや、大学生の時に読みました。「インデックスファンドの時代」「敗者のゲーム」「ウォール街のランダムウォーカー」は有名な3冊だからみたいなことで。それを大学の授業中(たしか労働法だった)に、授業を無視して読んでいて、そのせいで単位落としそうになって卒業が危うかった記憶があります。でも投資本の名著という話だったけど3冊とも結論が同じじゃん、とその後読み返すこともしなかったですね。

renny: なるほど。あれらの本はすごく効率よく資産を形成できるような方法を語っているように思うんですけれども、そういうふうにパパッと割り切れたのはなぜですか?

吉田: 世の中そんなに簡単なわけないよ、と疑ったのが大きいかな。(補足;2000年春に投資をはじめてすぐにITバブルが崩壊し、アクティブもパッシブも関係なくダメな時期だった影響かも)

renny: それは前編に出てきた効率的市場仮説に対しても、そういうことだっていうことなんすかね。

吉田: そうですね。

renny: 吉田さんが大学生の頃だと、パッシブ運用やインデックスファンドは格段に知名度も認知度も低かったんじゃないかなと思うんですけれども。

吉田:インデックスファンド自体、ほとんどなかったんじゃないかな。野村証券や大和証券がひっそりと売ってたような記憶もありますが。

renny: でも最初にそういう本を読んでみようと思われたわけですよね。

吉田: そうですね。どんな本読んだらいいか分からないから、有名な本ということで、インデックス系の有名な3冊、グレアムの「証券分析」、「賢明なる投資家」とか、あとは「バフェットさんからの手紙」。そういうのを一通り全部読んでみました。

renny: そのときのグレアムさんやバフェットさんの本の印象はいかがでしたか?

吉田: そのときは会計が分かっていなかったので、読んでも理解できなくて。その後勉強してわかるようになったっていう感じです。

renny: なるほどね。今、投資の名著が何冊か出てきました。これは投資に限った話ではないですが、1冊で人生を変えるというと、あまりにも大げさなんですけれども、読書で何か劇的に価値観が変わるようなことってありましたか?

吉田: そこまで変わったっていう体験はないかな。羽生善治さんの「決断力」は、投資家としての心構えや考え方を学ばしてもらった点で、価値観を作る上でとても役立ちましたが。

renny: でも前編の最後の方で、最初に手に取った投資の本が、短期間にものすごく儲かるとかっていうような本でしたよね。そこからスタートしたのが、個別の会社をじっくり調べて投資しよう、というスタイルになっていかれるところで、本の影響はどういうものがあったのかなと。

吉田: たぶんグレアムとかバフェットの読んだときに会計の知識がなかったので、これは勉強しなきゃ!と感じたのはたしかですね。2000年春のITバブルの頂点で投資を始めて、すべての株価がどんどん下がっていくのを目の当たりにして、軽い気持ちで投資をはじめたことを反省していた頃だったから、というのもあるかな。

renny: そういう意味では、会計の勉強を始めようと思わせた、というところでは当時読まれた本の影響っていうのは大きかったってことなんですかね。

吉田: そうですね。

renny:でも吉田さんの場合、かなり良い深いところまで会計の勉強されたっていう記憶があるんですけど。。。

吉田: やりだすとやりすぎちゃうのは性格ですね。今振り返ると何で税理士試験まで受けたんだろうこの人は?って思います。

renny: そこまで深くやり込んだこともあって、ベースが整うと、グレアムさんやバフェットさんの言ってることが、ずっと腹に落ちるようなところがあったっていうことなんですかね。

吉田: そうですね。

renny: なるほどな。たしかにパッシブやインデックスファンドとかから、アクティブ投資の方に行こうと思うと、やっぱり会計の知識とか知識とか、それやってて面白い、楽しいと思えるというのがないと、なかなかそちらを取り組むのって難しいんだろうなとは思いますよね。

吉田: そうですね。でも算数が苦手でなければ、なんとかなりそうな気もします。

renny: けど借方・貸方という表現を見るだけで、ちょっとアレルギーを起こすとかっていう人も世の中にはいるのかなとかって思ったり。

吉田: でも投資に関係なく生きていく上で、ある程度はわかった方がいいと思いますけどね。

アクティブファンドや月次レポートの可能性

renny: そうなんですよね。たとえばアクティブファンドの投資先の決算書の変化を見ていると、どの会社にも何らかの発見や興味を掻き立てられるような内容があります。だからそういうのを見つけようと思うと、やっぱり会計の知識はあった方が良いにこしたことはないし、より楽しくなってくるのかなというのはありますよね。

吉田: そうですね。

renny:この間もSNS見てたらアクティブファンドはボッタクリだと批判されていて…

吉田: あー、そういう人もいるんですね。

renny: かくいう僕も昔はそんなことをブログに書いてたこともあるので、そう見えても仕方ないのかな。月次レポートがスッカスカの内容で、最新の月次レポートしか見れないアクティブファンドは、ボッタクリって言われても仕方ない気はします。一方で最近だいぶ変わってきてるなというのを思うのは、会社と投資家のコミュニケーション(IR)や株主総会。そういう変化に興味を持たせることが、アクティブファンドにはできると思います。また、会計も面白いと思わせるような材料をアクティブファンドなら提供できると思います。だから月次レポートも、たとえば吉田さんが松岡正剛さんの「日本という方法」に出会った時のように、月次レポートを読んだことがきっかけで、関心の幅が広がるきっかけを提供できると思うんですよね。鎌倉投信さんの結いだよりには、投資先の社長さんオススメの本が出てきたりすることもありますし、月次レポートをきっかけに投資先のこの会社を調べてみようという機会をもらってたりしています。そういう可能性がアクティブファンドにはあると思うので、もっとやってもらえると面白いですし、そういうところからファンド運営してるチームの人たちの価値観が読み取れるようなところもあるんじゃないかと思うんですよね。

吉田: 知的好奇心を刺激してくれるものという点では、良い月次レポートもありますからね。

renny: だからアクティブファンドを使って投資する一つの付加価値になってくると僕は思います。もちろん、別にファンド使わなくてもできると思います。実際、吉田さんのように自分で新しいアンテナをバンバン建てる方もいますし。

吉田: でもこんな変態はなかなかいないかも…。でも自分でお金を出したファンドのレポートなら少しは読むと思うんです。なので半分強制のように読んでいるうちに、すごく興味があるものを発見したり、まったく知らなかったけど新しく興味を持つ分野とかが、きっと出てくると思うので。

renny: そうですよね。知的好奇心の幅を広げることを意識した発信が増えてくると、もちろんねそういう発信に興味のない人にはボッタクリになるのかもしれないですが、そこを起点に新しい知的探索が始まるとかっていうようなメディアになっていくと思います。月次レポートにはそういう可能性があると思うので、このことをポッドキャストでも強く訴えておきたいなと思いますね。最後に、前編の冒頭でSFの話がありましたが、吉田さんは今どんなジャンルの本を読んでみようかなとかと強い関心を持ちの方面でありますか? 

吉田: 今考えてるのは、自分から見て一番内側と一番外側の2つの分野。一番内側は脳科学で、外側は宇宙物理学。その両極端の分野の本をなるべく読むようにしたいと思っているんです。

renny: なるほど。そこからまた投資アイデアが生まれてきそうですか?

吉田: どうだろう。

renny: こういうふうな話をしていると何か出てくるのかもしれないですね。投資のアイデアって知的興味を刺激してくると何かが降りてくることが間々あると思うんで、また最近読んでる本とか、そういうもので面白いものがあったらというタイミングで、ポッドキャストでも作っていきたいなと思うんで、またこういう機会を設けさせてください。

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