投資家同士でJリーグクラブの決算書を読んでみた 前編 テキスト版
こちらのポッドキャストのテキスト版です。
renny:2023年8月の月次レポート研究所のポッドキャストは、月次レポートや投資信託とは関係のないお話になります。
吉田:いままで奇数月は、投資信託の月次レポートの読み合わせをして、偶数月は投資と関係ありそうな他の話をしていこう、と進めてきました。前回の偶数月の6月は読書の話をしたんですよね。
吉田:そうしたら投資とはあまり縁がなさそうな方がアクセスしてくれた雰囲気だったので、何かそういう人たちにも投資の世界に触れるきっかけになるようなテーマが、読書以外でも何かできないかなと。そんな時、Jリーグの公式ウェブサイトに、各クラブの財務諸表がダウンロードできるページを見つけて、これを題材にサッカー好きな人が投資に興味を持ってくれるきっかけにできないかなと思ったんです。
renny:僕もJリーグはほぼ毎週のように見てます。今回、吉田さんから教えていただくまで、あそこまでまとまったデータが開示されてるのは知らなかったので非常に興味深かったです。吉田さんは昔からブログに結構サッカーのことも書かれていますが、Jリーグってご覧になるんですか。
吉田:見てます。90分全部見ることはたまにしかないですが、ハイライトはチェックしています。
renny:なるほど、贔屓のクラブとかあるんですか?
吉田:ないんですよね。
renny:僕はあちこちでアピールしてる通り、FC東京をずっと応援してます。今日はFC東京の話は出るかどうかはなんとも言えないですが、吉田さんの方で決算書等々ご覧になって、ブログに記事を書かれてたので、それを材料にお話していきたいなと思います。まずはどちらのクラブからいきましょうかね。
ヴィッセル神戸の決算書を読む
吉田:決算書と連動するツッコミどころがある旬のクラブというと、やはりヴィッセル神戸かなと。
renny:イニエスタ選手が退団された一方でクラブは絶好調ですよね。大迫選手がすごい。武藤選手もすごいですけど。イニエスタ選手が退団したヴィッセル神戸の財務諸表をご覧になって、どんなことをまずお感じになったんすかね。
吉田:まず、イニエスタの年俸が当初32億円。これがかなりの負担で基本は赤字になっちゃうんですよ。これをどこで補っていたかというのが損益計算書から読み取れます。スポンサー収入が急激に伸びているのと、特別利益でガンガン収入として上がってくるっていう現象が起きています。これは両方とも楽天からの援助で、何とか帳尻を合わせている状態だったんです。
renny:2017年に33億円だったスポンサー収入が、2018年は62億円、19年は74億。特別利益は2020年52億、2021年33億、2022年31億。ものすごい金額が投入されてますよね。
吉田:こうした楽天からの援助でなんとか当期純利益を黒字にしてる状況です。今の楽天の経営状況を考えると、これまでのようにヴィッセル神戸を支援し続けるのが無理な段階になっています。これがなくなったらイニエスタの年収をカバーできない。イニエスタ自身は神戸で引退したいと話していたと思いますが、楽天の事情でちょっとそれは無理になってきたんだなっていうのが、決算書でよくわかるんです。
renny:たしかに2019年のトップチームの人件費が69億とかやってますもんね。すごい金額ですよね。でもその後も63億、50億、48億っていうような感じで人件費がすごいなと。コロナもあって2020年、2021の入場料収入とかっていうのはどうしても小さくなってしまいますが、他のクラブとかの決算書を見て、やっぱ入場料収入が売上に占める割合って結構少ないんだなっていうのを改めて感じました。
吉田:そうですね。入場料収入は意外と少なくて、スポンサー収入がメインかなっていうところですね。例外的に入場料収入の割合が高いのは浦和レッズかな。
renny:今のお話は損益計算書のお話でした。ブログの記事内でJリーグのクラブライセンスについて書かれていましたよね。債務超過または3期連続最終赤字ではダメと。ヴィッセルの貸借対照表はどんな感じなんですか?
吉田:債務超過にはなってないですね。ヴィッセルの場合は3期連続で最終赤字の部分を気にしないといけない。たしか強制的にJ2降格とかになるんだったと思います。
renny:今はコロナの関係とかで特例措置みたいなのがあるんですね。2025年1月期決算から特例措置なしになる。
吉田:だからヴィッセルはそれまでにトップチーム人件費を収入に見合った額に納めていかないといけない。
renny:あとはJリーグに有名選手が移籍してくるかどうかは、為替の影響もありますよね。Jリーグができた1993年頃の為替って、スター選手がどんどん日本にやってきてた頃はまあまあの円高でしたよね。
吉田:あの頃は1ドル100円を超えて80円台にもなった時期だったんですよね。
renny:なるほどね。だから為替が強いと、またスター選手がやってくるかしれないですが、為替がその当時のところ戻るっていうなかなかちょっと考えづらいのかなとかって思ったりもしますよね。
吉田:そうですね。それにあの頃の日本は家電メーカーも元気だった頃で、世界に目を向けても有名なチームのユニフォームに日本企業の名前って結構入ってた時期なんですよね。ユベントスがソニーだったり、マンチェスター・ユナイテッドはシャープとか。
renny:そんな時期ありましたね。今やそんなのないですよね。最近で覚えているのはチェルシーの横浜ゴムがありましたよね。
吉田:今、目立つのはアラブ首長国連邦のエミレーツ航空。ビッグクラブのユニフォームには必ず付いている印象。
renny:アラブの人たちはお金が余ってしょうがないのかもしれないですけどね。しかしやっぱりイニエスタ選手をもうちょっと見たかった。僕も何度か生で観に行きましたが、相手チームなんで決めてくれるなって想いでしたが、やっぱりお客さんの盛り上がりというか、観客動員とかに影響してたと思います。それでも見れてよかったなとは思います。ヴィッセル神戸は楽天がこういう調子だと、今年それなりにいい成績残したとしても、これからどうするんだろうなっていうのありますよね。
吉田:人件費をかなり削っていかないと難しいですね。
renny:そうですよね。あと物販収入を見てると、やっぱりイニエスタが入団してからぐっと上がってるんですね。
吉田:そうですね。
renny:とはいえ物販収入もやっぱりスポンサー収入と比べたら全然かなと思うんで、スポンサー収入ということも大事なんだっていうことはよくわかるのかなと思いますね。次のクラブに行きましょうか。
鹿島アントラーズの決算書を読む
吉田:次は鹿島アントラーズ。2019年の7月にメルカリが筆頭株主になったときニュースで、日本のトップクラブがこんな額で買えるんだみたいなの驚きました。
renny:ブログに書かれている株式の61.6%の対価が15億8800万円だから、100%ベースでいくと株式価値25億7800万円。その金額がこんなもんなんだっていうふうに思われたってことですね。
吉田:そうですね。まず2019年1月期、売買があった直前決算の貸借対照表を見ると、純資産は21億6600万なんですよね。純資産に対してたった1.2倍の企業価値ということになるんですよ。
renny:第三者割当じゃなくて、株式取得だけでこれだったんですよね。今時のPBRで言うと1.2倍。日本の上場企業でも1倍超えを目標にという話よりはマシですが、25億円ぐらいでJ1のクラブが取得できるっていうことは確かに驚きというかそんなもんなのかなっていうのがありますよね。
吉田:Jリーグ設立以来の強豪チームっていう印象だったアントラーズが、純資産に対して大体1.2倍で売買されてしまうんだっていうのにまず驚いたんですよね。
renny:なるほどね。あと2019年1月期のバランスシートを見ると、固定資産が多いんですよね。FC東京のバランスシートを見てると、FC東京は固定資産が小さくて、自分ところで設備とか施設を持てば持つほど固定資産が膨らむと思うんですけれども、FC東京は、自分たちで持ってなくてどっかから借りてる、おそらく東京ガスだと思うんですけれども、そういうの固定資産の割合がすごい少なかったなっていう印象がありました。アントラーズの場合はやっぱり固定資産がそこそこ大きいのかな。流動資産とのバランスでいくと、倍まではいかずとも固定資産の方が大きいっていうのは、こういうもんなんだなっていうのが結構発見ではありましたね。ただ一方で、それに見合う調達サイドの方は株主資本になってるんで、その点は健全かなとは思ったんですけどね。
吉田:そうですね。貸借対照表で見ると企業価値が低いように感じますが、評価が低くなった原因は、損益計算書を見てると、そんなもんなのかなと分かる内容で。経営が結構経営が不安定なんですよね黒字になったり赤字になったり。なんかチームのイメージと違うんですよね。
renny:堅実さがなくて結構浮き沈みが激しいって感じですね。
吉田:そうなんですよ。クラブのメイン収入は大体3本で、先ほど話してきたスポンサー収入と入場料収入に加えて、Jリーグ配分金。これはDAZNに放映権を一括でJリーグが売って、成績がいいチームに多く配分してあげるものです。この三本の収入に見合ったトップチームの人件費や運営経費をやりくりしていくのが、健全なクラブ経営と言えると思います。でもアントラーズの場合は、その他収入という項目に頼っているような雰囲気があるんです。
renny:結構大きいですね。
吉田:その他収入の項目の解説がJリーグのページに出ていて、選手の移籍金とか大会の賞金とかが含まれるっていうことなんですよね。
renny:2019年は22億6100万円がその他収入になっていて、売上高3割以上がその他収入になっていて、スポンサー収入より大きくなってるんですね。これって誰か移籍があったんでしたっけ?っていう感じですよね。
吉田:アントラーズのサポーターだったら詳しいんでしょうけどね。(※補足…2017年は柴崎岳、2019年は昌子源の海外移籍でその他収入upか?)
renny:なるほど。
吉田:その他収入が大きくなった年だけ黒字になるっていうような経営スタイルになっちゃってるんですよね。
renny:なるほどね。浮き沈みが激しいというか経営になってたんですね。ブログに載せられているのは、元々のオーナーだったときの数字ですよね。
吉田:でもオーナーがメルカリになった後すぐにコロナがやってきて、どう変わったかはまだ判断できないんですよね。
renny:そうなんですね。その当時の株式売買は平均利益の22.4倍で、の株式投資で言うPER的に見ると22.4だったっていうことですかね。
吉田:そうですね。そうすると適正なのかな。純資産に対しては安いけど、利益で考えるとこんなもんかなっていう。
renny:しかも5年の平均の利益で計算してますけど、1年とかで取ると赤字の年もあったりするので、変動幅を考えると、まあまあいいお値段だったのかもしれないですよね。
吉田:そうですね。その後コロナが来て、赤字になって増資をメルカリが引き受けるようなことになってるので、安い買い物とも言えなかったのかなっていうところです。
renny:去年の5月に第三者割当をやってるんですか。13億7200万円を新たに増資してたんですか。こういう事業やってると、入場料収入がガクンと落ち込むと資金繰りにも影響出ますもんね。昔はジュビロとアントラーズでタイトルを分け合ってたような時代みたいなのもありましたよね。そういうときに儲かってたのかどうか分からないですが、将来のために投資できるような資本の蓄積っていうのが、あんまりJリーグのクラブだと起こりにくいんですかね。経費で出ちゃって、利益がとしてクラブに残らないというか、そこら辺どうなのかなとかって思ったりもしますよね。
吉田:なかなか難しいですよね。
renny:トップチームの人件費とかも見てるとドンと上がってたりするんですよね。アントラーズ2018年ときに13億8000万円だったのが、2019年になると31億5700万とか一気に7億、8億近く人件費が増えて、その他収入が増えた分、使ってしまう。。。
吉田:こういう経営をしちゃうと、選手の育成もうまくいっていないと難しいですよね。
renny:そうですよね。そういう意味でアカデミーの関連経費とかアカデミーの関連収入とかっていうのも気になるところす。僕のFC東京はアカデミーで育てた選手をトップチームに上げて、トップチームからその海外に移籍してっていうようなケースが結構増え多いんで、そのあたりのクラブ間の差が個人的にはすごく興味はあるんですけど、調べるには至ってないんで、ちょっと時間があったら調べてみたいです。メルカリが経営されて、今後どういうふうにしていくのかっていうのが、何か他とのクラブの違いが出てきたら面白いとは思うんですけどね。こんな金額で日本の強豪クラブが買えてしまうのか、とブログには書かれていましたが、ちょっとしたお金持ちだったら手が届くかなとかっていうふうに感じますよね。
吉田:たしか去年だったと思うんですけど、Jリーグのクラブも上場していいですよと規約が変わったんです。
renny:FC東京の筆頭株主はミクシィなので、そういうオーナーというかそういう会社が主導権を持ってると、上場を検討するというようなことも出てくるのかもしれないですね。プロ野球の球団は新聞を売るために始まったみたいなところがあるじゃないですか。それがプロ野球でいうとディー・エヌ・エーが経営権を握って、本業の宣伝広告はもちろん、スポーツを事業として成り立たせたいというかそういうような意思をお持ちで経営されてるんだろうなとは思うんで、上場とかっていう話も今後出てくるのかもしれないですよね。
吉田:そうですね。
renny:後半では海外のクラブなんかでは上場しているクラブもいくつかあるとかっていうようなお話を、おそらくすることになると思います。前半はヴィッセル神戸と鹿島アントラーズの決算書を眺めてみましたが、ここまでのところで、どんな発見がありましたか?
吉田:自分が応援しているクラブの経営が安定してるかどうか見るには、入場料収入とスポンサー収入に見合ったチームの人件費とかになってるかどうかがポイント。そしてそのバランスがうまく取れた状態で、良い成績を収めてるチームこそが優秀っていうことなんだろうなっていうふうに思います。
renny:そうですね。たしかサガン鳥栖はフェルナンド・トーレスを呼んできたおかげで財務諸表がえらいことになったケースもあったと思うんで。そこら辺はちょっとまた別で調べてみたいなと思います。
後編へ続く