投資家同士でJリーグクラブの決算書を読んでみた 後編 テキスト版
このポットキャストのテキスト版です。前編はこちらをご覧ください。↓
横浜F・マリノスの決算書を読む
renny:前編ではJリーグのヴィッセル神戸と鹿島アントラーズの決算書を見ながらお話をしてきました。3つ目のクラブはどちらへ行きましょうか?
吉田:最近チーム成績も好調な、横浜F・マリノスを取り上げたいと思います。
renny:2019年のシーズンはもう僕の応援してるFC東京と最終節まで優勝を争っていました。FC東京は6対0ぐらいで勝たないと優勝できない状況で、見事に散りまして。僕も現場に行きましたが、たしかその試合はリーグ戦史上最大の観客動員でした。マリノスがシャーレを掲げるところは見ることなくスタジアムをあとにしましたが。今年もタイトルに近づいている印象で、うらやましいなというふうに思ってるクラブです。ここ数シーズン非常に安定した成績を残しているマリノスですが、こちらのその決算書ご覧になっていかがでしたか。
吉田:好調なチームの成績とは裏腹に、まず貸借対照表がヤバイんです。
renny :これはブログに書かれてますけれども、2023年1月期のバランスシートはなかなかアンバランスなバランスシートになってますね。
吉田:流動負債が流動資産の倍で、自己資本比率も5%という状況です。
renny:前編でもお話しましたが、コロナで猶予期間になっているので、債務超過や3期連続赤字でクラブライセンスがJ1じゃなくなる措置を取られませんが、そういう危険を感じさせるようなバランスシートですよね。
吉田:そうですね。歴史を振り返ると、どうも債務超過が駄目という規約を作るきっかけになったのは、マリノスが原因だったのではないかという雰囲気があります。
renny:なるほど、そうなんですね。でもマリノスといえば日産ですよね。ゴーンさんのいた頃の日産っていうことですね。
吉田:意外にもゴールさんがサッカーに関心があったようで、過去のインタビューを振り返ると、日産の社員を盛り上げるためにはマリノスが必要だ、みたいなことを言ってるんですね。その当時は昔日本代表の監督だった岡田武監督がマリノスの監督で優勝したりして、強かった時期ですが。
renny:ブログには2012年から2015年の財務諸表を紹介されていますね。日産自動車からの支援として特別利益が計上されていた時も債務超過だったんですね。
吉田:2007年に債務超過になって、その後リーマン・ショックが襲来し、スポンサー収入も減りだして、どんどん債務超過の額が増えていったんです。
renny:でもこの流動負債が債務ではあるけど、回収を迫られないような債務だったっていう可能性が高いわけですよね。
吉田:なんでこれが可能だったのか、この情報だけだと詳しく読み取れないですが。
renny:銀行借入であれば返さなきゃいけないでしょうけど、借りたまんまで返さなくていいような債務が積み上がっていた可能性はありますよね。
吉田:そうですね。
renny:流動負債が2012年は15億だったのが、2014年には23億まで膨れ上がってるんで、どぎつい債務超過が続いてたんですね。この間、業績的にもやっぱり赤字は赤字なんですよね。
吉田:そして2013年1月期から3期連続で赤字か、2015年1月期で債務超過だったら、ライセンスを剥奪されるという規則ができたので、何とか帳尻合わせをしようとした形跡が見て取れるのが、この時期のマリノスの財務諸表ですね。
renny:2015年にシティグループが出資して資本金が膨らんでるんですけれども、こんな金額しか入れなかったんだ、という感じですね。
吉田:意外と少ないんですよね。
renny:ブログで書いてらっしゃいますが、クラブ施設のマリノスタウンは確かにありましたよね。
吉田:みなとみらいにあって、そこで私も一度サッカーしたことがあるんですが、すごくいい施設だったんですよ。
renny:僕も近くのビルから見て、すごい施設なんだなと感じた記憶はありますね。でもこれがだから結構その固定資産として大きかったんですかね。
吉田:たぶん借りてたんじゃないかな。
renny:バランスシートを見るとそんな大きな固定資産があるわけでもないけどないですからね。
吉田:たぶん日産が支援して作ったんだろうな。
renny:むしろ日産の都合でむしろなくなっちゃったって感じですかね。
吉田:あと横浜市の都合もあったらしいです。
renny:なるほど。でも財務データを拝見してると、マリノスっていうとシティグループが出資して以降、選手の獲得とか監督の招聘とかで独自のネットワークがあるように思ってたんですが、案外シティグループってメルカリがアントラーズに突っ込んでるほどお金入れてないんだなと。
吉田:そうですね、たしか株式の2割しか持ってないはず。
renny:なるほどね。でも、このタイミングから見ると、そもそも債務超過だった会社だったので、これ普通に見たらここに投資しますか?あるいはお金貸しますか?って言ったら、なかなか貸せないとか投資できないレベルですよね。
吉田:ヤバすぎますね。
海外の上場サッカークラブ
renny:前編のところでJリーグのクラブが上場できるようなことにもなったというお話がありましたが、ちょっとマリノスのこのバランスシートだと上場は難しいですね。財務が弱いからこそ上場だっていう考え方もあり得るのかもしれないですけれども。たまたま僕ここ1週間ぐらいで、村上世彰さんの「生涯投資家」を読みまして。 そのなかで阪神電鉄、阪神鉄道の話で阪神タイガースの上場の話とか出ていて、プロ野球も上場うんぬんという話があの頃、ホリエモンが出てきた頃にそういう話があったとは思います。前編でも話しましたけど、スポンサー収入が売り上げの大半を占める会社だとなかなか上場っていうのには合わないのかなと。やっぱり入場料収入であるとか、それ以外の物販の割合が多くないと厳しいのかなと思ったりもします。一方で、海外なんかは、僕が調べたところだと、マンチェスター・ユナイテッドなんかが上場していますが、他にも上場してるクラブってあるんですか?
吉田:有名なところはイタリアのユベントスと最近鎌田選手が移籍したラツィオ、ドイツはボルシア・ドルトムント、オランダのアヤックスが上場しています。
renny:ブランド力がありそうなクラブが多いですよね。ドイツはここ10年以上タイトルを取っているバイエルン・ミュンヘンが非上場で、時々それを脅かすドルトムントが上場会社っていう面白いですね。プレミアリーグでいくとマンチェスター・ユナイテッドは、かつてほどは強くないというか、今はもう圧倒的にもう一方の、マリノスで出てきたシティ・グループのマンチェスター・シティの方が存在感ありますね。吉田さんはヨーロッパのクラブの試合なんかもご覧になるんですか。
吉田:昔からバルセロナを追っていて、このところイマイチでしたが、最近、下部組織から若い選手がどんどん出てきて、ちょっと面白くなってきたところです。(※補足…Jリーグができる前からサッカー観ていたので、海外クラブの方がなんとなく身近なんですよね。バルセロナはヨハン・クライフ監督のサッカーに感動して以来の追っかけです。)
renny:僕も勤務先で若手社員の人とか話してると、Jリーグを全然見てなくてですね。どこのクラブが好き?どこのクラブを応援してるの?と聞いたら99%、海外のクラブなんですよね。あともう一つ、若い人と話してると、思いのほか皆さんバスケットボール、NBAを見てるんですよね。だから僕らの世代だとプロ野球やJリーグですけれども、若い人たちは全然違うので、上場を考えたりすると、若い世代のリーチがないとなかなか難しいのかなって思ったりもします。
吉田:そうですね。
renny:僕も少しだけマンチェスター・ユナイテッドの決算書を見てると、やっぱりバランスシートのサイズとかってJリーグのクラブに比べると、遥かに大きいような印象で。スポンサー収入もやっぱり馬鹿でかいんですかね。
吉田:そうですね。やっぱり強豪クラブのユニフォームに会社の名前が載るという宣伝効果がすごい!っていう扱いなんで、広告料収入が凄いですよ。
renny:やっぱり成績が良くないとスポンサーが付かないので、成績と収入がすごくリンクするでしょうし、やっぱり景気の波の影響もありますよね。
吉田:そうですね。意外とサッカー界の動向を見てると、景気の波とか経済の動向と関係しているんですよね。昔スペインリーグに有名な選手が集まってきた時期は、EUもスペインの経済も絶好調の時でした。しかもその頃スペインではスポーツ選手の所得税をすごく減額するような法案を通して大盤振る舞いだったんです。リーマン・ショックをきっかけにスペイン経済が崩れていく中で、スペインリーグからスター選手がいなくなっていったんです。
renny:なるほどな。前編では為替のお話がありましたけれども、税制を少し変えてみるっとスター選手が来るとかっていうようなことも、考えられなくもないってことなんですね。ちょっと投資へ話に持ってっちゃうんですけれども、吉田さんが今回Jリーグのクラブや海外のクラブの決算書とかご覧になって、株式投資の対象となり得るかどうか? そこらへんはどんなふうにお感じになりましたか?
吉田:投資対象として魅力があるのは、チーム成績が安定していて、常にいい若手選手が出てくるようなクラブ。さっき紹介した海外の上場してるクラブだと、ドルトムントやアヤックス。
renny:ハーランドはドルトムントが一番大きく鞘を取った感じですよね。おそらく。
吉田:そうですね。そして今年はベリンガムをレアル・マドリードへ売却。
renny:そしてその選手達がドイツ人じゃないところがすごいですよ。ハーランドはノルウェー、ベリンガムはイングランドでしょ。育成もそうなんでしょうが、スカウティングもすごいものがあるんでしょうね。
吉田:だからそういうチームなら投資価値あるんじゃないかな。自分が好きで追いかけている分野なので、他の投資家に先んじて投資できそうだから。
renny:なるほど。でも育成とスカウティングがうまくいかなくなると、いっぺんにしんどくなるのかなと思ったりも。
吉田:そうなんですよね。アヤックスは一時期低迷していましたよね。
renny:前編でお話した鹿島のやりくりなんかを見てると、その他収入の浮き沈みが激しくて、それに合わせて人件費も膨らまして、クラブにお金が残らない、利益が出ないような経営をしている印象を受けました。上場すると多少そういうところの規律は出てくるのですかね。
吉田:たぶんそうでしょうね。なんでこんな経営してるんだ!って株主から追及されますよね。
renny:さっき村上世彰さんの話の中で、阪神タイガース上場の話が20年近く前にあったりしましたが、そういうケースが一つあると、面白そうなんだけどなって個人的には思います。スポーツクラブが株主総会をやったらどうなるのかな?IR資料もどんな説明するのかな?と。アカデミーにいる有望株はこの子たちです、みたいなことをやったりするのかな。そう考えていくと、上場してみるのも面白いのかなとは思います。あとは上場が仮にあったとして、投資する投資家が投資するかどうかですね。Jリーグだと浦和レッズは売上に対する入場料の割合がそれなりの数字になっていても、それ以外のクラブはスポンサー収入に依存している様子なので、入場料を伸ばすことで利益を蓄積をして、将来に再投資することができるんじゃないかな。
まとめ?
renny:今回、Jリーグのクラブや海外のクラブをご覧になってて、株式投資や投資信託に活かせるとしたらどんなところですかね。
吉田:うーん、むずかしいですね。
renny:もちろんホームタウンの経済規模は違いますが、ビジネスモデル的にはほぼ同じでも、バランスシートを見ると、マリノスはカツカツだった時代があったりとか、アントラーズやヴィッセルも見てるとバランスシートは結構特徴が出てくるのかなと思ったんですよ。
吉田:確かに同じ事業なのにみんなバラバラの財務状態というのが面白いですね。今回はツッコミどころが多いクラブを取り上げましたが、川崎フロンターレのように財務諸表を見ていて順調に大きくなってきてるなって感じたクラブもありました。
renny:今おっしゃったのは、縦の比較というか歴史的な推移を見てっていうので、一方で同じタイミングで他のクラブがどうだったのかという横の比較もあるじゃないですか。そういう縦と横の比較をできる題材としては面白い情報を提供してくれてるのかなって思いますよね。
吉田:そうですね。サッカー好きな人はクラブの財務諸表を見てると、いろんな広がりがありそうですね。
renny:今日ニュースで見たんですけど、遠藤航選手がリバプールに移籍して、移籍金の一部が彼の出身中学に2,000万円ぐらい支払われるという話もありました。大きいクラブにステップアップしてくれると、元所属してたところに経済的な波及があったりとか、サッカーの世界を見てると面白いなというか、夢があるって言ったらちょっとあれなのかもしれないですけれども、あの分配金って、彼所属してたクラブも多少はあるんじゃなかったでしたっけじゃなかったでしたっけ。
吉田:契約によるのかもしれないですね。(※訂正…移籍金の発生する国際移籍をした場合、12歳から23歳まで所属していたチームに対して、移籍金の一部を配分する「連帯貢献金」という仕組みがあるそうです)
renny:僕の好きなFC東京も非常に健全な経営してるのが今回見てわかったんで、もうちょっと冒険してもいいんじゃないかな、これから楽しみなのかなと思うんですけれども。最後に今シーズンのJリーグは、横浜F・マリノスとヴィッセル神戸が激しいトップ争いしていますが、吉田さんはどこが優勝されるとは思いますか?
吉田:神戸に優勝させてあげたいです。たぶん財政的に厳しいので、今回が最後のチャンスではないかと。この先は人件費を削る必要が出てきて、今の選手がどんどんいなくなる可能性があるので。
renny:楽天の都合もあってということですか。
吉田:はい。
renny:たしかに千載一遇のチャンスでしょうからね。でも思い起こすとですね、FC東京も2019年シーズンは前半、久保建英選手がブレークして途中までトップを争って最後にマリノスに持って行かれたので、今回もマリノスかな。
このポッドキャストのために「サッカー×経済活動」について調べはじめたら止まらなくなり、その後もブログにいろいろ書いています。
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