第79回 バスルームから愛をこめて


あなたは長風呂だろうか、それとも所謂カラスの行水だろうか。
入浴にかける時間と情熱は結構個人差がある。自宅の風呂に飽き足らず、温泉巡りが趣味という人もいるだろう。
「テルマエ・ロマエ」ではないが、風呂には各人各様のこだわりがあるに違いない。

かくいう私は比較的長風呂の方だと思う。
なかなか身体が温まりにくいため、延々と湯船につかっていることが多い。特に退屈もせずぼんやりとお湯につかりながら、あれこれとりとめもなく思索を巡らす時間は、結構楽しい。入浴剤も以前は香りも色も派手なものを取っ替え引っ替え使うのが楽しかったが、今は好みが渋くなり、無色透明の炭酸ガスタイプに落ち着いた。
すぐに風呂から上がってしまうタイプの人は、湯船につかっている時間を持て余すそうだ。何もしないのが我慢できずに出てしまうという。そういう人にはアヒルのおもちゃでも与えておくといいのかもしれない。そういえば以前泊まったホテルで、バスルームに3センチ程の小さなラバーダックが置いてあるところがあり、和んだ。
ちなみにいまラバーダックの画像を見ていたら「光って歌う温泉アヒル」というのがあった。それは果たして楽しいのかわからないが、購入者の評価を見ると、子供にはかなりウケがいいらしい。

実際我々は何℃のお湯に何分程度つかればいいのだろうか。一説によると、42℃のお湯に10分間つかるとヒートショックプロテイン(HPS)が増えるのだそうだ。このHPSというのは、ダメージを受けた細胞を修復するタンパク質で、体温が上昇するタイミングで生成される。特に40℃から42℃の熱ストレスによって最も効果的に増加するとのことなので、その温度のお湯につかることにより一時的に体温を上げて体内を活性化させる効果がある。
現代人、特に若い女性は平熱が低い人が多い。昔に比べて今の人の体温は1℃も低いそうだ。体温が低いと、元気が出ない・だるい・疲れやすいなどの症状が出やすくなる。強制的に加温して体温を上げるとストレスによるダメージは軽減されるが、効果は1週間ほどしかもたないので、3日に1回はしっかり湯船につかって温まるのがよいとのこと。
まあ通常は毎日あるいは1日おきくらいには入浴しているだろうが、いくら毎日入ってもシャワー浴だけではHPSは増えないので、単に清潔を保つだけでなく入浴の効果を最大限に発揮させるためには、しっかり湯船につかることだ。

入浴の目的はお湯で身体を温めるだけでなく、当然身体の汚れを取ることにもある。
何を使って身体を洗うか、これも好みによってかなり異なると思う。石鹸が一番!という人もいるだろうし、お気に入りの香りのボディソープという人もいるだろう。シャンプーもコンディショナーも同様。
飽きやすい性格というか新しもの好きなので、シャンプーなどの類はなかなか最後まで使い切ることができない。すぐに新しい効能や好みの香り、果てはボトルの色やデザインなど中身とは関係のないところにも誘惑されては、次々に新しいものを試していたが、決定打には巡り会えずに長い間彷徨っていた。
それが2年ほど前にあるアイテムと出会ってからは、浮気せずずっと使い続けている。アーユルヴェーダのオイルマッサージを基にしたというそのボディウォッシュは、泡立たない。手で直接マッサージをしながら洗うのだが、リラックスできる香りもとても気に入っているので、身体だけでなく髪も全身これだけで洗っている。
思うに清潔を目指すがために、みんな一生懸命洗いすぎではないだろうか。これは以前も洗顔について書いたことだが、本来我々の皮膚は適度な油分と水分のバランスで守られている。それを根こそぎ取ってしまうような過度な洗い方は、かえって皮膚を痛める。なにごとも程々が大事である。

入浴というのは究極のプライベートだ。なにせ裸で過ごすのだから。
あらためて自分の身体と向き合い慈しむ機会として、大事にしたいところである。


登場した入浴場:温泉
→住んでいるところの近くに温泉がある。あまり知られていないが、普通の旅館でも「温泉入れてください」と言うと、入浴料を払えば入れてくれる。
今回のBGM:「Ça va, ça vient」by Pierre Barouh
→映画「男と女」の俳優として有名だが、シンガーソングライターとしても素晴らしい作品を沢山残している。1972年に発表されたこのアルバムのタイトル曲の、ふっと肩の力を抜いてくれるような優しさが好きだ。


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