第111回 這いよる混沌


いつの時代にもホラーというジャンルは根強い人気を保っている。
漫画、小説、TVに映画、演劇からテーマパークに至るまで、エンタメに於いてホラーは一大ジャンルである。もちろんホラーといってもホラーの程度(というのもおかしな言い方だが)は様々で、仄かに怖がらせる他愛もないものからR指定の容赦ないスプラッタと、とても幅が広い。
「怖いもの見たさ」という言葉があるように、とかく我々は自分の身に実際に降りかかってくるのでない限り、怖いもの好きである。

小学生の頃通っていた習字教室には、ホラー漫画が沢山置いてあった。
先生が好きだったのだろうが、もちろん子供達も大好きである。時折先生に頼まれてはお金を預かって本屋に赴き、ホラー漫画の新刊を補充する。当時出ていた主なホラー漫画は、その習字教室で殆ど読んでいたのではないか。おかげで習字は全く上手くならなかったが、ホラー漫画の知識は増えた。
なかでもお気に入りだったのが、古賀新一作の『エコエコアザラク』シリーズである。黒魔術を使う黒井ミサという少女が、利己的な目的のために黒魔術を使う輩を自身の持つ強大な魔力で倒す、という内容なのだが、必ず最後に黒井ミサが「エコエコアザラク…」と唱えながら去っていくというのがお約束であった。このシリーズは人気があったため、媒体を変えながら40年も続いたそうだ。
『エコエコアザラク』は何度も映像化されているが、最初の映画化は佐藤嗣麻子監督の『エコエコアザラク〜WIZARD OF DARKNESS』である。のちにTVドラマの『アンフェア』でブレイクする佐藤嗣麻子が1995年に制作したこの映画は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭批評家賞を受賞するなど、ホラー映画として高い評価を受けた。佐藤嗣麻子はこれより前にも、長編監督デビュー作である『ヴァージニア』で、東京国際ファンタスティック映画祭でアポリアッツ賞を受賞しているが、幻想的な色彩が濃い『ヴァージニア』に対して、この『エコエコアザラク』はよりホラー味が強い。
もちろんスプラッタ満載であるし、外連味たっぷりの仕掛けも用意されている。そしてなんといっても素晴らしいのが、助演の菅野美穂の存在感だ。デビュー間もないまだ初々しい時代の彼女だが、のちにカメレオン俳優と評されるその憑依型の演技は、最後に現れるラスボスに相応しい迫力でさすがと言っていい。
少女は可愛いだけではない。この連載の第1回目に取り上げたホラー小説『暗い森の少女』に登場するエリザベスと並んで、”最凶の”少女といっていいだろう。

ホラーでお馴染みのゾンビも、このところ随分と進化したようだ。最近のゾンビは走る。それも速い。ジョージ・A・ロメロ監督の『Night of the Living Dead』のおっとりしたゾンビからは隔世の感がある。
ホラーというのは、そこはかとなくユーモラスなところが良いと思っているので、あまりリアルになってしまうとかえって興が削がれる。ホラーがパロディになりやすいのも、そのどことなくユーモラスな部分が愛されているからではないか。
スティーブン・キングの作品もそうだが、いやそれはないでしょというのを上手に描くのがエンタメというものなので、リアルばかりを追求しても面白くない。貞子があれだけ愛された(のか?)のも、あの登場シーンの怖いのか可笑しいのか微妙なところが大事なんだと思う。

ホラーというのは、現実に侵食してくる異界を垣間見せることで、逆に現実を露わにする役割を持つ。
日常を揺るがすフィクションと、それをまた覆すリアル。
これからもリアルとフィクションの境目を揺さぶるようなホラーが登場してくるのを楽しみにしている。
ちなみにゾンビ映画は臭いがないから安心して観ることができるのだというのが、私の持論だ。


登場した映画:『ヴァージニア』
→エドガー・アラン・ポーの詩「アナベル・リー」をモチーフにしたというこの吸血鬼映画、主演はかのジュリアン・サンズ。求む、Blu-ray化。
今回のBGM:「星月夜〜ルシファー第四楽章〜」by ALI-PROJECT
→上記の1作目及び2作目『エコエコアザラク〜BIRTH OF WIZARD』の主題歌となった美しい曲。映画のサウンドトラックもアリプロの片倉三起也が担当した。

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