234回 とっとこはしるよ


いまでは当たり前に愛されて飼われているハムスターだが、かつて2回、いや3回ブームが訪れている。
1988年より連載が開始された「ハムスターの研究レポート」は、「観察マンガ」という新しいジャンルを切り開いた4コママンガの嚆矢とされ、これがきっかけとなり2回目のハムスター・ブームが起こった。
そして1997年に雑誌『小学二年生』で連載が始まったハムスターを主人公にしたマンガが、2000年アニメ「とっとこハム太郎」として放送が開始されると、3回目のハムスター・ブームが沸き起こる。当時アニメを観ていない私でさえ、「だーいすきなのは~♫ヒーマワリのタネ~」と歌えるのだから、いかに流行ったかがよくわかる。
ホームセンターのペットコーナーにもいろいろな種類のハムスターが売られるようになり、ハムスター専用の餌や飼育グッズが売り場にあふれた。
いまでも「現在飼っているペット」「過去飼っていたペット」「これから飼いたいペット」のいずれでも、ハムスターは上位にランクしている。

さてハムスターのブームは3回と書いたが、それでは最初の1回目はいつだったのか。その前にしばしハムスターという生き物と人間との関係を振り返ってみよう。
ハムスターというのは、キヌゲネズミ科に属する齧歯類の一部のグループである。夜行性で地中生活に適応するため四肢と尾は短く進化しており、これがずんぐりと丸っこい体型となって可愛さを醸し出している。ハムスターという名前の由来は、大きな頬袋に食物を溜め込む習性からきているそうだ。
世界で初めてハムスターが文献に登場したのは1797年だが、実物標本が学会に提示されたのは1839年のこと。1880年に初めてペットとして飼われたが、この系統は続かず30年余りで途絶えてしまう。
そして1930年動物学者のアロハニ教授が、シリアで1匹の雌と12匹の子供のハムスターを捕獲。交配が繰り返され、これが現在飼育されている全てのゴールデンハムスターの祖となった。実はこれ以降、野生のゴールデンハムスターは一切発見されていない。野生のゴールデンハムスターはいまや絶滅危惧種なのである。

1931年以降、ゴールデンハムスターはイギリスで増え続けた。そして今度は1938年に実験動物としてアメリカに持ち込まれることになる。そのきっかけが、ハムスターも風邪をひくことからその研究用にというのが面白い。
初めて日本にゴールデンハムスターが持ち込まれたのは1939年、歯の研究用としてであった。ハムスターの門歯は一生伸び続けるため、重宝されたのだろう。
1965年頃に一般に紹介されたことで、ハムスターの認知度は一気にアップする。実はこれにかなりの貢献をしたのが、この連載の219回で紹介した私の父・牧野信司なのだ。珍しい生き物(今で言うところのエキゾチックアニマルか)好きの彼は、いち早くこのゴールデンハムスターの飼育を始め繁殖を成功させる。当時TVで「ペット教室」の番組のレギュラーを持っていた彼が紹介したため、その後5年程でハムスターはペットとして定着したところが大きい。

日本は昔から小動物を愛してきたようで、江戸時代にはネズミのブームがあったという。ハツカネズミの品種改良をして、パンダネズミのような様々な毛色のネズミが大ブームとなり、人気の色は高値で取引されるようになったため、幕府から禁止令が出たとか。
ハムスターが一般的になる前は、シマリスが小型のペットとして人気だった。シマリスは殆どの種類が北アメリカに生息している。日本にはリベリアシマリスの亜種であるエゾシマリスが北海道にいるが、こちらは鳥獣保護管理法により捕獲も飼育も禁止されているので、ペットとして飼うことができるのはチョウセンシマリスである。チョウセンシマリスは外来種なので、固有種のエゾシマリスとの交雑しないよう、飼育には注意を要する。
またシマリスはその愛らしい外見からは意外なほど、結構気が荒いところがある。噛みつかれる恐れがあったり、動きが素早く慣れにくいなどのことで、いまではハムスターに小動物ペットの座を奪われてしまった。

ゴールデンハムスターより体格が小さい、ドワーフハムスターと呼ばれる種類の中でも、ジャンガリアンハムスターは人気の品種だ。
ゴールデンよりも性格が温厚で慣れやすい(結構噛むことはある)ということで、現在はゴールデンよりも飼っている人は多いかもしれない。お餅のようにペタンと平たくなっている姿はとても愛らしく、SNSにも画像が沢山掲載されている。
ただハムスターは犬猫とは違って、慣れることはあるがほぼ懐かない。飼い主を認識して懐くということは期待しない方がいい。我々はその可愛らしい姿を眺めているだけで満足するべきなのだ。
またハムスターに噛まれてアナフィラキシーショックを起こした症例が、2000年以降各地で報告されている。これは噛まれた側にアレルギー体質があったことや、被毛を吸い込んだり何回も噛まれたりして感作されたことが原因とされている。基礎疾患に喘息があった方の死亡症例も1例だけだが存在するので、侮ってはいけない。
どんな生き物でもそうだが、きちんと掃除をして飼育環境の清潔を保ち、無理に触ろうとせず、触ったら必ず手を洗うこと。

生き物を飼うならば、単に可愛いからというだけでなく、その生き物の習性や付き合い方を知った上で、終生飼育する覚悟を持ってほしい。
そもそもブームだからといって飼うのはおかしいのだ。
このコロナ禍でも在宅需要でペットを飼い出した人が多いそうだが、また社会が動き出して外に出る機会が増えたとしても、しっかり世話を続けて可愛がってくれることを願う。


登場したハムスター:ドワーフハムスター
→その中でも一番小さい品種がロボロフスキーハムスター。体重がゴールデンハムスターの1/4以下で、体長も10cmに満たない。臆病で慣れにくく上級者向きと言われる。
今回のBGM:「ハム太郎とっとこうた」by ハムちゃんず
→ショコラのCD「ハムスター」は以前取り上げたので、この耳に残るテーマソングを。


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