265回 今夜、すべてのコンビニで


最近ネップリに凝っている。ネップリ、ネットプリントのことだ。
前に一度だけやったことがあるが、このところ好みの同人作家さんたちが沢山登録してくれているので、ウキウキとコンビニに通っている。今住んでいる場所は近くにコンビニがないためクルマで出かけたついでに寄るのだが、いつの間にかコピー機が滅茶苦茶進歩していることに、今更ながら感動している。

ネットプリントというのは、その名の通りネットを通じてコンビニのマルチコピー機で印刷をする技術である。自宅にプリンターがない人でもこれを使えば、ちょっと割高にはなるが、登録したデータを印刷することができる。所謂「クラウドオンデマンド印刷サービス」というやつだ。
ネットプリントには、富士フィルムデジタルイノベーション製でセブン-イレブンに導入されている「ネットプリント」と、シャープ製でローソン・ファミリーマートに導入されている「ネットワークプリント」があるが、まとめて「ネットプリント」略してネップリと呼ばれている。どちらもクラウド上にアップしたデータをダウンロードして印刷するという理屈は同じである。
当初は写真プリントが主だったと思うが、小部数の冊子などは印刷所で印刷してもらうにはコストがかかりすぎるので、手軽なネットプリントが利用されるようになった。そして今では自分でプリントするのではなく、予約番号を入力することでアップしたデータを誰でもプリントできる機能を利用して、作品をSNSで広く配布することが流行っている。作者がSNSで予約番号を告知すると、その作品を印刷して手元に置きたいと思った人は、コンビニでネップリをすれば手に入るわけだ。
この時作者には1円も著作権料(印税)が入らないことには注意すべきである。作者もそれで金銭を得ることが目的ではなく、言ってみれば自分の作品を見てほしい・愛してほしいという思いで行っているのだから、勝手に印刷物を販売するなどというのは論外として、ネップリをさせてもらった方もSNSを通じて宣伝したり披露したりして作者に感謝を伝えることも大切だ。
普通紙だけでなく光沢紙やシールにまで印刷できて、それがまた驚くほど鮮明で美しいのには、感動した。
というわけで、ネップリのためにコンビニに通っている昨今である。

歩いていける近くにコンビニがないと書いたが、コンビニに行くためにタクシーを使っている高齢者を見て驚いたことがある。自家用車などの足がなければ使わざるを得ないのだが、お金をかけてタクシーで行く程、コンビニには魅力があるのかもしれない。
実際コンビニの商品は安いわけではないので、スーパーに行くのとは目的が異なるような気がする。ではコンビニの魅力とはなんだろう。
昭和の時代にはまだ街に「よろず屋」というものがあった。「よろず」というのは「萬(万)」と書く。つまりそれほど沢山の種類の商品を置いてある店という意味で、日用雑貨から食料品まで小さな店舗になんでも揃えてあるという存在であった。そこに行けば大概のものは手に入る。うっかりして足りなくなってしまったものも、そこに飛んでいけばすぐに買うことができる。そんな安心できる存在。それがよろず屋であった。
コンビニは現代のよろず屋なのだと思う。

コンビニ、正式名称コンビニエンスストアは、その名の通り便利な店である。
日本標準産業分類の定義によると、「飲食料品を扱っていること」「セルフサービス方式であること」「売り場面積が30㎡以上250㎡未満であること」がコンビニの条件とされている。日本で最初にできたコンビニは、1969年に食品関連の小売業が主催したマイショップ・チェーン(現在は解散している)が大阪の豊中に作った「マイショップ(マミイ)」だと言われている。今でも北海道で勢力を保っているセイコーマートもこの頃からコンビニチェーン展開を始めているというから凄い。
その後主流となったフランチャイズ方式のチェーン展開は、1974年東京の豊洲にオープンしたセブン-イレブンから始まった。当時イトーヨーカ堂が米国のサウスランド社(現・7-Eleven.inc)とライセンス契約を結んだことで、この1号店が生まれたのだ。そして1975年には、米国のコンソリフーデッドフーズ社とコンサルティング契約を結んだ、ダイエーローソン(現・ローソン)が誕生。それらより前の1973年、西友ストアー(現・西友)は埼玉県狭山市に日本独自のコンビニである「ファミリーマート」の展開を始めていた(1981年に西友から独立)。
ここにセブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートの3大コンビニチェーンが並び立ったのである。
もちろんこの3大チェーン以外にも、それぞれの地域に根付いたコンビニ・チェーンは存在している。どれも生活に密着しているだけでなく、災害時や非常時に頼りになる基地となるような側面を持っているのは、東日本大震災などの大災害を経た教訓である。

現在コンビニは日本全国に6万店近くあり、その総売上高は11兆円を超える。この売上高は、日本の食品飲料小売市場の35%を占めるまでになっており、いまや非常に大きなマーケットとなっていることは自明だろう。
その反面多くが24時間営業であることから、いくらキャッシュレス決済や自販機のようなセルフレジが導入されたといっても、人手を確保することは容易ではなくなっている。かなり前から都市部のコンビニの店員は多国籍化が顕著で、外国人観光客が増えたここ数年は、コンビニの店員もお客も様々な国の人が入り乱れていてなかなか不思議な光景となっている。
そしてこのところでは、フランチャイズ契約の問題点も浮き彫りになってきている。これまでは本部と加盟店が対等な関係とは言えないため、本部の指示には全て従わざるを得なかった。だが時短営業に関する裁判をきっかけに、24時間営業の強制に対して公取委が独禁法違反の見解を示したり、値引き販売が解禁されたりすることで、加盟店の自由度が高まりつつある。

24時間いつでもなんでも手に入り、多機能のマルチコピー機やATMもあり、新商品の先行発売やコラボくじなどのイベントも盛んに行われるコンビニ。
その扱う内容だけでなく、労働環境や契約条件なども進化していくことを願う。


登場したイベント:くじ
→コンビニの店頭で目につくものといえば「一番くじ」だろう。BANDAI SPIRITSが提供するキャラクターもののくじであり、その歴史は1996年のバンプレスト(のちに合併)製のものから始まる。コンビニに導入されたのは2003年。ここ数年でコロナ禍で手軽な娯楽として急成長したそうだ。
今回のBGM:「Peace or Love」by Kings Of Convenience
→ノルウェー出身のアコースティック・デュオ。“北欧のサイモン&ガーファンクル“、なるほどね。


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