231回 Colour Me Jently


美容やファッションに関心がある人なら、イエベ・ブルベという言葉は聞いたことがあると思う。もしかしたら既に「わたしはイエベ春」「わたしはブルベ冬」など、パーソナルカラー診断済みという方もいるだろう。
イエベとはイエローベース、ブルベとはブルーベース、いずれも昨今では肌色の色調を指していることが多い。
ではそもそもこの概念はどこから出てきたのか。

パーソナルカラーという概念は、1923年にアメリカのロバート・ドアが提唱した調和論が基になっているというのが定説だ。
彼は全ての色はブルーアンダートーンとイエローアンダートーンの2種類に分けられるとした「カラー・キー・プログラム」という2分類法を唱えた。これに基づいて、同じベースの色同士は調和するが、異なるベースの色同士は調和しないという配色調和・不調和の原理をシステム化したのだ。
一方スイスの芸術家であり理論家であったヨハネス・イッテンは、12色の色相環を用いた色彩論を唱えた。彼は色の組み合わせによる印象の変化に着目し、パーソナルカラーを四季に例えた4つに分類した。
このドアとイッテンの両方の分類を組み合わせたものが、現在多く用いられているパーソナルカラー分類と言ってもいいだろう。

1960年代のアメリカでは、ラジオの時代からテレビの時代に変わったことで、政治家たちがこぞってカラーコンサルタントを雇い、戦略的に有権者に訴えかけるようになった。そして1980年にゲリー・ピクニーが開設した「カラー・ミー・ビューティフル」という講座が端緒となり、パーソナルカラーコンサルティングは一般人にも対してもビジネスとして成立するようになったのだ。
この時期に渡米して学んだカラーリストによって、パーソナルカラーコンサルティングは日本でも知られるようになる。
パーソナルカラーの協会や団体は、実はいくつもある。1986年に設立されたロバート・ドア理論を基礎とする「ユニバーサルカラーインスティチュートインターナショナル」、2001年に設立された一般的によく知られている「NPO法人日本パーソナルカラー協会(JPCA)」、2005年からパーソナルカラリスト検定を実施しカラーアンダートーンシステム(CUS)を提唱する「一般社団法人日本カラリスト協会」、そして2012年設立で16タイプカラーメソッドの「全日本カラースタイルコンサルタント協会(CSCA)」などなど。
いずれも美容分野だけでなく、インテリアや建築、商品開発やSNSでの発信といったあらゆる分野に於ける色彩の提案を行うことを目的としている。

美容分野でのパーソナルカラーと言えば、化粧品や服の色を選ぶ際の指標となることが多い。
よくウェブ上でも「パーソナルカラー簡易診断」といったかたちで、いくつかの質問に答えて「あなたはブルベ夏」などという答えが出るものがあるが、あまり当てにはできない。
実際の診断では、ドレーピングと呼ばれる方法で丹念に似合う色を探していく。ドレーピングというのは、120~160枚の異なる色の布を胸の辺りに当てて、簡単に言えば顔色が綺麗に見える色を選んでいく作業である。
まず肌色から始まるのだが、ここでイエローベースかブルーベースか、だいたいの色分けをする。そして瞳の色や髪の色や質感も加味した上で、同じ赤でもこの色というようにその人に似合う色を細かく選んでいくのだ。
診断をしてもらった人は、いままで敬遠していた色が思いがけず似合ったという目から鱗の驚きを述べることが多く、やって良かったという声をよく聞く。

とここまで書いておきながら、私はパーソナルカラー診断はやったことがない。もちろん経験からたぶんイエベだろうなということはわかっている。
巷にあふれる情報には、「イエベさんに合ったアイシャドウの入れ方」「イエベ秋のコーディネート」など沢山のアドバイスが掲載されている。それがもし自分の好きな色とは異なった場合、では好きな色ではなくアドバイスにある似合う色の通りにやってみるのか。
ヨハネス・イッテンは「その人が好む配色や色彩は、その人の外見的特徴や性格と一致する」と述べた。優れた教育者でもあった彼は、バウハウス・ワイマール校で教鞭を取るが、後に袂を分ち「イッテン・シューレ」という美術学校を設立する。ここではベルリン滞在中の竹久夢二も、5ヶ月間日本画の講義を行っている。
彼は色彩論を唱えながらも、「デザインの法則の知識に拘束される必要はない」とその著書の中で述べたという。理論としての知識は創作に寄り添う道標となるが、それに囚われることはない。

肌の色を変えたければファンデーションを使えばいい。髪の色や形はウィッグでどうにでもなる。瞳の色だって今はカラコンで自由自在だ。
似合わないとされる色でも自分が着たければ、コーディネートを工夫する。なにもその色一色だけを着るわけではないだろうから、それこそ配色の妙で素晴らしくお洒落にみえることだってままあるのだ。
もちろん迷ったり悩んだりした時は、おおいに頼ればいい。イッテンも上のフレーズの後に「その知識は各人を迷いや優柔不断な態度から解放するものなのだ」と書いている。

好きな色を身につけよう。好きな服を着よう。
内なる少女はいつだって自由なのだ。


登場したパーソナルカラー:
→私の記憶では「イエベ・ブルベ」が流行り出したのは、カバーマークが1998年に発売したファンデーション「ジャスミーカラー」がきっかけのような気がする。
今回のBGM:「色彩交響曲」by アーサー・ブリス作曲 ヴァーノン・ハンドリー指揮 / アルスター管弦楽団演奏
→エルガーとも親交があったとされるイギリスの作曲家。色の持つ象徴的な意味を考えて作られた、紫・赤・青・緑の4楽章から成る管弦楽曲である。


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