第47回 ネイルホリックに憧れて


職業柄爪は短く切っている。マニキュアもジェルネイルもしていない。
本当は色々やってみたいのだが、なにせ医学部生の時に、医者たるもの爪の白い部分がないくらい常に短く切っておけと叩き込まれたので、少しでも伸びてくると気になってしまう。
以前は休日やお出かけの時には自分でネイルポリッシュを塗ったりもしていたのだが、すぐに仕事前には落とさなければいけないので、いつしかやらなくなってしまった。
実際自分で塗るのはかなり苦心惨澹していたので、まあ良いのだが。結構不器用な上にせっかちなところがあるため、綺麗に塗ってじっくり乾かすということが出来ない。はみ出したり塗り残したところがあったりと、よく見ればかなり稚拙な塗り方であったし、しっかり乾くまで辛抱できず何かやったりしてしまうため、ぶつけてよれたりと散々な出来になることが多かった。
濃いめのマット寄りの色だとその欠点がひとわかりになってしまうので、できるだけパールの入ったベージュやモーヴグレイなどの、皮膚の色に馴染みやすい色を選んでいたのだが、時折無性に突飛な色も試したくなる。で、失敗する。

かつてアナスイの大粒のラメ入りネイルポリッシュが大ヒットしたことがあった。アナスイはそのパッケージからしてコケティッシュで優雅なので、キラキラのラメが入ったネイルポリッシュは、そばに置いておくだけでも嬉しくなったものだ。
実際はこのラメ入りのネイルポリッシュというのは、なかなか落としにくく、除光液でがしがし拭いても落ちずに苦労した覚えがある。それでも色とりどりのラメがきらめく小瓶を、新色が出るたびに集めていた。
そういえば、今では普通になったマットなネイルポリッシュだが、一番最初に出したのは確かプラモデルの塗料メーカーであった。当時画期的な商品だったのだが、あまりにもマニアックだったのとムラなく塗るのが難しくて一般的にはならず消えてしまい、その後随分時間が経ってやっと化粧品のブランドから、艶のないマットなネイルポリッシュが発売されたという経緯がある。

そうこうしているうちにいつの間にかネイルポリッシュを塗ることがなくなってしまって月日が過ぎ、ある日フットネイルという方法を思いついた。
もちろんそれまでも自分でたまに足の爪に塗っていたりはしていたのだが、やはりなかなか上手には塗れず。しかしフットネイルをジェルでやってもらえばいいのではと気づいてからはもうこっちのもんだ。ジェルネイルはとにかく持ちがいいので、2ヶ月くらいは平気でそのまま綺麗な状態を保ってくれる。爪は伸びるので先は切るのだが、切り口に透明なマニキュアを塗っておくと剥がれてこないので、先端を切りつつ2ヶ月持たせる。2ヶ月というと丁度季節が変わるので、その都度季節感あふれるデザインと色にしてもらうことができる。
仕事中や寒い時などは靴下を履いているので、通常は見えない。しかしお風呂に入って湯船に浸かった時など、ふとした拍子に見る自分の足の爪が美しく彩られているのは、とても気持ちが上がるものだ。
そういえば足の第5趾(小指ね)の爪がこんなにしっかりあるのは珍しいと、ネイリストに褒められてちょっと自慢だったが、実際は爪がある分ぶつけて剥がす確率が高くなるだけのような気もする。うーむ。

爪は髪と同様、角化した皮膚に過ぎないのに、どうしてこんなにも気になる存在なのだろう。どうせ伸びるものなのに、いちいちかまいたくなる。
まあ、神は細部に宿るのだし、人生に無駄は必要だ。
男性ウケが悪いと評判のネイルアート、過剰な可愛さこそ少女の特権なのである。


登場したブランド:アナスイ
→黒と薔薇をモチーフにしたコスメは、それこそ少女性満載の王道。
今回のBGM:「JEJEJEJET!!」by PASSPO☆
→惜しまれつつ解散してしまった実力派のアイドルグループ。「おねがい」の歌詞にある “猫の水も変えてあげてね” が切ない。

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