第90回 ズーロジスト


いま、マヌルネコが熱い。
なんのことやらと思われるだろうが、そういう動物がいるのだ。
レッサーパンダはどこにいったと言われても、どちらも好きなのだからしょうがない。
もっと言えば、ウォンバットもビントロングもユキヒョウもスナネコも、タスマニアデビルだって好きだ。
つまり何が言いたいのかというと、動物園が好きなのである。

東京の上野生まれなので、徒歩圏内に上野動物園があった。
幼い時は、それこそ毎日のように父親に連れられて動物園に行ったものだ。しょっちゅう通っているので、何処に何がいるのかわかっている。お気に入りの動物の前にまっしぐらに行っては、飽きもせず眺めている癖は、今も変わらない。当時将来なりたかったのは、動物学者だった。
小学生の頃、日本に初めてジャイアントパンダがやってきた。カンカンとランランを一目見るために、上野動物園には長蛇の列ができたものだ。このパンダ人気で上野動物園の入園者数は一気に増えたのだが、もちろん動物園ではジャイアントパンダ以外の沢山の動物に出会うことができる。
近年動物園の役割は随分と変わってきた。昔は物珍しい動物を展示することが主だったのが、いまは「種の保存」という目的も加わった。世界中で数限りない種類の生き物が絶滅の危機に瀕している。環境の変化によると言えば聞こえはいいが、実際は人間が増えすぎたことが1番の原因だろう。このままでは生物の多様性が失われてしまうということで、世界中の動物園が協力して「種の保存」に取り組み始めたのだ。

レッドデータブックという名前を聞いたことがあるだろうか。絶滅の恐れのある野生動物に関する情報を記載したリストで、国や団体によってそれぞれ独自のものが作成されている。日本では環境省のものが有名だ。
その中でIUCN(国際自然保護連合)が作成したレッドリストには、絶滅の恐れのある野生生物(植物なども含む)が掲載されているのだが、動物園にいる動物の8割以上はこのレッドリストに載っているような貴重な生き物だ。動物園といえばお馴染みのゾウやキリン、ライオンやゴリラといった動物たちは、本来の生息地においては全て絶滅の恐れがあるとされている希少な種なのである。動物園には、それらの動物を単に生体展示するだけでなく、繁殖させるという使命もあるのだ。
絶滅危惧種の動物の商業取引は、ワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で厳密に禁止されているが、繁殖のために動物園間で動物を貸し借りするブリーディング・ローンという取り組みは、世界中の動物園の間で盛んに行われている。希少な動物は1箇所の動物園に1頭しかいない場合も多い。そういった場合その1頭を貸し出して、別の動物園にいる1頭とペアリングを行えば、繁殖の機会が高くなるし血統の多様性も保持できる。
世界中の動物園のこのような取り組みは一定の成果を上げており、野生では絶滅したホワイトオリックスは、飼育下で繁殖が成功しているそうだ。

動物を檻に閉じ込めて見るなんて可哀想という意見も根強い。確かに昔ながらの狭い檻にコンクリートの床では、動物にとって良い環境でないことは確かである。しかし最近は、できるだけその動物本来の生育環境に近づけた状態で過ごしてもらおうという取り組みも増えてきている。
日本では敷地面積自体がそれほど広くないため、なかなか走り回れるまでにはいかないが、それでも飼育員の工夫により動物たちが快適に過ごせるようになってきていると思う。

実はマヌルネコをまだ実際に見たことがない。日本では現在7箇所の動物園でマヌルネコに会うことができる。
地球上に生きているのは人間だけではないことを再認識するためにも、そして生物の多様性とその造形の絶妙さに感嘆するためにも、またじっくり動物園に行きたいものだ。
単にマヌルネコを見に行きたいからというのは内緒。


登場した動物園:東京都恩賜上野動物園
→明治15年開園の日本最初の動物園。園内にはこれまた日本で最初に開業したモノレールがある。老朽化により昨年11月より運転休止中。
今回のBGM:「ノウニウノウン」by たむらぱん
→STUDIO4℃制作の「ゼロ」のPV「morimoto×tamura rimix ver. 」が、とにかく素晴らしい。豚さんに泣ける。

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