第67回 北の宿から


寒い。冬だから当たり前だが、以前はもっと寒かった。
今住んでいるところは標高が600m以上あるため、最高気温がマイナスという「真冬日」というのも一冬に何度か経験する。かつてマイナス15℃になったことがあったが、朝ゴミ捨てに出た時に、空中にキラキラと朝日を浴びてダイアモンドダストが舞っていて、ここはスキー場かと思ったことがある。

冬といえばセーター。いや、ニット自体は綿ニットなどもあるので通年着る機会はあるのだが、セーターは冬の定番だ。
毎年いつからセーターを着るかというのは大問題である。いくらお洒落は季節を先取りするといっても、あまり早い時期から着てもなんとなく妙だし、なんといっても暑い。温暖化の影響で以前よりも気温の高い日が多いため、11月の初めでもまだセーターという気分にはならない。気温が低い日があっても、マイクロファイバーやフリースを重ね着したりしてごまかしている。
そしてある日突然「今日はセーターを着るべきだ」という日がやってくる。もちろん同じセーターでも、素材や編み方によって厚くも薄くもなるし、下に何を着るかによっても調節はできるのだが、セーターを着た日は冬の訪れが確定した日として認識される。
セーターの素材として最近は安価なアクリルやポリエステル・ナイロンといった人工繊維も多くなったが、やはり王道はウールだろう。セーターの歴史は古い。11世紀ノルマン人が地中海に進出した時にイスラムの手芸技術を学んで伝えたのが元と言われている。ウールのセーターと言って思い浮かぶフィッシャーマンズセーターは、元々アイルランドやスコットランドの漁師の仕事着だったため、防水性と防寒性に優れていると言われるが、脱脂していないウールはとにかく重い。かつて日本でアイビールックが流行った時にこのフィッシャーマンズセーターが人気を博したことがあったが、都市部で着るにはかなり体力が必要だったことだろう。

タートルネックが苦手である。首が長くも細くもなく、加えて肩が張っている体型なので、タートルネックを着るとバランスが悪い上に、首の圧迫感に耐えられない。もちろん首周りが暖かくて好きという人も多いだろうし、とてもスタイリッシュに着こなしている人も多い。ただ男女を問わずタートルネックはなかなか難しいアイテムであるとは言えるだろう。
それを緩和するためか近年は、ハイネックやボトルネック、果てはオフタートルといった首回りのバリエーションが出てきている。ハイネック程度ならなんとかなるが、オフタートルとなると今度はその折り返しのバランスに苦慮することがあり、これはこれで難しい。あまりにも「たふっ」とした感じにボリュームが出てしまうと、今度はなんだかエリザベス一世の肖像画にあるネックフリルを思わせる迫力が出てしまうからだ。ちなみにタートルネックは襟の部分を折り返すのだが、ハイネックは折り返さずそのまま着ることができるので簡単だ。

毎年クリスマス時期になると海外では「Ugly Christmas Sweater」というものがトレンドになり、日本でもそれを受け「ダサセーター」として人気になっている。本来は「クリスマスプレゼントとしておばあちゃんが編んでプレゼントしてくれるいかにも悪趣味な柄のセーター」を敢えて着るのがクール、というのが近年流行になったものだ。
この欧米人のトラウマのようなセーターはクリスマスアイテム柄が本物なのだが、それから派生して単に素っ頓狂な編み込み柄のセーターもダサセーターとしてカテゴリー化している。私も「猫が両手に包丁を持っている柄」というダサセーターを偏愛しているが、このゆるさは思えば日本のゆるキャラにも通じるところがあるように思う。

制服として白のブラウスの上にかっちり編まれた紺色のセーターを着るのも少女のアイコンとして素敵だが、ふんわり編まれたパルテルカラーのアンゴラモヘアのセーターというのも儚そうな可愛さとして抜群である。
その上で少女性のアイコンとして、ぜひこのダサセーターも加えてほしい。真面目さだけが少女ではない。ユーモアもまた少女性のひとつとして候補にあげたいと思うのである。


登場した襟の形状:ボトルネック
→ボートネックと並んで不可解な襟である。どうすれば収まりがつくのか皆目見当がつかない。もちろん似合う人もいるのだろうが、私は無理。
今回のBGM:「4分33秒」ジョン・ケージ作曲 
→いわずとしれた現代音楽の嚆矢。なぜかアプリまであり、世界中の「4分33秒」の静寂を聴くことができる。

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