第49回 我愛中華街
初めて一人で横浜中華街に行ったのは、確か高校生の時だったと思う。
幼少時から両親に連れられてクルマで何度も行ってはいたのだが、一人で電車に乗って訪れた中華街は、まるで異国のように新鮮で目新しかった。その頃まだみなとみらい線などというものは影も形もなかったので、JR(当時は当然国鉄ね)根岸線の石川町駅で降りてしばらくてくてく歩くと、結界のように建つ善隣門が見える。現在はその前に2つ程門があるようだが、昔はこの経路にあるのは善隣門だけだった。
それをくぐればそこは私にとって今で言うところのテーマパーク。中華雑貨屋をつぶさにのぞいたり、お粥を食べたり、日がな一日一人で遊んでいた。今でこそ中華街は観光の人気スポットで、休日になれば大混雑で人があふれ、食べ放題の看板や呼び込みが賑やかであるが、70年代終わりの中華街はそれこそ平日の昼間など人はあまり見かけず、小さな店では日本語は通じなかった。メニューに載っている漢字から大体予想して注文をしてみるものの、時々予想とは大幅に異なる料理が運ばれてきたりしたものだった。
それから数十年、住むところは変わっても相変わらず中華街に通っている。
中華料理に関する常識を覆してくれたのも中華街だ。中華料理というのは実は、とても季節感あふれる料理なのだ。特に広東料理は、中華野菜などの食材はもちろんのこと、料理方法や味付けにしても四季の彩りにあふれている。一番驚いたのは、蛙に旬があるということだ。蛙は広東料理ではよく使われる食材だが、鶏肉によく似た白身の肉でなかなかに美味しい。
本来中華料理の醍醐味を味わおうとするなら、そこはある程度の人数を揃えてコース料理を堪能することをお勧めする。基本的に一皿の分量が多いので、2人で行ってもせいぜい3種類くらいしか食べられないが、5人以上集まれば、前菜からデザートまで8〜10種類味わうことができるだろう。
ここ10年ほどで食べ放題の店が急激に増えた。食べ放題のメニューは全てにおいてランクを落としてあるので、いただけない。これが増えたせいで、それまで美味しかった店の味がいきなり落ちたり、また老舗の大店が潰れてしまったりということが目につくようになった。中華街の味がこの程度のものだと思われることほど悔しいことはないので、これを読んでいる方はぜひ数人かき集めてコース料理を注文してほしい。
この10数年というもの、中華街が好きすぎて中華街に住み着いてしまった友人を幹事にして、定期的に宴会を開催している。もちろん自分たちが美味しいものを食べたいというのが一番の理由なのだが、それに加えてしっかりとしたコース料理を注文することにより、お気に入りの店を食べ支えるという思いもある。常連である幹事が料理長と相談して、メニューにも載っていない特別な料理を出してもらうこの宴会は、私のエネルギーの元だ。
コース料理はそれなりの値段になるので、若い人はどうしても肉まんを買って路上で食べるなどのファストフード的な楽しみ方になってしまうのも仕方ないかもしれない。しかしいつかはちょっと奮発して、ぜひコースで食べてみてほしい。そこまで至る前の練習としては、通好みのモツ粥を頼んで油条(中華風揚げパン)をちぎって入れてみたりするのもいい。
いずれにせよ中華街の楽しみ方は沢山ある。通りいっぺんで満足するのはあまりにも惜しい。
最後にひとつ。
コース料理をいただいた翌日の肌は、いたいけな少女のようにつるつるですよ。
登場した料理:広東料理
→アヒルの舌、という料理がある。文字通りアヒルの舌を揚げてタレに絡めたものなのだが、これがまた美味しいのだ。食べるところはほとんどないのだけど。
今回のBGM:「Solid State Surviver」by Yellow Magic Orchestra
→以前YMOはカヴァーアルバムをあげたが、今回は本家本元。1980年の武道館公演では、FCのスタッフとして楽屋で私手伝ってました。
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