179回 くるみ割り人形


はじめてハワイ土産でもらったマカダミアナッツチョコレートを食べた時の感激は、今も忘れられない。ほろっと崩れる独特のナッツの食感と優しいチョコレートの甘さ。マカダミアというナッツの存在も、この時知った。
ピーナッツチョコ、略してピーチョコも美味しいが、ピーナッツとは異なるマカダミアの優しい食感は、70%を占めるという豊富な脂質によるものだろう。
いまでは一般的に買えるようになったマカダミアだが、なんとなく特別感を感じてしまうのは、最初に食べた記憶が残っているからかもしれない。

ところでナッツとはなんぞやという定義はご存知だろうか。
実は結構曖昧なのである。狭義では「堅果種子類」と呼ばれる木の実の種の部分をナッツと呼んでいるが、豆の一種であるピーナッツもナッツとして認識している人も多いと思われる。文部科学省が食品に含まれる成分をまとめた「日本食品標準成分表」では、本来のナッツに加え、ピーナッツのみならずヒマワリやカボチャの種も「種実類」として一緒に分類されているのだ。
しかし実際のところ、ピーナッツはナッツに入れてあげてもいいが、ヒマワリはあくまでも種であってナッツではないというのが常識的な印象だと思われる。ハムスターじゃないんだからそもそもヒマワリの種なんか食べない、という人もいるだろう。
とにかく普通にナッツと呼ばれているものは、昨今健康に良いと言われて大人気である。ナッツには脂質が多く含まれていてカロリーが高いのだが、一度にそれ程多くの量は食べないと思われるので、そこらへんはあまり気にしなくても良さそうだ。
そもそもナッツに含まれる脂質は、不飽和脂肪酸である。その中でも多く含まれる一価不飽和脂肪酸は、血圧を下げたり動脈硬化の原因となるLDLコレステロールを減らすなどの大事な効果を持つ。
またナッツには糖質はあまり含まれず、タンパク質や食物繊維が多い。
良いことばかりのような気がする。

日本で圧倒的に多く輸入されているナッツは、アーモンドだそうだ。
確かにアーモンドチョコのみならず、小魚やチーズと一緒におつまみとしても広く愛されている。アーモンドには、抗酸化作用のあるビタミンEが豊富に含まれているのが、大きな特徴である。
アーモンドはアメリカからの輸入が殆どを占めるが、日本でも小豆島などで栽培されている。バラ科サクラ属に属し春に白や薄桃色の美しい花が咲く。
いつも桃を購入している果樹園で、昨年の秋にアーモンドを売っていた。新し物好きの園主が木を植えて育てたようで、自慢気にぜひ食べてみろと勧めるので試しに買ってきた。
5センチ径程度の緑色の果実を割ると中に茶色の実があるのだが、これはいつも食べているアーモンドではない。この硬くて薄い実をさらに割った中にあるのが、ナッツとしてのアーモンドなのだ。到底手では割れず、ペンチでやっと割って取り出した身を電子レンジで数分、食べてみると確かにアーモンドの味はしたが、情けないほど薄っぺらなその実と手間を考えると、最初から売っているものを買ってきた方が美味しいのは確かであった。

クルミは紀元前7千年頃から食用とされてきた、世界最古のナッツだそうだ。日本にもオニグルミをはじめとする数種類の食用に適した種が自生しており、長野県が一大産地である。クルミだれなど料理に用いられることも多い。
カシューナッツは勾玉状の形が印象的だが、木になっているところの写真を見たときは驚いた。洋梨のような果実の先端に、殻に覆われた種子が付いているのだ。種が果肉の外に付いているという非常に珍しいパターンである。
ピスタチオはここ数年人気が高い。昨年の流行色としてあげられていたのは、鮮やかな緑色であるピスタチオカラーであった。アイスクリームの材料としても、味とともにそのキャッチーな色が人気となっている。
ヘーゼルナッツは、そのまま食べるというより、砕いてカラメルソースと混ぜてペースト状にしたプラリネが有名だろう。

そしてピーナッツ。
英語のpeanutsは文字通り、pea=エンドウマメ+nuts=木の実ということで、本当はナッツではなく豆だとさりげなく示唆している。ちなみにエンドウマメとは関係ない。
日本語では落花生と言い、花が受粉して落ちて地中で実がなることから、その名が付いたそうだ。原産地は南アメリカで、日本には18世紀はじめに伝来したが、本格的に栽培が始まったのは明治時代である。現在では千葉県や茨城県が産地として有名だ。
映画や文学にもよく登場する通り、アメリカの食卓にはピーナッツバターが欠かせない。そのためアメリカはピーナッツ消費量では世界一となっている。
いろいろな種類のナッツを食べるのは楽しい。
ただし「ミックスナッツ」と銘打って売っているのに、一番多く入っているのがバナナチップスだったのは、今でも納得がいかないのである。


登場したチョコレート:マカダミアナッツチョコレート
→言わずと知れたハワイアンホースト社。今から60年以上前、日系3世のマモル・タキタニ氏が、たまたまマカダミアとチョコレートを一緒に食べて、その美味しさに驚いたことがきっかけとなった。それでレシピを開発して工場を作ってしまうのだから、その行動力たるや。
今回のBGM:「展覧会の絵」by Emerson, Lake & Palmer
→ムソルグスキーのピアノ組曲を換骨奪胎した名作。アンコールの「ナットロッカー」(これはチャイコフスキー作曲)は、プログレの定番となった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?