第85回 チョコレートコスモス


チョコレートが嫌いという人は少ないと思う。
大好きとはいかないまでもチョコはあれば食べるよという人から、チョコレートを切らしたら生きていけないという重度の中毒者まで、チョコレートは万人に愛されているスイーツと言えよう。

ご存知の通り、チョコレートの原材料はカカオである。
紀元前2000年頃から栽培されていたというカカオであるが、古代マヤやアステカでは貨幣としても使われていたという。カカオをいろいろ面倒くさい工程を経てカカオマスとした後、現地ではトウガラシを入れたりして飲まれていたとのこと。
そもそもチョコレートは飲み物だった、という話はよく知られている。中南米からスペイン人によって西欧に伝わったチョコレートは、当初は薬として用いられていた。それが苦味を消すために砂糖を入れるようになって、次第に嗜好品としての立場を獲得していくのである。
王侯貴族や富裕層しか飲むことができなかった贅沢品としてのチョコレートは、19世紀に入ると「チョコレートの4大技術革命」によって進化を遂げる。その中には現在はココアで有名なバン・ホーテンが苦味を和らげる製法を改良したり、のちにチョコレート会社の大手となったリンツが口当たりを滑らかにしたりといった改革が含まれる。この過程でチョコレートは飲料からより手軽に摂取できる固形へと変化した。
19世紀後半になると、チョコレートは工場で大量生産され、一般市民の口にも入るようになる。ネスレ社やハーシー社などの大チョコレート企業が誕生したのもこの頃だ。
ちなみにチョコレートが日本に初めて伝わったのは江戸時代とされているが、本格的にその存在が知られたのは幕末とされている。

一時期カカオにはポリフェノールが多く含まれていて健康に良いとのことで、カカオ含有量が高いチョコレートがブームになったことがあった。
原料となるカカオマス自体はとても苦い。そして酸っぱくて渋い。カカオ比率が高くなるほど砂糖は少なくなるので、カカオ70%以上のチョコレートははっきりいってあまり美味しいものではない。ましてや99%なんてものはもはや薬だろう。それはそれで本来の用途に戻ったと言えるのかもしれないが。
あまり知られていないことだが、チョコレートに含まれるテオブロミンは、人間以外のほとんどの動物や鳥類にとって毒であり、中毒を起こして死に至ることもあるため注意が必要である。人間以外はテオブロミンを代謝できないのだ。テオブロミンは人間に於いてはリラックス効果をもたらすのだが、それが実は毒だという事実はなかなかに興味深い。
一方やはりチョコレートに含まれるチアミンは、鼻出血や片頭痛を引き起こす場合がある。片頭痛持ちの人はチョコレートを避けるように指導されるのはそのためである。
良いことも悪いこともあるチョコレートだが、砂糖と脂肪分でカロリーが高いため、食べ過ぎないに越したことはない。

20歳の頃、私は完全にチョコレート依存症だった。チョコレートがないとイライラする。いつもチョコレートを常備しておかないと不安になる。スパンクハッピーの(と言われているが正式のクレジットは”菊地成孔 feat.岩澤瞳”)「普通の恋」の歌詞ではないが、この時期の私は常に何かに対して怒っていた。「結局チョコレートが必要よ」と言いつつも、本当は他の何かを渇望していたのだと思う。
チョコレートを食べると、脳の中で麻薬によく似たエンケファリンという物質が増大するそうだ。その他にもPEAやGABAやカフェインなど、うつ状態に効果があるとされる物質もチョコレートには含まれている。
あの頃確かにストレスは多かった。しかしその大半の原因は今思うと、自分自身で作り出していた仮想敵だったかもしれない。その後徐々に心の硬い鎧が取れていくに従って、チョコレートの消費量は減っていった。

少女がチョコレートに依存するのは、戦わなければならない相手が多いからだ。
今日もチョコレート片手に世界に挑んでいる少女たちに。ご武運を祈る。


登場し(なかっ)た映画:「ショコラ」
→ジョアン・ハリス原作、ジュリエット・ビノシュとジョニー・デップ主演。他愛もない話といえばそれまでだが、登場するチョコレートの美味しそうなことといったら!
今回のBGM:「ハムスター」by ショコラ
→“僕 ハムスター 弱い あまり長生きできない”という歌詞が衝撃的だった。普通に良い曲です。


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