第120回 まきちゃんのリボン


リボンと少女は切っても切れない縁がある。
髪に結ぶだけでなく、服の飾りにもリボンは欠かせないアイテムだ。少女性といったときに一番に思い浮かべる象徴といえば、やはりリボンになるのではなかろうか。
だからこそリボンは敷居が高い。本来男性だろうが何歳だろうが、別にリボンを着けて悪いわけがない。しかし実際のところリボンを着けるといったら、ためらう人も多いと思う。可愛すぎないだろうか、いい年をしてと思われないだろうか、女々しいんじゃないか等々。
かくしてリボンは狭義の「少女」の特権とされてしまう。

さてここではっきりさせておかなくてはならない。
リボンといった場合、本来その言葉が指すものは「ヒモ状の織物」という意味である。西欧におけるリボンの歴史はその可愛らしい外見とは裏腹に、生産の権利などを巡って激しい抵抗や規制などが繰り広げられ、結構ハードであったようだ。
ここではその素材について言及しているわけではなく、リボンを用いてリボン結びをされた物体について語っている。
リボン結び、つまり蝶結びまたは蝶々結び。この蝶結びには苦い思い出のある人は多いのではないか。少なくとも私にはある。何度やっても縦結びになってしまうという経験が。これに関しては近年(!)やっと法則を覚えたので、絶対に縦結びにならない自信がある。まあ、自慢するほどのことではなくみんな普通にやれていることなのだろうが、自分にとっては大きな進歩であった。もう縦結びなんかしない(もう森へなんか行かない by フランソワーズ・アルディ)。

蝶結びではないリボンは汎用性が高く、色や付ける場所によって意味が付与されていることが多い。
略綬と呼ばれる綬=リボンは勲章の代わりに着用するもので、本来円形のロゼットなのだが日常的にはRibbon barという長方形のものが使われる。
このロゼット型の薔薇の花型の下に長方形の垂れが付いているものは、式典などの貴賓席で着けているのを見ることも多いだろう。これの正式名称はリボン徽章(きしょう)と言うが、リボン胸章という言い方も最近は多く使われているとのこと。この場合色は、主催者は白・来賓は赤というのが通例だそうだ。
おめでたい式典に対して、葬儀などの弔用にもリボンは使われる。この場合色はもちろん黒・白・灰色のモノトーンである。出席者が着けるリボン徽章だけでなく、弔意を表すために着けるリボンもある。左肩に着けた黒いリボンがそれで、喪章リボンと呼ばれる。
輪状にくるりと一巻き巻いたリボンはAwareness ribbonと言われるもので、リボンそのものでなくてもそれを描いたイラストなどによっても、世界各地で社会運動や社会問題に対して賛同の意を表す手段として用いられている。色によって意味が変わってくるが、有名なところでは乳がんの予防と啓発のためのピンクリボンが思い当たるだろう。9.11の後にはブラックリボンで哀悼の意を表す人が多かった。

長い髪を結ぶリボン、もちろん蝶結びのそれは、ヘアアレンジとして簡単に可愛くなれるアイテムである。三つ編みにリボンといったら、それこそ最強かもしれない。そういえば少女漫画誌にも「りぼん」という名前が使われている。「りぼん」は1955年創刊であり、1954年創刊の「なかよし」と並んで最古参だ。昔からリボンというものが少女を象徴するアイテムであったことが窺われる。
と書いておいてあれだが、私は髪を伸ばしていた時もあまりリボンを髪に着けていたことがない。それはやはりリボンに伴う可愛さといった属性に対し無意識のうちに反発するところがあったのだろう。
本当はサテンやグログラン、ベルベットにシフォンといった、それこそ美しく可愛らしい素材を用いたリボンで、長く伸ばした真っ直ぐな髪を結べばよかった。

リボンは少女だけのものではない。
いや、少女のものであるからこそ、少女性を兼ね備えた全ての人のものでもあるのだ。
リボンを着けよう、胸を張って、いま再び。


登場した雑誌:「りぼん」
→当初はつのだじろうや赤塚不二夫といった男性作家も多かった。『魔法使いサリー』はここに連載された横山光輝の作品が原作である。好きな掲載作品を1作だけあげろと言われたら、一条ゆかりの『デザイナー』かな。
今回のBGM:「少女都市計画」by アーバンギャルド
→かつて少女を斬新な切り口で解体再構成して、実際の少女たちに熱狂的に支持されたアーバンギャルド。その2枚目のアルバムに収録されている「リボン運動」に於ける、消費される存在である少女に対する批評的社会的観点は、今聴いても他に類を見ない独自性を保っている。

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