第138回 キティ・ザ・キャット・マグカップ・コレクション


マグカップには一家言あるという人は多いと思う。
ちょっとコーヒーやお茶を飲むという時に、お気に入りのマグカップを手に取る。手にしっくりと馴染む心地良さよ。その際に持ち手が細すぎても狭すぎてもいけない。妙に重くても傾けづらいし、縁の厚さがあまり薄くても口当たりが心許なくなる。
どこも気になるところがなく、自分の身体の一部のように手にすることができるマグカップに巡り会うと、とても嬉しいものだ。

もちろんコーヒーや紅茶は、それ専用のカップ&ソーサーで飲むのが本来の味わい方だろう。ちょっと高級なC&Sを用意してゆっくり味わうのは、贅沢で豊かな時間だ。しかしほっと一息入れたい時やとにかく何か暖かい飲み物を飲みたいという時に、いちいち食器棚から取り出すのは少々面倒である。ずぼらなことを言えば、マグカップならカップだけ洗えば済むので気が楽なのだが、C&Sの場合カップと皿の両方を洗わなければならない。
また職場で何か飲む時にも、自分専用のマグカップがあると安心だ。マグカップはささやかな自分だけのコージーコーナーとなってくれる。気を張る仕事の最中でも、マグカップを手にした時だけは肩の力を抜いて息を抜くことができるのだ。
もちろんそれがマグカップではなく、湯飲みだという人もいるだろう。寿司屋の湯飲みのような分厚くて大きめの湯飲みは、両手で掴むとその温もりが伝わってきてほっとする。しかし湯飲みには取っ手がないので、持つ際に不安定になりやすい。
その点マグカップは取っ手をしっかり持つことができるので、安心だ。たまに取っ手が取れるという悲劇が起こることもあるが、それはまあご愛嬌。

ちなみにマグカップというのは和製英語で、英語では取っ手の付いた円筒形の大きめのカップは単にmugという。
確認されている最も古いカップは、12000年前の日本や中国の新石器時代の地層から発見されている土器だが、これには取っ手はない。7000年前のギリシャのカップには取っ手があったが、これは陶磁器ではなく金属製である。
陶磁器の技術は東アジアで発達した。1400年前の中国の地層からは、生地が薄く取っ手の付いた焼き物のマグカップが発見されている。その後も東アジアでは美しく優れた陶磁器が生み出され、世界各地に伝わっていった。
中国の磁器はポーセリンと呼ばれ、その白く薄い生地は西欧で愛された。それを目指して作られたのが、18世紀に英国で発明されたボーンチャイナである。英国4大名窯のひとつであるスポードによって完成されたこの焼き物は、その名の通り牛の骨灰を陶土に混ぜて焼かれており、素地が薄いにもかかわらず強度が強い。
いまでは陶器や磁器だけでなく、美しいガラス製や保温保冷に優れた二重構造の金属製のものなど、素材も多様になっている。マグカップの素材によって味が変わると豪語する人もいる程で、このあたりもこだわりのポイントだ。
18世紀の西欧では、取っ手のないカップに飲み物を入れてミルクなどをスプーンで混ぜた後、深めのソーサーに飲み物を移してソーサーから飲んでいた。当時中国の景徳鎮から輸入されたカップには、取っ手は付いていなかったのだ。
カップに取っ手を付けたのはドイツのマイセンが最初で、ドリンク用のチョコレートが熱かったからだそうだ。確かにチョコレートドリンクは熱い。なかなか冷めないし、ドロドロでソーサーに移しにくい。偉いぞ、マイセン。
その後取っ手付きのカップが普及するに従い、現在のマグカップのような大きめの円筒形のカップも作られるようになってくる。C&Sの場合もカップに取っ手が付いているのが一般的となり、ソーサーも浅くなった。

日常使いできるマグカップはグッズとしても人気がある。
推しに貢ぎたいがもう一生分のマグカップはあるので他のグッズを作ってほしいという悲痛な叫びをSNSで読んだことがあるが、確かにマグカップは手頃なアイテムではあるので、グッズにしやすいのだろう。
取っ替え引っ替え使う楽しみがあるとはいえ、マグカップの唯一の欠点は重ねて置いておけないということだ。とにかく場所を取る。
とはいえまた猫柄のものなど見つけると、いそいそと買ってしまうので困ったものだ。
かくしてマグカップのコレクションは増えるばかりなのであった。


登場した用語:4大名窯
→その中のひとつであるウェッジウッドは、当時誰もやっていなかったカタログ販売を発明して、ヨーロッパ中に名を売ったそうだ。
今回のBGM:「Nine Destinies & A Downfall」by Sirenia
→北欧食器はデンマークのロイヤルコペンハーゲンが有名だが、ノルウェーにも素敵なブランドは多い。北欧といえばヘビメタ。ノルウェー発シンフォニックゴシックメタルの3枚目はキャッチーでいいぞ。


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