第26回 制服考


中学校の制服はセーラー服だった。
学年毎にスカーフの色が異なり、1年は赤、2年は緑、3年は紺と、今思い出してもなかなか洒落ていたと思う。ツーピースで、ボトムはお約束のプリーツスカート。ブラウスが短めだったのでちょっと気を使う。あてられて黒板に書くときには、片方の手でブラウスの裾を引っ張りながら書いたりもした。ちょっと生意気な子たちは、夏場にブラウスの下はブラだけだったりしたので、そうやって手を挙げると肌が見える。きちんと下着を着なさいと先生にえらく怒られたりもしていたものだ。

高校は都立高校だったが、同じ学区の片方は私服でもう片方は制服だった。どちらに振り分けられるかでその後の高校生活の様相はかなり異なる。当時は今のように制服で学校を選ぶというようなことは珍しかったし、何よりもお洒落で魅力的な制服というわけではなかったので、私服の方が人気だったのだ。
私が進んだのは制服のある白鴎高校の方だった。元々は明治時代に創立された東京府高等女学校、後の東京府立第一高等女学院という由緒ある高校で、当初は名前の通り女子校、1950年からは男女共学となっている。
この高校の制服がいっぷう変わっていた。調べてみると「日本で最初にボレロを制服に採用」という記載があるが、そうかあれはボレロだったのか。ジャンパースカートの上に羽織る上着なのだが、なんとも形容しがたいデザインなのだ。いうなればシャネルスーツのジャケットの形に、前は一番上に付いている身頃と同じ生地でできた紐でリボン結びにするだけ。ボタンで止めるとかではない。だいたいイメージできただろうか。どうやらこの制服のデザインは日本の学校制服界(というのがあるようだ)では「イートンジャケット」と呼ばれているらしいが、本当のイートンジャケットはイートン・カレッジの制服として用いられている丈の短いジャケットのことであり、全然違うものだ。被服学用語では単に「カラーレスジャケット」と呼ばれている。

このボレロ型ジャケットもジャンパースカートも濃紺であった。いわゆるネイビーブルーである。制服にはこのネイビーブルーという色がとても多い。今はベージュやタータンチェックなどもあるが、制服といえば基本はネイビーだろう。
ネイビーというのは元々海軍という意味であるから、セーラー服とは出自を同じくしていることになる。水夫の服であったセーラー服は、ヴィクトリア女王が気に入って王太子の子供服のデザインに取り入れたことから、子供服として流行、その後女性のファッションとしても人気となった。
アニメでは少女のアイコンとしてよく登場するため、コスプレでもセーラー服はお馴染みだ。それもあってセーラー服というと若い子限定のような印象を持たれるかもしれないが、このセーラー服というものはどの年代にも似合うアイテムなのである。試しにファッション史を辿ってみればわかるが、1920年代ジャズエイジのスリムなセーラードレスをマダムが着こなしていたりと、大人にも十分似合うデザインなのだ。

学校の制服という限られた意味から外の世界への架け橋として、セーラー服は開かれている。
いくつになっても少女性を保ちながら生きられるように、いまこそ胸を張ってセーラー服を着ようではないか。


登場した学校:都立白鴎高校
→2005年から都立初の中高一貫校となったそうだ。元々女子教育の先駆として始まった女子校ということもあり、男女共学となっていた在学中でも圧倒的に女子の存在感が強かった。理念は「開拓精神」だという。いいね。
今回のBGM:『オオカミの二言』by 日食なつこ
→逆説的に「少年少女ではいられない」。弱いけど強い、そんな大人でいたい。

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