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『イモータリティ』について書かれた、瞠目すべき記事たちを紹介します(Netflix版配信開始記念②)

『イモータリティ』Netflix版(Andoloid/iOS)配信開始記念(前回はこちら)。第2回は傑作実写FMV(フルモーションビデオ)ゲームであると同時に、ある種の「映画」である(と筆者は考えている)本作について書かれた、様々な視点から書かれた素敵な記事たちを紹介していきたいと思う。

後述する1本の記事を除いて、読むのは本作をプレイする前でも後でもかまわない。ただ、これからプレイされる方で、ネタバレを「完全回避」して本作の概要と意義を知りたいという方は、まずはこの記事を読んで頂きたい。

「ゲームの夢、映画の魔——『IMMORTALITY』について」

SF作家・千葉集さんのブログ「名馬であれば馬のうち」より。本作の魅力を余すところなく包摂している、誠に素晴らしい記事。「映画」と「ゲーム」の在り方の違いや「幽霊」といった切り口で、本作の独自性・画期性を細やかな筆致で書ききっている。本作の「キモ」に直接的に触れないよう細やかに配慮していることにも頭が下がる。
繰り返しになってしまうが、本当に溜め息が出るほど素晴らしい批評文である。一節を引用させて頂くことも考えたが、この詩的でさえある文章に対してはあまりに無粋と思うので止めた。全文読んでほしい。
代わりに、ここで千葉集さんが引用していた黒沢清監督の発言をここにも引かせて頂きたい。この一節はまさしく『イモータリティ』が内包しているテーマ(映画的存在論と言っても良いだろう)を如実に顕しているように思うから。

「「存在していること」が「見ること」によって保障され、同時に「見ること」の可能性が「存在そのもの」によって極限まで高められる、これが作る側と見る側とが共に経験する映画というプロセスなのではないでしょうか。そして、見るためには当然光が必要です。光があれば、突然反対側に闇ができます。これが映画というものです」

Immortality 不死性の条件

ゲームを哲学的視点から考察するようげさんのブログ「Game Meditation」より。
「見るもの」と「見られるもの」との関係、そしてやはり黒沢清監督の『降霊』を引きあいに出され、プレイヤーという有限の存在によって実現される「不死性(Immortality)」について慎重に、とても真摯に書かれている。
(ちなみに本作の作者・サム・バーロウ氏もNMEインタビュー記事(英語)で黒沢清映画について語っていた。バーロウ氏は『イモータリティ』のインスパイア元となった作品として黒沢清『CURE』とデヴィッド・リンチ『インランド・エンパイア』を挙げている)。

本作をプレイした時、自分もようげさんに近い興味・所感を持ったように思う。興味の対象をざっくり言うなら、「現象学」と視点(View-point)ということになるかもしれない。サム・バーロウ氏の前作『Telling Lies』前々作『Her Story』においても「この映像を見ているのは誰なのか?」について自覚的な描写が見られたが、本作では簡単には「それ」を名指すことができない作りに深化している。
また、本作における視点の問題は「見るもの(プレイヤー)」と「見られるもの」の関係のみに留まらず、「性差」によって生まれる視線(サム・バーロウの作品には「セックス・ジェンダーにおける性差」というテーマが伏流しているように思う)、認識主体が対象を顕在化させる「主観」としての視線(フッサール現象学で言うところのノエマとノエシス)、複層する視線(主体と客体が存在することによって誕生する「遅れて出来する」レヴィナス現象学的視点)といった、いくつかの位相における視線が混在しているように思われる。そうした問題提起を投げかけ、本作の「謎」を深めてくれる、たいへんに希有な哲学的考察記事である。

『Her Story』に匹敵する実写ADVの傑作〜『Immortality』評

IGN Japanでも記事を書かれているOtomaruさんのnoteより。『Her Story』『Telling Lies』と比べての本作の「ゲーム」としての敷居の低さ、完成度の高さという着眼点からきわめてユーザーフレンドリーに記されている。
このnoteを読むと本作において長期的な目的(全体の謎を解き明かす)、中期的な目的(映画のフィルムを復元する)、短期的な目的(映像の中の秘められたシーンを見つける)という3つの目的が『イモータリティ』というゲームの中で意識的に扱われ、バランスよく機能していることがよく解る。

インパクトの強い映像と秘められた謎ばかりに目が行ってしまい、本作のメカニクス部分はいささか見過ごされがちかもしれないが、ゲームデザインの観点から捉えることも非常に重要であろう。実際、作者サム・バーロウはNMEインタビューで『ポケモンスナップ』(!)を引きあいに出していた。
ただ、Otomaruさんが指摘するように本作のゲーム的難点——「フィルム集めを目的にすると終盤のプレイがクリックの繰り返しになってしまう」については自分も同感で、作業的になるうえに、本作の持っている神秘性がフィルム収集に伴って薄れていく……と感じられる方もいるかもしれない。
対象物をクリックした時のジャンプ先が完全にランダムな作りになっている本作の異色なシステムはプラスであると同時に、足枷にもなっていたのかもしれないと、Otomaruさんの記事を読んで気づいたのだった。

サム・バーロウ監督作品『Immortality(イモータリティ)』の謎を考察(ネタバレあり)

本作の楽しみ方としては、前述したように作業的なプレイに陥る前に、謎を謎のまま残し、エンドロールを観たらプレイを止めてしまうという楽しみ方もアリだとは思う(それゆえにサム・バーロウ氏も比較的早い段階でエンドロールを設定しているのではないか)。
ただ、本作が抽象レベルに留まらない強固な「物語設定」を持っていることは、狂猫病さんのnoteを読むとひしひし伝わってくる。本作の複層する次元・時間軸を3つの視点から名探偵のように細かに読み解いてみせた、まさしく圧巻の内容である。

以前、自分は『イモータリティ』の謎に包まれた世界を全て具体的な物語解釈に引きつけて考察するのは、いささか無粋なのではないか、あくまで「あの存在」は、抽象や象徴といったレベルで「曖昧模糊」に捉えておいた方が見えてくるものが大きいのではないか、とも考えていた。
しかし狂猫病さんのこの記事を読んだ時は驚愕した。本作がここまで緻密なシナリオと時間軸に基づいた物語だったとは……。この記事のおかげで、自分の中で宙吊りになっていたいくつかの疑問がすっかり氷解した。
個々のプレイヤー(鑑賞者)の内で凍結していた疑問や印象を有機的に拡げてくれたすばらしい考察記事である。これまで紹介した記事の中で、このnoteだけは少なくともエンドロール後——できればフィルム集めをほとんど済ませてから——読んで頂きたい(と、狂猫病さんも推奨されています)。

ゲームファンと映画ファン、どちらにも触れてほしい『Immortality』のすごさを紐解く――“見えないもの”を示現させる「装置」とは?(ややネタバレあり)

ラストに、私(ラブムー)の解説記事を(きわどいサムネを非表示にして、リンクのみに留めておきます)。

自分がここで一番書きたかったのは、本作における「ゲーム」という形態が、「映画」としての形態だけでは「見得ぬ何か」を目撃するための「装置」として見事に機能しているということ。バーロウはそのために(映画とゲームを架橋するために)、本作を作ったに違いない! そんな暴走する興奮とともに、本作をゲームをプレイしない映画ファンに少しでも心に留めてもらう。ほとんどそれだけを目的に書いた。
あとはレビュー記事として末尾に迷わずMasterpiece(10点満点)をつけたかったのだけれど、IGN Japanではすでに米IGN誌のレビュー記事の翻訳版が掲載されていたため、それが叶わなかったのが唯一の心残りである。
「隠されている存在が映りこんでいる画像」を見ても良いという方は、上記の素晴らしい記事たちを読んだ後に拙文もぜひっ。

『イモータリティ』Netflix版配信開始記念、第3回に続きます!

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