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『Her Story』に匹敵する実写ADVの傑作〜『Immortality』評

前置き

先日(10/26)、ついに『Immortality』をクリア(ゲーム中の全映像断片を視聴)しました!

本作は、先日IGN JAPANの「しゃべりすぎ GAMER」に出演させていただいた際に、僕がプレイ中のゲームとして紹介したのですが、その時点の進捗は、ゲーム全体からすると中盤くらいでした。

この記事では、動画出演時に作ったメモをベースに、クリアした後の感想も踏まえて、本作『Immortality』を評論したいと思います。

なお、本作に関しては、既にラブムー氏(@Lovemooooooo)によって、本作の深い部分まで考察をした評論が発表されています。

本記事では、テーマ根幹までを捉えたようなレベルの高い評論は望むべくもありませんので、あくまで、主に未プレイの方に興味を持っていただくためのゲーム紹介を目指したいと思います。

ゲーム概要紹介

本作『Immortality』は、傑作インディ・ゲームとして知られる『Her Story』を生み出したことで有名なSam Barlow氏の最新作です。PCとXboxでリリースされていて、Xbox Game Pass・PC Game Passにも対応しています。

Sam Barlow氏のこれまでの作品全てと共通するのですが、本作は全編実写映像を使用しています。

『Immortality』本編より

ストアページ等で説明される本作の目的は、1968年から1999年までにわたる多数の映像の断片をつなぎ合わせ、マリッサ・マルセルという映画女優が出演した3本のフィルムを復元して、彼女が辿った人生を知ることです。

ただし、本作には、『Immortality(不死)』というタイトルに通じる「ある秘密」が仕込んであり、「その秘密を解き明かすこと」が真の目的であるということが、徐々に明らかになってきます。

プレイを始めると、映像編集ソフトのような感じで、何本かの実写映像のサムネイルが表示されます。

ゲーム画面。これはゲームをかなり進めた後の状態ですが、プレイ開始直後がごくわずか(2〜3本程度)のサムネイルだけがアンロックされています。

試しにどれかを選んで再生してみると、それは、古い映画の未編集のフッテージだったり、俳優たちのオフショットやリハーサル風景を収めた8mmフィルムだったりします。

映像は一時停止することができ、写っている対象物(例えば、俳優やセット内の机や椅子など)をクリックすることができます。そして、例えば俳優をクリックすると、その俳優が写っている別のフッテージに飛びます。このようにして、どんどん新しい映像の断片を増やしてゆきます。

本作の評価〜『Her Story』に匹敵する実写ADVの傑作!

本作のクリエイターであるSam Barlow氏に対する世間の一般的な評価ですが、おそらく、1作目の『Her Story』は間違いなく傑作!…だけど、次作の『Telling Lies』は賛否両論、という感じだと思います。

Sam Barlow氏の名前を一躍有名にした『Her Story』(2015)。初めて遊んだ時は、衝撃的でした。

その点でいうと、僕は、今回の『Immortality』は『Her Story』に匹敵する傑作だと感じています。

振り返ると、1作目の『Her Story』は、登場人物はほぼ1名、プレイ時間もかなり短かったので、それだけに、ビデオから浮かび上がる衝撃的な真実の切れ味が際立っていました。

一方、その次の『Telling Lies』は、登場人物もボリュームも増えた分、焦点がぶれてしまい、話がどこへ向かってゆくか分からない動画の断片を延々観させられるところを、やや苦痛に感じる難点がありました。

『Telling Lies』(2019)。映像のクオリティは高いのですが、狙いがうまくいっているとは言い難い作品でした。

その点、今回の『Immortality』は、「全体に隠された謎を解き明かす」という大目的があるのはこれまでの作品通りなのですが、大きく2点の工夫によって、格段に遊びやすく、「ゲームとして」楽しめる作品になったと思います。

1点目は、ゲームプレイを「映画のフィルムを復元する」という作業にしたことです。

1つ1つの映像断片にはシーン番号が振られているので、例えばシーン1とシーン5が復元済みの場合は、「この間に3つシーンがあるんだな」ということが分かります。そして、「そのシーンに飛ぶためには、どの対象物をクリックすればいいかな…」といった具合に、攻略を考えることができます。

本作には「アンブロシオ」「ミンスキー」「Two of Everything」という3本の映画のフッテージが含まれています。それらをシーン順につなぎ合わせることで、映画全体を観ることができるようになります。

2点目は、映像をただ観るだけでなく「映像の中にもインタラクティブな仕掛けを入れたこと」です。

映像を観ていると、時々、不穏な音楽が流れ出し、コントローラが震える場合があります。そのタイミングで逆再生操作を行うことで、隠された映像を観ることができます。このように、映像をただ視聴するだけでなく、隠されたシーンを探し出すという、ビデオゲームらしい遊びが用意されていることが本作の特徴です。

さまざまな映像の中に隠された「存在」。それは本作のテーマとも直結する最大の謎です。

このように、「全体に隠された謎を解き明かす」という、過去作にもあった長期的な大目的だけでなく、「映画のフィルムを復元する」という中期的な目的、そして「映像の中の隠されたシーンを見つけ出す」という短期的な目的がそれぞれ設定されることで、ビデオゲームとして遊びやすく、楽しめる作品に仕上がったということができます。

本作に残された難点

このように、過去作で遊びづらかった部分をかなり高いレベルで克服することに成功した本作ですが、依然として難点も残されています。

それは、ゲーム展開を誘導するシステム的な仕掛けが存在しないため、終盤になればなるほど、クリックを繰り返すだけのプレイになってしまう点です。

映像中の被写体をクリックすると、その被写体が含まれる別の動画に飛ぶことは前述した通りですが、その飛び先は完全にランダムです。必ず未視聴の映像断片に飛べるわけではなく、視聴ずみの映像に飛ぶこともあります。

中盤まで(具体的には、エンドロールが流れてゲームが一旦の区切りを迎えるまで)であれば、このような「誘導の無さ」は大きな問題になりません。完全ランダムであっても、順調に映像をアンロックしてゆけるからです。

しかし、終盤に近づき、未視聴の映像が残り10個を切るあたりから、ほとんどゲームが進行しなくなります。Steam Communityには、「全動画のリスト」と「なんの被写体をクリックすればその動画に到達できるか」が掲載されているのですが、上記の通りリンク先は完全ランダムなので、必ずしも目当ての動画に行き着けるわけではありません。

つまり、目当ての動画を引き当てるまで、ひたすら同一被写体のクリックを繰り返すことになります。攻略情報を見ない場合、さまざまな被写体を当てずっぽうにクリックすることになるため、コンプリートは一段と難しくなります。

このように、終盤になるほどゲームプレイが単調になってしまうのは、過去作にも存在し、本作にも残されている難点ということができます。

まとめ

今回は、Sam Barlow氏が贈る実写アドベンチャーゲーム『Immortality』をご紹介しました。先日IGN JAPANの「しゃべりすぎGAMER」に出演した際のメモをもとに、加筆しました。

本作ですが、激しい暴力表現や性的表現をおこなっているシーンがかなり多くあるので、万人におすすめなゲームというわけではありません。しかし、少し変わった、それでいて「面白いゲームを遊んでみたい」と思われる方は、手にとってみる価値があると思います。

僕のプレイでは、終盤付近でアンロックした動画。詳細は伏せますが、主人公の無念さがひしひしと伝わってきて、思わずウルっと来てしまいました。

本作は、発売と同時にXbox Game PassおよびPC Game Passに収録されており、気軽に手に取ることができます。この記事が、本作に興味を持つ方が増えるきっかけになれば、それに勝る喜びはありません。

(了)

2022.10.29 Itaru Otomaru


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