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【後編】文章がうまくなるトレーニング法

「コンテンツの力で、経済と人を動かす」をビジョンに掲げ、サービスを開発中の新会社PIVOT。

ここに集まるメンバーには、どんな思いがあるのか。

これから何を生み出そうとしているのか。

活字チームのメンバーが、新時代のクリエイターと組織について語った。

スピーカーは、PIVOT代表取締役CEO・佐々木紀彦、エグゼクティブ・ライターの宮本恵理子、エグゼクティブ・エディターの上田真緒。鼎談は9月上旬にオンラインで実施。文中敬称略。

起業すると自分の世界が広がる

上田 さきほど宮本さんから「PIVOTのメンバーはプロフェッショナルで勉強熱心」という言葉がありましたが、やはり誰よりも勉強熱心なのは佐々木さんだと思います。

起業の準備を始め、まさにゼロから会社をつくるプロセスを見ていると、インプットの量、質、幅が尋常ではない。

新しいメディアやビジネスモデルの構想を四六時中考えながら、資本政策やUI/UX、人事制度、著作権など全方位的に膨大な量の勉強を楽しそうにされています。

宮本 そうですねえ。

上田 本やネットで学ぶだけでなく、毎日いろいろな人に専門分野の話を聞いて、得た知見をその日のうちにメンバーにシェアしてくれる。そのアウトプットの質、量、スピードにも驚愕しています。

佐々木 褒めてくださってありがとうございます。

上田 佐々木さんは数字にも強い。

佐々木 いや、数字は強くないですね。弱いからこそ、ちょっと意識してやっている。やらざるを得ないから勉強しているんです。

宮本 でも知らないことを学ぶ才能があるんだと思いますね。

佐々木 好きなことだからですよ。とくに起業すると、今まで食わず嫌いだったテーマを勉強することになり、自分の世界が広がっていく感じがします。

上田 忙しい起業準備の合間に、本まで執筆されています。佐々木さんが学び、考えていることを詳しく知りたい方は、10月24日に発売予定の新刊『起業のすすめ』をぜひお読みください。

佐々木さんがシェアしてくれる様々な知見はもちろん面白くてためになるのですが、私が一番驚いているのは、佐々木さんのメモ書きがメモの域を超えて完成された原稿になっていることです。

朝から晩まで続くオンラインミーティングが終わった後にさっと送られてきたりする。いつどうやって書いているのでしょう? 宮本さんも速くてうまいですが、佐々木さんもすごい。

佐々木 慣れですよ。

文章がうまくなるには

上田 読者の皆さんの中には、編集者や記者・ライターの仕事に関心のある方も多いと思うので、お二人に文章術について聞きます。

以前、佐々木さんに「文章がうまくなるために文章術の本などを読んだことがありますか」と尋ねたら、谷崎潤一郎の『文章読本』を読んだくらいだと言われました。

早速、私も読んでみたのですが、あれで本当にうまくなりますか。やっぱり才能じゃないでしょうか。

佐々木 ああ、私は文章の才能はないです。学校の国語の授業で褒められたことはほとんどないですから。ただ、わかりやすく書くことはトレーニングで誰でもできるようになりますよ。

上田 それは「週刊東洋経済」の記者時代に鍛えたのですか。

佐々木 鍛えたところもありますけど、どうだろう。宮本さんの方が断然うまいと思います。

宮本 いえいえいえ。

上田 宮本さんにも以前、なぜそんなにうまくて速いのか尋ねたのですが、はっきりした答えは得られませんでした。

でも、お父様が国語の高校教師だと知って、DNAや環境の要因が大きいのかと軽くショックを受けまして。

宮本 うーん、どうでしょう。子どもの頃から本が身近にある環境ではあったと思います。

読書量の多さは必要条件

佐々木 文章がうまくなるには、やっぱり読書ですよ。読書量の多さは、十分条件ではないですが、必要条件ではありますよね。

上田 宮本さんはやはり大量に読みますか。

宮本 佐々木さんほど読んではいないですよ。佐々木さんの読書量はきっとすごいと思う。いつ読んでいらっしゃるのかわからないけど。

佐々木 いや、それは幻想ですね。大学時代と留学時代は読みまくりましたけど、仕事をしているとそんなに読めないですし、ほかに本を読んでいる方はいっぱいいますから。

猪瀬(直樹)さんの事務所に行ったらビックリしますよ。事務所のビル全体が図書館のようですから。

上田 作家の方はやはり違う。

宮本 読書量は、私はそんなに自信がないですけど、ストーリーを描くという意味では、短い文章でもテキストだけで情景やステップを、エモーショナルかつわかりやすく伝えるように心がけています。

たとえば、ジャーナリストの佐々木俊尚さんの料理の本って、完成した料理の写真と短いエッセイのような文章で、どうやってつくるのか、どんなにおいしいのかをリズムよく端的に表しているんですね。そういう本も、間接的に文章の参考になるなと思いながら読んでいます。

佐々木 文章にもいろんな種類のうまさがありますよね。

宮本 そうですよね。

佐々木 人を描くとかね。

基本スキルをどうやって鍛えるか

上田 それで谷崎潤一郎なんですか。ただ、編集記者としてのキャリアの最初に、佐々木さんは東洋経済新報社、宮本さんは日経ホーム出版社(現日経BP)でいろいろな編集長やデスク、校閲の方に文章の基本を叩き込まれたはずです。それはとても重要ですよね。

宮本 重要だと思いますね。

上田 叩き込まれることを当然のように考えていらっしゃるかもしれませんが、そのトレーニングをどこかのタイミングで経ないと、なかなかプロになれないと思うんです。

私はキャリアの途中で業務委託契約で日経BPのビジネス誌に入ったので、編集部にいられる間にちゃんと鍛えて早く独り立ちしなければという危機感がありました。

それで当時の編集長やデスク陣に「どこの媒体でも通用するように、私の原稿に徹底的に赤入れをしてください」と頼み込んだ。それが結果的に良かったと思っています。

佐々木さんや宮本さんを見ていても、やっぱり老舗メディアで鍛えるのがいいんだろうなと。

佐々木 老舗メディアかどうかよりも、トレーニングシステムがあるか、その人が本を読み込んでいるかどうかが大事ですよ。読書を大量にして、大量に書いて、大量のフィードバックを受けたら、老舗メディアに行って鍛えなくても大丈夫です。

宮本 それに今回、PIVOTで活躍してもらう方は、もう基本スキルはある程度備えている方ですよね。

上田 基本スキルをどこで習得された方がいいのか。

佐々木 むしろ新聞みたいな文体を叩き込まれると、文章が紋切り型になる可能性もありますよ。

宮本 わかります。新聞記事って重要な情報から先に書いて、後ろの方ほどカットできるという手法ですよね。

上田 いわゆる「逆三角形」の型。でも、新聞のように速くわかりやすく書くスキルも大事だと私は思います。

リーダーは「2つの文体」を融合せよ

佐々木 大きく言うと、文体には2つあるんです。新聞のように短く要点だけ伝えるもの。戦争で言うと、インテリジェンス機関の手法ですよね。

宮本 「報じる」文体。

佐々木 それはビジネスと似たところがあって、ビジネスもいかに無駄なく伝えるかが重要ですよね。そういう文体が1つ。

もう1つの文体は、別に短くなくてもいいから、情景や心情などをうまく描いて、人の心を動かすもの。そういううまさはまた別なわけです。

短文で有名な話は、『坂の上の雲』に出てくる秋山兄弟の弟さん(真之)。バルチック艦隊との海戦に際して「本日天気晴朗(せいろう)ナレドモ浪高シ」と短いけれど文学的な文言で大本営に打電したんです。情緒的すぎるとの批判もありますが、歴史に残る文章になりました。

新聞記者やビジネスパーソンは、簡潔にわかりやすく伝える文体ばかり鍛えすぎていると思います。

でも、とくにリーダーは人の心を動かさないといけないので、もっとエピソードを入れたり、いろどりのある文章や語り方が必要です。

2つの文体の両方を使うのがうまかったのが、イギリスの元首相・チャーチルです。だからチャーチルはノーベル文学賞まで取っている。

オバマ元大統領の文章も小説的ですよね。彼は小説が大好きで小説家になりたかったそうです。

だからリーダーには文学的に伝える能力も大事です。日本のリーダーにも、両方の文体を使えたり融合できる人がもっと増えてくるといいですね。話が退屈なリーダーが多いですから……。

宮本 これからのリーダーはいかに語れるかが重要ですよね。

佐々木 PIVOTのビジョンは「コンテンツの力で、経済と人を動かす」ですから。

宮本 心を動かすだけなく、行動に結びつけるようなコンテンツに私もチャレンジしていきたい。「いい記事を読んだね」で終わらせたくない

佐々木 人を動かす経済コンテンツをつくっていきましょう。

じゃあ私、そろそろ到着してタクシーを降りますので、あとはよろしくお願いします!(Zoomから退出)

上田 佐々木さんはやっぱり教養人ですね。

宮本 ほんとに。

上田 こういう環境で刺激を受けながら働くことに興味のある方はぜひご応募ください。



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