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海外旅行ができなくて悲しい

私は海外旅行を趣味の一つとしている。
とは言っても、頻繁に国外に飛び立っているわけではなく、実際の旅行頻度としてはせいぜい数年に1回くらいのものである。日々慎ましやかに生活し、少しまとまったお金ができたところでエイヤッ!と飛行機に乗る、そんな感じの旅人だ。

「数年に1回しか実行しないことを趣味と呼べるのか」という疑問を持たれそうな気もするが、いやいや、「海外旅行が趣味」というのは、その国を訪れている数日間だけのことを指すわけではないのである。

「あの国に行ってみたいなぁ。この国も良いな。」と行き先を選ぶところから始まり、お金の目処が付いたら全身全霊を懸けて職場から連休をもぎ取り、航空券とホテルの予約をした日にゃあもうテンションがうなぎ登り。旅の口コミサイトを徘徊しまくって現地の情報を収集し、景気づけに本屋で地球の歩き方も購入し、滞在中の各日のスケジュールを考え、現地で迷子にならないようにGoogleストリートビューのチェックも怠らず、そして出発の日が近づいてくると何故だか急にちょっとテンションが下がり、「やっぱりヨーロッパじゃなくて沖縄にしとけば良かったかな…」などという謎な心理状態に陥ったりもしつつ、いいやでも行けば楽しいはず!!!!と振り切って外国へ飛び立つ。現地では自分なりの珍道中を思う存分楽しみ、各所で写真を撮りまくり、帰国後はその写真を整理したり旅行記を書いたりして思い出に浸る。その思い出が徐々に干からびてきたら、また「次はあの国に行ってみたいなぁ」と考え始める。
この、一連の流れのすべてを、「趣味」と呼ぶのである。

そしてこの趣味はまた、お手軽な現実逃避の手段でもある。
日々の生活の中で嫌なことがあった時に、「でも旅行楽しみだしな。」と心の拠り所にすることができる。外国で出会う物事は全てが新鮮で、自分にとって非日常で、「街で聞こえた救急車のサイレンの音が日本とは違ったなぁ。」とか、そんな些細なことでも後々かけがえのない思い出となる。たまに現実を離れて異邦人となる数日間の体験は、私の人生において強烈なリフレッシュ作用を持つのだ。

例のウイルスが登場して以降、この趣味および現実逃避が一切できなくなってしまった。
「計画だけでも立てればいいじゃない」と思われるかもしれないが、実現への具体的な目処が立ちようのない計画は、期待よりも無力感が勝ってしまう。何を考えたところで、世界から「それは無理です出来ませんーー!!」と押さえつけられている状態なのだ。辛い。悲しい。


最近、とりあえず事務的な手続きとして、有効期限が残り少なくなっていたパスポートを更新した。新しいパスポートの各ページには、富岳三十六景が美しく描かれている。有効期限は10年。
一日も早く、この日本が誇る葛飾北斎の傑作を、海外の無愛想な入国審査官に見せられる日が来ますように。

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