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あなたが教えてくれた方法で

中村屋の前で待ち合わせ。
珍しく余裕の時刻に到着。遅刻すると言われ、気遣わせないように気遣う。
お互いいつもと違うよそ行きの服。エレベーターを2人で見つめながら、事前に頭で練習してきたように「緊張するね」と言った。
対面で座るとやっぱり照れ臭い。異国の匂い。ナンプラーのような香りがする。
服を褒められた。前日に300円で買った話をした。その服を選んだ時点で想定していた会話。時間をかけて選んだ甲斐があった。
付き合ってる人の話をした。恋人は女の子と伝えた。そんな気はしていたから嬉しいと彼は言った。気づかれていたなんて。でもこちらも彼に対して隠す気は特になかった。セクシャル マイノリティの存在に考えが及ぶかどうかを「レイヤーが見える人と見えない人がいる」と彼は話した。賢く優しい人だ。彼も模索していると言った。
ご飯はそこそこに美味しかった。けど、そんなことどうでもいいくらい体が強張ってた。どの料理が好きだったと聞かれ、答えに迷って、全部同じ味と言ってしまった。
話の内容自体は楽しめていたと思うけど、どんな顔をしたらいいか、どこに手を置いたらいいかに意識が行きすぎて気が散漫だった。
和田誠展に備えて1冊本を読んできてくれたという。素直で真摯でいじらしいなと思った。ありがとうと伝えた。
事前に言ってくれていた奢るという言葉に甘え、店の外で待ち、ご馳走様と言った。図々しい女と思われたくなくて、言い訳しようか、一度形式的にでもお伺いを立てようか迷ったけど、打算的すぎると思ってやめた。
和田誠展ではかわいいとへえと猫だねしか言わなかった。退屈してないように見られたかったし、意識的に興味を持とうとしていた。疲れた。展示内容が面白かったかどうかはよく分からなかったけど、目の前のこの人がどう思うのか知りたいと思った。恋人が好きそうな作品の写真を撮ろうとして「でもこれ見せるときなんて説明すればいいんだろう」と思った。
ドアを開けておいてくれる。エスカレーターの立ち位置は気にしない。電車の座席は端を譲ってくれる。飲食店の席は上座を空けてくれる。全部が肯定的に見えたから自分の気持ちは大丈夫だと確かめる。

秘密を教えてくれたので私も言いにくいことを言う気になった。秘密を共有してくれることが嬉しい。
盛り上がってはいなかったけど、もっと話したかった。向こうがどう思っているか気になって沈黙が気になるか聞いた。気にしなくていいかと思ってたと教えてくれて安心した。そのまま気にしないでいてほしい。気まずいと思わないで。

約束を取り付けたと聞いていた女の子とのデートがどうだったか聞いた。数日前に会い、混乱したからメモに残して方々に送ったという。彼らしい。そのメモを見せてもらった。痛々しくない程度に趣きのある文体に見惚れた。「カールが取れたシースルーの前髪が目に入っていたが気にする様子がない」など描写がやたら細かい。ふと携帯を奪われて手持ち無沙汰にしている彼に気づいて笑った。どう思うと聞かれた。「なぜこれを私に見せる」「私のことはどう見えている」という嫉妬めいた疑問と不安、彼が見る景色の面白さを感じたがそれは言えなかった。素直に私のこと書いたら見せてねとでも言えばよかっただろうか。

最近仲間内で盛り上がっているという交換日記を見せてくれた。前日の日記を一瞬見せて隠された。待ってこれは見せられないと笑っていた。私のとのことを書いていたのか。書いていたとしたらなんて書いていたのか。それとも全く関係ないことなのか。今日のことがどう書かれるのか。気になって一日経つ今日も仕事が手につかない。

サポートされるってどんなだろう。 サポートされてみたい。 本業以外でお金を得られるんだ!って自信をつけて、将来への不安を和らげたい。 いただいたお金は食費にあてます。