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チョコのかわりに

完全在宅勤務で既婚で週末に友人と会うわけでもなく、オンライン飲み会すらない。そんな私にバレンタインのチョコをくれる相手は多くない。具体的に言うとチョコをくれるのは妻と小学生の娘二人の家族三人だけだ。

もらえるだけでもとてもありがたいことで毎年楽しみにしているのだけど、1年前にもらえたからといって今年ももらえるとは限らない。

妻からはもらえそうな気がする。それなりに仲は良いはずだ。逆にもらえなかったら気づかずに怒らせている可能性があるので「私何かやっちゃいましたかね…?」と謝る準備をしないといけない。

それより問題は娘たちだ。当日の気分によっても変わりそうで読めない。今年もくれるのか?それともくれないのか?念のため先週のうちに「ホワイトデーにお返しするにはチョコをもらわないとなー」と見返りをちらつかせてみたけど果たして効果はあったのか。


そんな姑息なことを考えつつ迎える2月14日。

朝起きてみんなで朝食を食べる。動きなし。いつも通りそれぞれ会社と学校へと出かけていった。

夕方子供たちが帰ってくる。おやつの時間も動きなし。今日がバレンタインデーだと忘れてるのかな?おやつのチョコバットを見ても思い出さなかったのかな?

妻も帰ってきて夕食を食べた後。そろそろ「あ、あー、今日はバレンタインデーかー」とか切り出すべきかどうしようかと考え始めたその時、ついに状況が動いた。


妻がどこからともなく紙袋を出してきて「どーぞ」とダイニングテーブルにチョコを置く。子供たち用のものも合わせて3つ。ははー、とありがたく自分の分を受け取る。

それに合わせるように長女が子供部屋からチョコと手作りクッキーのセットを持ってくる。「ち、長女~ありがと~」と目を潤ませて受け取る。うれしい。「友達にあげるやつが余ったから」なんて言ってるが照れ隠しに違いない。

今度は次女が立ち上がった!3つめきたー!と思ったら妻がテーブルにおいたチョコを手に取ってまた座る。そのままパクパクとチョコを食べ始める。あれ…ないのか?

一応聞いてみたら「ないよ?」となんでもない感じで答えが返ってきた。

そしてさらに一言「パパからのチョコはないの?」。


…アメリカンスタイル…!!!

その発想はなかったよ…パパ自分がもらうことしか考えてなかった…。そうだよね、バレンタインは愛や感謝を伝えるイベント。女性から男性にチョコを渡すものだと決まっているわけじゃないんだ。朝からもらうことばかり考えてた自分が恥ずかしいよ。

よし、来年は自分もチョコを用意しよう。

良いことに気づかせてくれたね、来年は準備しておくね、と次女に伝える。

次女は「うむ」と満足気にうなずく。

みんなで和やかにチョコとクッキーを食べた。


その後のまったりした時間。

さて来月のホワイトデーには何をお返ししようかと考える。

妻と長女からチョコをもらったから当然お返しするとして、次女はどうするか…。

なんて考えていたら頭の中、というか頭の後ろの方、というかすぐ後ろに立った次女の方から声が響いてくる。

「きこえますか…?ホワイトデーはもらった人にだけお返しするって誰が決めたのでしょう?次女にもあげるべきですよ。」

これは天啓か?どうやらパパはまた間違えるところだったようだ。

もらったから返す?

もらってないから返さない?

そうじゃないんだ!

バレンタインデーにチョコをもらったかどうかなんて関係ない。喜んでくれるなら誰にだってあげたらいいんだ!

よし、3人分の素敵なお返し(お返しなのか?)を準備しよう。

「よろしいよろしい」

後ろからまた満足気な声が聞こえた気がする。


こうして次女からチョコのかわりに大切なものを学んだ…ようなそうでもないような感じで今年もバレンタインが終わったのだった。


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