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本日記 『さよなら、ニルヴァーナ』

こんばんは。ぴろです。
窪美澄さんの『さよなら、ニルヴァーナ』を読みました。

答え、は読者自身が導き出す。そんな小説だと思いました。
実際にあった凄惨な事件を元にした、苦しい、悲しいお話。心情や風景の描写がリアルで、読んでいてつらくなることさえありました。実話を元にしているだなんて信じたくなかった。フィクションだけにしてほしい。
それでも、凶悪な殺人犯のはずの少年の幸せさえ、私は願ってしまうのでした。だれにでも、幸せになる権利はあるのでしょうか。生まれたとき、命の尊さは、人生の価値は皆等しいはずだから。

"きれいだけど、その灯りのどこにも僕の居場所はなかった。"
凶悪殺人犯、少年Aのそんな言葉が印象に残りました。Aは、7歳の少女が憎くて殺したわけではないのです。殺人犯少年Aをつくりあげてしまったそれまでの環境、母親の存在、Aの孤独。そのどれもが罪を赦す理由になどなるはずもないけれど、赦す赦さないだけではない複雑な感情が、繊細に描かれていて苦しくなりました。何があっても、どんな現実も、人生が終わるその瞬間まで途絶えることなく続いていくという事実を突きつけられました。

少年Aという加害者、7歳で殺されてしまった被害者、その遺族、少年Aに恋をしてしまった少女、そして彼らを見つめる作家志望の女性。それぞれの立場から語られていく物語。ひとつの出来事を巡ってもいろんな立場の人がいます。それは私たちの日常の中にだって当てはまると思いました。私はスポーツを長年やってきましたが、たとえばひとつの大会にもいろんな立場の人がいます。勝者、敗者、勝者のコーチ、敗者のコーチ、運営の人、保護者。人の本当の気持ちは、当事者にしかわかりません。人には人の地獄がある。それがたとえ家族でも、友達でも、他人でも。そして人間は関わりあい、影響されあいながら生きています。
一概に言えないもの。複雑な感情。人生にはそんなものが多すぎる。だから悩むし、苦しい。
それでも。それだからこそ。私たちは生きていく。どんなに苦しくても生きていくし、苦しみながら生きていこうと。そして、すべての人が幸せだったらいいなと、そう願った、読後でした。


ぴろ

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