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「電脳城」 クロネコと電脳の城25

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

大きな音を立てながら浮島が旋回を始めた。
地下の機関室では、ブクロが浮島のエンジン出力を最大に上げ、左に急旋回させていた。
大きく揺れる建物内でレンは立っているのもやっとだった。
レディピンクは全く動じることなく、仁王立ちしたままモニターを凝視していた。
モニターには外の様子が映っており、同時に電脳城までのルートや距離と到着時間が地図でナビゲートされていた。
モニターの前ではクランがキーボードで何やら操作している。
レンは静かに近づいてモニターを覗き込んだ。

「電脳城までは20分程度で着く予定だ。何事もなければな・・・」
レディピンクはモニターを見ながらレンに語り出した。
「おそらく電脳城の半径1キロ圏内に入ったところで電脳城に配備された電脳警備隊が一斉に襲ってくるだろう。もしかしたらその前に警戒中の電脳猫に見つかる可能性もある」
「そしたらどうするの?」
「迎撃する。この浮島はただの浮島じゃない。電脳猫を迎撃できる砲台を装備している。ガジェたちが来たときは捕らえたかったからあえて砲撃しなかったが、電脳警備隊には容赦はしない」

「ピンクさん。さっきの話だけど、電脳世界を崩壊させたら、今この世界にいる人たちが困るんじゃないの?それこそピンクさんのお友達みたいにショックを受ける人がいるんじゃ・・・」
「実はな、もう現実世界では電脳世界からユーザーは離れていってるんだ。私たちが電脳株式会社がウイルスをばら撒いたことをリークしたからね」
「そう。私たちが調べた電脳株式会社の悪事をネットで晒したのよ。そしたらあっという間に拡散されて電脳株式会社は目下大炎上中よ」
話を聞いていたクランが口を挟んだ。
「電脳世界は旧大手3社のVR世界ユーザーが多かったから、今回の暴露を受けてユーザーたちはめちゃめちゃ怒ってるわ。今はほとんどの人が退会していて電脳世界に残ってるのは私たちくらいなんじゃない」
「それじゃあもう事実上電脳世界は崩壊してるじゃないか。わざわざ危険を冒してまで電脳城に行かなくても、ほっとけば勝手に潰れるんじゃないか?」
「そうね。でも我々の目的はあくまでも復讐だ。電脳世界を崩壊させても悪の根源が残っていれば、また同じことが起こるかもしれない。だからアークナイトを倒さなければならない」
レディピンクは眉をひそめながら、語気を強めてそう言った。
「アークナイト・・・」
「そうだ。さっきも言ったがアークナイトは意志を持ったAIだ。自分の判断でウイルスをばら撒き、自分の判断で電脳警備隊を操作している。アークナイトが生きている限り、電脳世界がなくなっても他のVR世界に入り込んで再びウイルスをばら撒くかもしれない。そして奴にはそれが可能だということよ」
「一体なぜアークナイトはそんなことをするんだろう?」
「わからない・・・が、アークナイトを作った人間がいて、そいつの意志を受け継いでいることは確かだ。そしてそいつはおそらくVR世界に何らかの恨みを持っているんじゃないかと思う。そしてそいつの狙いはおそらく・・・」
「おそらく・・・?」
「全てのVR世界の崩壊、あるいは逆に、永遠に続くVR世界の創設か・・・」

ドカン!

大きな爆発音がして建物が大きく揺れた。
天井からパラパラと小石や砂埃が舞い落ちる。
「何事だ!」
レディピンクが叫ぶと、クランはパソコンを操作してモニターの画像を切り替えた。
モニターには箒に跨った電脳猫の姿が映し出されていた。
「電脳猫が1、2・・・5体です!」
「早いな、もう見つかったか」

ドカン! ドカン!
そうこうしているうちに電脳猫は空気砲をどんどん打ち込んでくる。
「ブクロ!砲台を出せ!」
「はい、はい」
レディピンクに言われてブクロは慌てて操作する。
庭の地面がゆっくり開いて、砲台が5台現れた。
ブクロは砲台をオートモードに切り替え、電脳猫を撃ち落とすようセットした。
砲台は宙を舞う電脳猫たちをロックオンして、勢いよく唸りを上げた。

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
5台の砲台が一斉に火を噴いた。
箒に跨った電脳猫は砲撃を受けて次々に落とされていった。
数体の電脳猫は第1撃を避けたが、すぐに第2撃が打ち込まれ迎撃された。
「よーし命中!どんなもんです」
ブクロは意気揚々と誇らしげだ。
「ブクロ、調子に乗るな!次が来るぞ」
浮かれていたブクロはレディピンクに叱責されて罰の悪そうな顔をした。
「ちぇ、ちょっとは浮かれさせてくださいよ」

浮島は全速力で電脳城に近づいていた。
その距離は残り1キロに迫っていた。
「ピンク様、電脳城の1キロ圏内に入ります。そろそろ来ますよ」
モニターに雲間にうっすらと電脳城の姿が現れたのが見えた。
「あれが、電脳城」
電脳城は機械で作られた要塞のようで、周りの建物より遥かに高く聳え立っている。
建物全体はドス黒く、所々ネオンのような眩しい光を発していて、禍々しいほどのオーラを放っている。
てっぺんは雲を突き抜けているためどのくらいの高さがあるかわからないが、浮島よりも高い位置にあるように見えた。
その禍々しい電脳城から無数の電脳猫たちが放たれてくるのが見えた。
さらに電脳城の周りに配置された無数の砲台がこちらに狙いをつけているのが見える。

「ピンクさん!」
レンは不安そうにレディピンクを見つめた。
しかし彼女は恐れている様子もなく、不敵な笑みを浮かべていた。
「いよいよだな・・・みんな、行くよ!!」

ドガガガガ!


掛け声と同時に大きな音が響き、先ほどとは比べ物にならない揺れが浮島全体を襲った。



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