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「願い」 クロネコと電脳の城23

ガジェはレディピンクの話を俄には信じられなかったが、ありえない話でもないと感じていた。

「それじゃあアークナイトは『電脳世界』をVR業界でトップにするために大手3社にウイルスをばら撒いたってことなのか?」

「そうよ。こうも都合よく『電脳世界』が昇り詰めたことも、アークナイトが他のVR世界に侵入していたことも、そう考えれば全て辻褄が合うわ」

「でも証拠がないだろう。証拠もないのにテロだと言って詰め寄っても運営側は認めないだろう」

「そうね、だから電脳城に侵入して証拠を掴むのよ。そのためにこの子の力が必要なの」

レディピンクはレンを見つめてそう言った。

「・・・・・。」

レンは何も答えることができなかった。

あまりにも話が突然すぎて思考が追いついていなかった。

ガジェがレンの父親で、ミツキがレンの母親で、自分は現実では既に死んでいて、ここは『電脳世界』といバーチャルな世界で、自分はAIデータとしてここで生きていて、レディピンクは『電脳世界』の運営に恨みを持っていて、『電脳世界』を壊すために自分の力を必要としている。

しかし『電脳世界』を壊すと言うことは、自分の住む世界を壊すことに他ならず、それは同時に自分の存在を消すということだ。

レディピンクは自分に死を選べと突きつけてきていて、ガジェさんは反対して守ろうとしている。

何となく頭の中を整理してみたが、今度は感情が追いついてこなかった。

僕は、どうしたらいい?

僕は何をしたらいい?

僕は生きてていいの?

僕は死ぬべきなの?

・・・教えてよ・・・・ミツキ・・・・母さん・・・・・。


「父さん、ミツキに、母さんに会わせてよ・・・。母さんと話がしたいんだ。母さんはどこにいるの?」

ガジェは困惑した。

どう答えるべきか分からなかった。

「・・・ミツキは、今この世界にはいない・・・」

「ガジェ、お前また嘘をつくのかい。いい加減この子には全て教えてあげたほうがいいだろう」

レディピンクが口を挟んできたのでガジェは焦った。

「余計なことは言うな!」

これ以上レンを傷つけるようなことは聞かせたくなかった。

「まあ、いいわ。とにかく話は聞いたわねレン。あなたには私たちと一緒に来てもらうわ」

「まだそんなこと言ってるのか!お前の復讐にレンを巻き込むな!関係ないじゃないか」

「ガジェ、レンはこのままこの世界では生きていけないわ。運営から目をつけられて、電脳警備隊に追われる日々よ。うまく隠れてもいずれ見つかって消去させられるわ。だったら自らの手で選んで、自分の運命を終わらせるべきなんじゃないの?いつまでこの子を縛り付けておくつもりなの?」

ガジェはレディピンクの言った言葉に打ちのめされていた。

その通りなのかもしれない。

自分たちはレンを縛り付けていたのかもしれない。

自分たちのエゴでAI化してレンの魂を生かし続けてきたが、レンがそれを望んでいたかと言えばそうではなかったのかもしれない。

現実世界でレンが死んだ時のことを思い出した。

あの時、死ぬ間際、現実世界のレンは確か俺たちにこう言ったんだ。

「父さん、母さん・・・僕のこと・・・・・忘れないで・・・」

最後は声を出すこともほとんどできなかったけど、確かにそう言っていた。

僕のこと忘れないで。

その言葉が呪いのように耳に残ってしまった。

そして俺たち夫婦は必死でレンを生かそうとした。

VR世界で生き続けられれば、忘れることもないと考えたんだ。

でもレンの願いはそうじゃなかったのかもしれない。

ただ、俺たちの心の中で生き続けていたかっただけなんじゃないだろうか。


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