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「犯人」 クロネコと電脳の城22

「こう見えて私結構な有名人でね。ネットの世界じゃ有名なインフルエンサーだったのよ。

でもそれは『メタワールド』のアバターありきの人気だったから、アバターを失った私には誰も見向きもしなくなったわ。

SNSのフォロワーもみるみる減って、親しい友人だけになった。

寂しかったわ。私個人がもてはやされていると勘違いしていたけど、アバターと活躍の場を奪われた私個人には何の魅力もなかったの。

でも今さら別のVR世界でやり直す気なんて起きなかったし、こんなことなら私もって死を考えたりしたわ。

ずっと部屋に引きこもって、ネットも見ないで毎日毎日泣いて過ごしてた。

そんなある日、とある友人から、最近ネットで噂されている『電脳世界』の話を聞いたの。

ウイルスがばら撒かれた事件の後、VR世界の一つだった『電脳世界』がユーザー数を大幅に増やしてるという話だった。

それだけならああそうかで済む話だったけど、その噂によると、例のウイルスをばら撒いたのは『電脳世界』の運営なんじゃないかって話だった。

VR世界大手3社がなくなったことで、行き場がなくなったユーザーを救うために電脳株式会社は、ユーザーが大手3社で使用していたアカウントの一部を引き継げるようにした。

大手3社のユーザーだった人の多くはアバターやデータを失ったけど、アカウントのIDは失っていなかった。

電脳株式会社はそのアカウントのIDを利用して、大手3社で使用していたアバターデータの一部を復元できるって売り込んだみたい。

実際には大手3社で使っていたアバターの外見を、動物様にしたデータに変換して取り込むことに成功したみたいだった。

大手3社のユーザーだった人たちは、親しみのあるアバターが使える喜びから多くが電脳世界に流れ込んだ。

元々『電脳世界』はVR世界の中では4か5番手くらいのユーザー数だったけど、この対応で一気にユーザー数を増やし、一気にユーザー数トップに上り詰めた。

でも電脳株式会社がどうやって大手3社のアバターデータを引き継げたのか疑問が残った。

そこで噂され始めたのが、電脳株式会社が大手3社のユーザーを取り込むために、ウイルスをばら撒いた張本人じゃないのかって話だった。

最初にそれを聞いた時は、他のVR世界の関係者からのやっかみなんじゃないかって思ったわ。

でもある友人からのメールを見て考えが変わった。

そのメールには大手3社のVR世界に入り込んでいるアークナイトの姿が映った画像が添付されていた」

「アークナイト!?」

ガジェは驚いた。アークナイトとは電脳警備隊のトップ。この電脳世界を牛耳っている影の支配者と噂される人物だ。

電脳株式会社は現実世界では大手企業に成長した。その会社の経営者はもちろんいるが、『電脳世界』の運営に関してはアークナイトが全て取り仕切っているらしい。

あくまで噂の範囲だが、アークナイトは現実世界の警察や電脳省とも繋がりがあり、大きな権力を持っているとか。

「ガジェ、あんたも聞いたことあるでしょう?アークナイトが大手3社のVR世界に忍び込んでウイルスをばら撒いたっていう噂」

「ああ、聞いたことはあるが、証拠はどこにもないって話だったが・・・」

「そう、証拠はないわ。アークナイトが大手3社のVR世界に出入りしていたからってウイルスをばら撒いた証拠にはならない。

でも私には直感するものがあった。だっておかしいと思わない?同じVR世界の経営者が他社のVR世界に入ってるなんて、どう考えても怪しいわ。

通常各VR世界では他のVR世界と同じデータは使用できないことになっているわ。それぞれ別のアカウントを作って利用する。

アバターも似せて作ることはできても全く同じアバターを流用するとはできない仕様になっている。

なのに画像に映っていたアークナイトはどのVR世界でも同じ姿形をしていたの。それで私はピンときたわ。アークナイトは大手3社のアカウントを持っていたわけじゃなくって、ハッキングして入り込んでいたんじゃないかって。

だから私はアークナイトについて独自で調べることにしたの。

まず大手3社におけるアークナイトのログイン記録を調べたけどどこにも記録はなかったわ。

大手3社のVR世界はすでに崩壊していたけど、データの残骸は残っているの。そこから追ってみたけど証拠は見つからなかった。

だから私は自ら『電脳世界』に入り込んで内部から探りを入れることにした。

そうして『電脳世界』を調べていくうちにわかったことがあるの。

それは・・・アークナイトが実在の人物じゃないってことよ」

「実在の人物ではないってどういうことだ?」

ガジェはレディピンクの言っている意味がわからなかった。

レディピンクはゆっくりと歩いて再びレンに近づいて言った。

「アークナイトはこの子と同じ、AIが操作しているデータなのよ」

「!?アークナイトがAIだって!じゃあアークナイトは現実世界で操作している人がいるわけじゃなくて、AIが独自に操作しているってことなのか?」

「そうよ私が調べた限りアークナイトは一度もログインもログアウトもしていないわ。つまりアークナイトは『電脳世界』が生まれてから今までずっとこの世界に居続けている」

「ちょっと待て。運営ならそれくらいできるんじゃないのか。例えば交代で操作すればログインしっぱなしにすることだってできるだろうし、居続けたとしてもおかしくはないだろう」

「違うわ。おかしいのはこの世界に居ながら他のVR世界にログインしてたことよ。さっき言ったでしょ、アークナイトは大手3社のVR世界に何度も出入りしている。にもかかわらずこの『電脳世界』にもログインし続けている」

「だから、アークナイトを操作している人間が複数いて、他のVR世界にログインしている間他の奴が『電脳世界』で操作してたんじゃないのか」

「それは無理ですね」

それまで黙って話を聞いていたクランが口を挟んだ。

「そもそもアークナイトは単なるデータです。『電脳世界』におけるNPCでしかありません。他のNPCと違うのは、アークナイトはAIが操作していて、AIの独自の判断で動いています。

これは調べてはっきりしていることです。だから別の他者が操作した形跡は全くありません。

ということは、恐ろしい話ですが、AIが独自に判断して別のVR世界に忍び込んだということになります」

ガジェは絶句した。AIが独自の判断で行動している?だとしたら何のために他社のVR世界に忍び込んだ?まさか・・・

「そう、アークナイトのAIは、他社のVR世界にウイルスをばら撒くことを自ら判断したということなの。これがどういうことかわかる?」

レディピンクは拳を握りしめ空を睨んだ。

「これはAIによるテロよ」


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