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「覚悟」 クロネコと電脳の城24

「父さん、僕、電脳城に行くよ」
思い悩むガジェを見てレンは悟ったようにそう言った。
「レン!だめだ!お前は電脳警備隊から追われてるんだぞ。電脳城は電脳警備隊の本拠地だ。電脳城に行くということは、自ら捕まりにいくようなものだ!」
ガジェは必死でレンを止めようとした。
いずれ捕まってしまうとしても、何も自分から捕まりにいく必要なんてない。
もう少し、もう少しでいいからレンに生きていてほしい。
ガジェは心からそう願っていた。

「父さん、僕は捕まりに行くわけじゃないよ。ただどうせ消えて無くなる存在なら、誰かの役に立ちたいんだ。レディピンクの言う通り電脳株式会社が悪いことしてるなら許せないし、レディピンクの気持ちもわかるんだ。それに、もし自分にしかできないことがあるなら、僕がそれをやるのは運命なのかもしれないって思うんだ。僕がこの世に生まれた意味。僕がAIとして生かされた意味があるって信じたいんだよ」
レンの目には輝きがあった。
それは恐怖に慄いた目ではなく、希望に満ちた目をしていた。

ああ、そうか、そうだよな。今まで何もわからずに生きてきて、暗い地下の部屋に閉じ込められてきたんだ。生きる意味もわからず、ただひたすら俺やミツキの帰りを待っていたんだ。
何のために生きているかもわからず電脳警備隊に追われ、捕まれば消されてしまうと知り、レンは自分の存在意義がわからなくなり絶望したと思う。でも、レディピンクの話を聞いて、自分にしかできないことがあるって気づいたんだろう。
自分が役に立つことがあるならそうしたい、自分の存在意義が感じられるなら、危険を顧みず電脳城に行くと言ったレンの気持ちをガジェはようやく理解した。

「わかった・・・。レン、お前が思うようにやりなさい。俺も協力する」
レンは真っ直ぐガジェを見つめて頷いた。
「ありがとう、父さん」
そう言うレンの姿はさっきまでとは別人のようで逞しく見えた。
そうか、人間には生きる意味が必要なんだ。
生きる意味を失ってしまったら、AIとして永遠の命を与えられてもきっと苦痛でしかないだろう。
俺は今までずっとレンを苦しめてしまっていたのかもしれない。
もしかしてミツキはそれに気づいていたのかもしれない。
だからあいつはレンを・・・

「よく決断した!レン!さっそく電脳城に向けて出発だ!」
レディピンクは意気揚々と歩き出し、ブクロとクランに何やら指示を出し始めた。
「よし、このままこの浮島ごと電脳城に突っ込むぞ」
「ブクロ、準備はいいか?」
「いや、今から準備するんですよ。せっかちだなあ、もう」
「ピンク様、こっちは準備OKですよ」
クランが弾けた声で答える。
ブクロはぶつぶつ言いながら地下に降りる階段を駆け降りていった。
「ちょっと待ってくださいよ、電脳城に突っ込んでどうするんですか?僕は何したらいいんですか。説明してくださいよ」
どんどん話を進めるレディピンクに不安を覚えたレンが問いただした。
「いいか、電脳城は電脳株式会社の中枢であり、電脳警備隊の本拠地だ。警備も厳重だし、普通に行ったって入れる場所じゃない。ましてお前も私も電脳警備隊に目をつけられたお尋ね者だ。見つかったらすぐに捕まっておしまいだ」
「じゃあどうするんですか?」
「この浮島ごと電脳城にぶつかって入り口をこじ開ける。その混乱に乗じて中に侵入し、一気にホストコンピューターのある階まで駆け上がる。電脳城の中の地図やどこにホストコンピューターがあるかは調べてわかっているわ。だからその入り口の前までは行くことができる。もちろんそれまでに電脳猫たち警備隊の邪魔が入ると思うから、ポスペやブクロ、それにガジェたちにも協力してもらって足止めしてもらうわ」
「おい、そんな話聞いてないぞ。勝手に決めるな」
「あら、さっき協力するって言ってたじゃない」
「俺が協力するのはレンだからな。お前に協力するつもりはない」
「まあ、まあ、父さん、とりあえず話だけでも聞いてみようよ」
レンに諭されると思っていなかったので、ガジェはちょっと恥ずかしくなった。
「うっ、まあ、それで、入り口までは行けたとして、そこから先はどうするんだ。きっとセキュリティはかなり厳しいぞ」
「そうね、そこでレンの出番よ。あなたは私たちとは違って電脳世界のNPCデータだから、おそらくセキュリティに引っかからずに入口を通過できると思うの。あなたが侵入できたらこれをホストコンピュータに撃ち込んでほしいの」
そう言ってレディピンクは小型の銃をレンに手渡した。
「その銃の弾には電脳世界を崩壊させるウイルスが仕込まれているわ。それをホストコンピューターに打ち込めば、電脳世界は終わりよ」

「・・・。」

この世界が終わるということは、僕自身も終わると言うことだ。
最後にミツキに会いたかったな・・・。
レンの心は少し揺らいだが、グッと目を閉じて覚悟を決めた。

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