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お助け屋と初恋王子 第三章 前編

  【1】
 
 
 東京のとあるバーで、ミレアナ王国大臣、カイル・リクロスは、一人の日本人と密会していた。
 
 黒のジャケットとスラックスに、派手な真紅のシャツを粋に着こなし、左目には頬まで達する刀傷を持つ男。光を失っていない反対側の眼には、危うく暗い輝きが宿っている。
 
 初めてこの男を見たとき、カイルは背中が凍りつくような感覚に陥った。この男は危険だと、本能が教えてくれる。まるで手に負えない野獣でもその身に飼っているかのような、危険な匂い。
 
 それでもこの男の力がカイルには必要であった。ミレアナ王国のすべてを手に入れるために。
 
 カイルは王家の血を引き、継承順位は王太子に次ぐ第二位。最初は王位などに興味はなかった。王位に就けなくとも王族である彼にはそれなりの利権が認められている。下手に王位に就くよりもその方がお得だったのだ。
 
 ところが、時代の流れには逆らえないと、現国王と王太子が王政廃止と民主国家への移行、王侯貴族の優遇措置の廃止を決め、それを実行に移そうとしていることが先だっての王太子の王位継承の日取りと共に発表された。このままではこれまでの利権はすべて失われてしまう。そのことに多くの貴族は反発した。
 
 だが、様々な妨害工作もことごとく失敗に終わり、事は着々と進められていく。それらを止めるには中心となっている王太子の命を奪うほかない。そのことにも気付かれたのか、王太子は王位継承のしきたりと言う大義名分で各国への訪問に出掛けてしまった。
 
 なんとしても、王太子を亡き者にせねばならない。そこでカイルは訪問先の一つである日本での殺害を計画した。王太子は先代国王の愛妾だった日本人女性との間に生まれたハーフだ。その思い入れのある日本でなら、警戒も薄れるだろうと考え、日本人テロリスト組織【最後の審判】とコンタクトをとった。
 
「Prinz verschwunden.(王太子が姿を消した)」
 
カイルはカウンターの隣の席に座る男の顔を見ないまま、手短に告げた。日本語は話せるが、周囲に聞かれることを考慮し、ドイツ語で話す。
 
「Also,Aufenthaltsort kennen Sie?(それで、行先は解っているのか?)」
 
男は鼻で嗤い、流暢なドイツ語を口にした。カイルはその無礼な態度を不快に思ったが、顔には出さずに淡々と答えた。
 
「Nein.Aber,ich denke,das kommt mit Verbleib.(いや。だが、心当たりはある)」
 
「Was ist es unzuverlässig.Ich habenicht die freie Zeit,un in mehrdeutigen solche Informationen zu bewegen. (なんだ、頼りねぇなぁ。こちとらそんな曖昧な情報で動くほど暇じゃねぇんだがよ)」
 
男は今度はあからさまに見下すような態度でスツールに凭れてくるりと回って天井を仰いだ。カイルは怒りをこらえるように水割りの入ったグラスを持つ手に力を込めた。
 
「Es gibt nur einen Ort,die fűR den Prinzen in Japan ist .Siewerden dort auf jeden Fall sein.(日本で王太子に所縁のある場所は一つしかない。間違いなくそこにいるだろう)」
 
「Oh,wo ist es?(へぇ、そこはどこだ?)」
 
「Kobe ist.(神戸、だ)」
 
「Oh,Sie Kobe.(ほう、神戸、ね)」
 
男の眼が一瞬だけ煌めいた。口元にはうっすらと笑みを浮かべている。
 
「Herr kousaka.Ich habe Gerűchte gehőrt,von Lasu Judgement.
Im Voegriffauf seine Fähigkeit,werden Sie bereit sein, entsprechend zu belohnen.Also,bitte tőte den Prinzen zu tőten,absolut.(ヘル高坂。君達【最後の審判】の噂は聞いている。その腕を見込んで、それ相応の報酬は用意させてもらおう。必ず王太子を仕留めてくれ)」
 
カイルは前金として分厚い封筒をさりげなくカウンターテーブルに置いて差し出した。高坂はチラリと一瞥すると、こちらも当たり前のように懐へとそれを仕舞い込んだ。それを了解と見たカイルは、カウンターにチップも含んだ金額の札を数枚置くと、高坂と目も合わせずに立ち去った。
 
 

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