「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

https://www.allcinema.net/cinema/367638

アンチ・リベラル?
手控えのないバイオレンス描写がタランティーノの作風の一つだとはいえ、この映画は過激すぎやしないか。無断侵入してきたヒッピーの女を、顔がメチャメチャに潰れるまでブラピ扮するスタントマンが殴りつける。

シャロン・テートを殺害したマンソン・ファミリーに対して、タランティーノの怒りがそれほども激しいのだろうが、どうもそれだけではない気がする。『フォレスト・ガンプ』のロバート・ゼメキス同様、旧来の秩序からはみ出した自由な精神、伝統的価値観と対立する革新性への強い敵意がここには見てとれる。思い過ごしなら、いいのだが。

ちなみに、マンソン・ファミリーはヒッピーというよりカルト教団の狂信者集団だった。

タランティーノのヒッピー観には目を瞑るとしても、ブルース・リーの描き方はちょっと看過できない。リーはここで、口先だけのカラいばりをし、屁理屈をこねて対決から逃げる卑怯者として提示されている。香港のリーの遺族の目にどう映ったかは知らないが、これはあまりに一方的な侮辱ではなかろうか。

この映画が発表された2019年前後は、アメリカ社会に沈潜していた人種差別、マイノリティ蔑視がトランプ前大統領の言動に触発されて次々に表面化したころだった。丸腰の黒人男性を警官が組み伏せて窒息死させ(ジョージ・フロイド事件)、ユナイテッド航空はアジア人の乗客を力づくで機外へ引きずり下ろし、白人至上主義反対のデモ隊に白人の若者が車で突っ込んで多数の死傷者を出した。

それまでは極右でさえ公言をはばかったマイノリティ差別、偏見、蔑視が大っぴらに主張されるようになった。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、こうした世相に幾分か染まった作品だと言えないだろうか。タランティーノのような優れた映画を生み出してきた知性の持ち主が、ヘイト・クライムを犯す低次元の反知性主義者だとは思いたくないが。




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