世界最強の兵器はここに!?1

 世界最強の兵器はここに!?1


 著者:pirafu doria
 作画:pirafu doria


 第1話
 【俺が出会った消えた文明】

 ──“空“(天)が泣いた。


 天候は荒れ狂い、大地は砕け散る。
 住居は崩れ、作物は腐った。
 人類滅亡の危機、そこに二人の英雄が立ち上がる。


 “科学文明“を信じ、研究を続けてきた兄『アルシミー』。

 “魔法文明“を愛し、実験を続けてきた弟『マジ―』。


 アルシミーとマジー、二人の兄弟は“協力“し、何十年と続いた“嵐“から人類を守り続けた。


 嵐が過ぎ去った後、二人は国を作り、科学と魔法を両立した文明【ブライト】を完成させた。
 “二つの文明“はお互いを尊重し合い、そして競い合い。魔法は生活を豊かにし、科学は人間を支える。人類史で最も栄えた時代、それがここにあった。

 しかし、“カタチ“在るものは、イツカ“壊れる“。

 ある時、二人は道を分かちた。


 そして“全人類“と、“文明技術“を巻き込んだ。戦争(“文明戦争“)が始まる。
 科学と魔法。お互い譲らない戦いは、熾烈を極め、そして10年後、ついに“決着“がつく。


 戦争に敗れた【科学文明(アルシミー)】は衰退し、この地から“追放“され、勝利した【魔法文明(マジー)】は、戦後から現代に至るまで“成長“し続けた。

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 春風が緑の匂いを感じさせ、人々の心を穏やかにする。
 草原と岩山に挟まれた小さな土地。木造の防壁に囲まれ、自然と一体になれる村、【サージュ村】。
 この村に、追放され消えた文明を研究し、過去の技術を探究する少年がいた。

「うぉぉ!? 高速で鉄の塊を飛ばす武器、鉄砲!? す、すげ〜!! そんなものがあるのか!!」

 村にある木造の家。窓を開け、日差しを浴びながら、分厚い本を読む茶髪の少年。

 彼の名前は『パト・エイダー』。サージュ村、“村長“ガオ・エイダーの息子であり、衰退した【科学文明(アルシミー)】を研究する、研究家である。

 ……とは言っても、大昔に残された科学文明(アルシミー)に関する書物を読み更けてるだけに過ぎない。

 現在この地に残っているアルシミーに関する書物には、その“技術“の作り方や“原理“については全く書かれていない。ただ「存在したであろう」、記録のみが書かれている。
 全ての技術は追放された科学文明(アルシミー)が持って行った。

 その為、彼ら(パトたち)にとって科学(アルシミー)とは未知の技術であり、神話のようなもの。
 現実に存在するかも不確かな技術である。
 だが、もしも“存在“するのならば、パトはその技術に今と違った“希望“があるのではないか。そう、信じている。

「おーい、パト!」

 パトが自室で書物を読んでいると、部屋の外から野太い声で呼ばれる。パトの父親、『ガオ・エイダー』だ。

「ん、何!! 父ちゃん」

 パトは本を閉じず、椅子に座ったまま、首だけを声の聞こえた方に動かし、大声で返事をする。
 すると、部屋の外から返事が返ってくる。

「ライトさんがな。井戸から水が取れないって言っているんだ。ちょっと手伝いに行ってくれないか!」

 村人からのちょっとした“頼み事“だ。

 村長は村を支える事が仕事である。
 盗賊やモンスターに襲われたら、村長が指揮を取り、最後まで村を守る。客人が来れば、村長が中心にもてなす。

 しかし、それだけが“村長の仕事“ではない。このような村人からの身近な頼み事もひとつひとつこなしていくのも“村長の仕事“である。

 “次期村長“であるパトもそれは分かっている。
 最近、井戸水が減っていて、なかなか上手く水を取れない。他の村人なら、問題なく取れるのだが、村一番の年長者であるライトには少し難しいのだろう。

 それでもパトは科学文明(アルシミー)の書物を少しでも読みたい。今ならパトの父親ガオに任せれば、書物を読み続けることができる。

「だったら、父ちゃんが行けばいいじゃん」

 パトは村長である父親のガオに任せようとする。しかし、それは叶わない。
 パトの言葉にガオはすぐに答える。

「行ってあげたいのは山々なんだが、これからコット村で“村長集会“があって、今から出ないとならないんだ。やってくれたらシルバさんからまた本を貰ってきてやるよ!」

 『シルバ・マーキュリー』。コット村の村長であり、科学文明(アルシミー)を研究する研究家だ。
 パトが科学文明(アルシミー)に興味を持ったのは、シルバの影響が大きい。
 そしてシルバはパトの師匠でもある。

 そんな尊敬している師匠のシルバから、科学文明(アルシミー)に関する本が貰えるのならば、これほど嬉しいことはない。

 パトは即座に本を閉じると、立ち上がる。そして山積みになった机には本を放り投げる。

「分かった。今行くよ」

 返事をした後、急いで部屋を出る。
 部屋を出ると、リビングで身支度を終えたガオが待っていた。

「ライトさんは外で待ってる。頼むぞ。……それとできる限り早く帰るようにするが、それまで村をよろしくな」

 早く帰るようにする。それは“村長集会“のことだ。周辺の村から村長を集めて集会を行う、村長集会。
 今回の議題は最近、『大量発生しているモンスター』についてだ。
 これはここ最近、サージュ村を中心に、多くの村で“問題視“されている。

 “モンスター“は“家畜“や“人間“を襲う、そのため“冒険者“を雇ったり、王国から“騎士“を呼び寄せ、駆除をしているのだが、近年の異常な大量発生には、それでも手に負えないほどである。
 その為、村単体でなく、周囲の村で力を合わせ、“対策“を行おうということになったのだ。

 しかし、今回のモンスター大量発生の“原因“が分からない。原因が分からない以上、会議も長引くことになるだろう。
 そのことがガオの“不安“を煽いでいるのだろう。

 村長集会の際、次期村長であるパトが“村長代理“となる。ガオはパトなら問題はないと分かっているし、信じている。しかし、それでも不安というものは生まれてしまう。


 もしかしたら、目に見えないところで、全てを“失う“ことになるかもしれない。
 何十年と暮らし、寄り添ってきた村を……。たった一人の唯一の息子を……。
 その恐怖から生まれる言葉、それが「“早く“帰る」である。

 しかし、そんな言葉を受けたパトも、“不安“はあっても“自信“が無いわけではない。ガオや先代の村長たちが守ってきたこの村を、任せてもらえることに、“誇り“を持っている。そしてだからこそ、任されたのならば、全力でそれに努める。
 それがパトの出来る、任せてもらったものに対する“礼儀“である。

「ああ、任せといてよ。これでも父ちゃんの“息子“で、次期村長だよ」

 パトは右手で左胸を叩き、ガオを“安心“させようと、強気を見せる。

 ガオが村や自分を“心配“して、そのようなことを言ったことはパトにも分かっている。だからこそ、そんな“不安“を持ったまま、村長集会には参加して欲しくはない。
 いつもの“力強く““頼り“になるサージュ村の“村長“として、村長集会に参加し、他の村長達に“見せつけ“てほしい。

 そのためにパトは自身の意気込みと、村は任せて集会に集中できるように、父親に胸を叩いて“見せた“のだ。

 それを見たガオは“笑う“。その笑いには焦りと圧迫感から“解放“された、いつものガオの姿があった。

「なんだよ」

 父親のために取った行動、それがプラスに働いたのなら嬉しい。だが、ここまで大袈裟に笑われると、さすがのパトも恥ずかしい。

 頬を赤めるパトを見ながら、ガオは胸を張って言い放つ。

「ふ、さすがは俺の“息子“だ」

 ガオは大きな荷物を肩に掛けると、


「じゃあな」

 手を振り、家を出て行った。

 その背中はとても大きなものに見え、そして進むべき道を示している。

 ガオを見送ると大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。

 『村を任せてもらえた』ということは“信頼“されていること。だからこそ、その“信頼“には答えないといけない。

 その為にパトがまずやること。それはガオに任された“仕事“をこなすことだ。

 パトは扉を開き、家から飛び出す。

 外は雲一つない快晴、春風がパトに果実の香りを匂わせた。

「お待たせしました。ライトさん。井戸水ですね」

 パトは家の前に立っている、バケツを持った腰の曲がったお爺さんに話しかける。

「……ああ、そうじゃ……。すまんのう、頼むよ。パト君」

 彼は『ライト・マヤギ』。村一番の年長者であり、物知り。今では杖を使わなければ、上手く歩くことができない。
 だが、昔はその体一つで“魔石“発見の為に多くの“洞窟“や“ダンジョン“を攻略していたらしい。

「それじゃあ、行こうかのう……パト君」

「はい」

 ライトはパトにバケツを渡し、井戸の方へと歩いていく。パトはその横に並び、ライトのペースに合わせて“ゆっくり“と歩く。

 サージュ村の“井戸“は、元々村の中心にあったのだが、“数年前“に井戸水が出なくなってしまい、それからは村の“丘“に“新しい井戸“を作り、そこから井戸水を取っている。
 そこまで遠い距離では無いが、丘を登るために不便ではある。
 パトやガオ、他の村人たちは何か“改善策“はないか対策を考えているが、未だに発展がない。

 パトは丘を登り始めたところで、ライトに質問をする。

「そういえば、ライトさんって、何年“魔石発掘家“をやってたんですか?」

「うぅん? 何年だったかなぁ〜、確か〜、今年で83歳だから〜、“62年“かな」

 ライトは顎の下から伸びた白い髭を触りながら、自慢げに言う。
 長い間続けてきた“天職“。人生の大半を費やしてきた仕事に、ライトは誇りを持っている。

「62年もですか!? そんなに長くやってたんですか!?」

「なんじゃ、知らなかったのか? とは言っても、数年前に洞窟で“魔素“にやられて、こうして“杖“無しでは生活出来なくなってのぅ〜、もう辞めてしまったがの」

「いや、でも、ライトさんは凄いですよ。“シーヴ“から聞いた話ですが、オーボエ王国の“教科書“に載ってるらしいじゃないですか」

 ライトは恥ずかしそうに、髪の無い頭を掻く。

「あれは運が良かっただけじゃよ。それに今のワシがあるのは、“彼ら“のおかげだしのう」

「彼らって、“70年前“に村を救ってくれたって言う“冒険者“ですか」

 ライトは村を囲う防壁を見つめる。
 かなりの高さのある防壁だが、丘の上にいる為、見下ろしている状態だ。

「また彼らに会って、礼を言い…………ん? パト君や、ちょっと、いいかのう?」

 何かを見つけたライトは、防壁の“外“を指で指す。

「あそこに…………」
「……ん?」

 パトはライトの指差す方向を凝視する。すると、防壁の外にある草むらに、誰かが“倒れている“のが見える。

「た、大変だ!! ライトさんはここで待ってて!!」

「あ! パト君!!」

 バケツを振りながら、丘を降りるパト。

 村を出るために村の入り口に向かう。
 村の入り口には槍を持った“門番“の“二人“が立っていた。

 パトの走る姿を見た金髪の門番の一人、エスが声をかける。

「おう! パト、そんな急いでどうしたんだ?」

「防壁の“外“で人が倒れているのが見えたんだ!!」

 パトは走りながら説明する。
 それを聞いたエスは、もう一人の門番であるルンバに仕事を任せると、槍を片手にパトの後ろを付いて行く。

「どの辺りだ?」

「この先にある、村の“東側の草むら“!!」

 パトは走りながら、エスの質問に答える。エスは東側と聞き、持っている槍を“強く“握りしめる。

「さっき見張りのニントから報告があって、その周辺で“ベアウルフ“を見かけたらしい。もしかしたら……」

 パトは最悪の場合も“覚悟“する。厳しい表情を浮かべるパトの頭にはガオの顔が浮かんでくる。

 ──父ちゃん、もしかしたら、俺──

 しかし、悩んでいる暇もなく、パト達は草むらに着く。

「この辺りか!!」

「そのはずなんだが……」

 しかし、腰の高さまで生茂る中、倒れている人を見つけるのは困難。
 エスは不安な表情を浮かべる。

「どうする?」

 しかし、ここでパトが“諦める“わけにはいかない。“村長代理“として、ガオに任せてもらった“信頼“を……、ガオたち先代の村長たちが築いてきた村人の“信用“を“失う“わけにはいかない。

「片っ端から“探す“。エスはモンスターが近くにいないか、“警戒“をしてくれ!!」

 パトが草むらに足を踏み込んだ時、後ろからかすれた声で呼ばれる。

「パト君や、“あそこ“じゃよ」

 後ろを振り向くと、そこには同じように声の主を見て、驚くエスの姿と、草むらの奥を指差すライトの姿があった。

「え? ライトさん!? なんでここに!?」

「なんでって、“ずっと“後ろにいたじゃろ。それより、“あそこ“じゃよ!! パト君や」

 パトたちはライトの指差す方向を見る。そこには草むらから生えたように“人間の足“があった。

「だ、大丈夫か!!」

 パトたちは周囲を警戒しながら、草を退け、草むらから倒れた人を引っ張り出す。

「誰じゃろう〜、“村人“では“ない“ようじゃが?」

 水色の長髪に、胸の辺りには“宝石“の付いた“不思議な“服装をした“少女“。
 しかし、少女は倒れた状態のまま、“眠った“ように動かない。

「怪我はしてないようだが、念のためにザミーネさんを呼んできてくれ」

 パトはエスに、村にいる“医者“を呼んでくるように頼む。

「分かった。待っててくれ」

 エスはパトに槍を渡すと、村の入り口へと走っていく。
 パトは受け取った槍を、地面に置き、ゆっくりと驚かせないように“少女“に近づく。

「…………起動、起動」

 少女の前に着き、姿勢を低くしようとした時、少女の口が動き出す。

「…………システム異常ナシ、メモリー破損ナシ、起動オブジェクト正常、コレヨリ通常運転デ“再起動“ヲ開始シマス」


続く

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