見出し画像

生成AIが活きるプロダクト体験を発見する鍵 -24のバリューキャンバスの分析から見えたもの

生成 AI の活用を考える企業の約 6 割が活用イメージが沸いていないという報告があります。顧客の求めるものを理解したうえでどう生成 AI を活かすのか? 答えを導くべく都内某所 ( 目黒 ) で熱のこもったワークショップが開催されました。

ワークショップの様子

2024 年 3 月 19 日に開催された「プロダクトを成長させる生成 AI のユースケース発見ワークショップ vol.3」では、参加者がバリューキャンバスという手法を使い動画配信サービスを題材に生成 AI で体験を革新するアイデアを可視化しました。 20 を超える様々なキャンバスが生まれ、参加者同士、また実績ある有識者からのフィードバックが行われました。

今回、有識者として LINE から LayerX に移りプロダクトマネージャーとして活躍する米田昌平さん、 PM DAO コミュニティのオーナーでありバリューキャンバスの発明者でもある早川 和輝さん、 10 年以上データ分野で幅広く活動し経営にもかかわられた Jun Ernesto Okumura さんなど一線で活躍する方々です。

LayerX 米田さんのレビューの様子

"vol.3" とある通り今回 3 回目の開催です。自社プロダクトやサービスで生成 AI を成長につなげられるユースケースを発見するためのワークショップで、ターゲットやコンテンツを工夫しながら継続的に開催しています。満足度は 5 段階中 4.6 、他の人にお勧めしたい度合いは 4.3 と高い評価を頂いているのが継続的な開催の推進力となっています。

本記事ではワークショップの内容をお伝えするとともに、アンケートと当日書かれて手元にある 24 のバリューキャンバスを分析し見えてきた「生成AIが活きるプロダクト体験を発見する鍵」についてお伝えします。興味ややる気が沸いた!という方へ、ワークショップのコンテンツとワーク用の台紙を ML Enablement Workshop のリポジトリで公開しています。ぜひご活用ください ( 画像をクリックするとリポジトリのページを開けます。今後も資料を追加していくのでぜひ☆・Watch 頂ければ幸いです! ) 。


誰がバリューキャンバスを描くのか

"vol.3" では、主にエンジニアやデータサイエンティストの方をターゲットとして「プロダクトマネージャーらビジネス側の関係者とユーザー体験について議論できるようになる」ことを目指してバリューキャンバスの作成に挑戦してもらいました。過去 2 回はプロダクトマネージャーを対象にしていましたが、生成 AI の手軽さはエンジニアやデータサイエンティストの仕事を軽くし、その分プロダクト体験作りへの参加を求めるようになると考え、対象を変更してみました。このあたりは「溶け込むラジオ」でポッドキャストに出演させていただいた後に話が盛り上がったことが背景にあります。

バリューキャンバスは、ユーザー体験のアイデアを抜けもれなく整理するための優れたフレームワークです。ユーザー体験を記述する手法は、カスタマージャーニーマップやバリュープロポジションキャンバス、はてはジョブ理論まで様々あります。ただ、フォーマットの自由度とフレームワークとしての抜け漏れのなさという点で結構一長一短があり、バリューキャンバスはそのあたりのバランスをうまくとっています。有識者として参加いただいた早川さんが考案したフレームワークになります。

バリューキャンバスの一例

バリューキャンバスには 5 つの要素があります。私なり + ワークショップを通じ得られた知見で解釈を補足しながら解説します。

  • ペルソナ

    • 「状況」では解決したい課題が発生する場面にフォーカスするので、「ペルソナ」では少し視野広くユーザーの人となりを記述します。
      例えば、「状況」で仕事の場面にフォーカスするなら仕事に入る前の父親/母親としての顔、仕事が終わった後の趣味を楽しむ人の顔、などはペルソナのストーリーを理解するのに重要です。

  • 状況

    • ペルソナにとってクリアすべき課題が生じた状況を記述します。週明けの会議のために毎週末レポートを書かないといけない、子供の運動会までに体力をつけないといけない、など。

  • 障壁

    • 課題解決に当たっての困難を記述します。週末までにレポートを書かないといけないが、参考資料を調べるだけで 1 日はつぶれてしまう、などです。

  • 望んでいる成果

    • 課題がクリアできた理想的な状態を記述します。週末までにレポートを書いても土日を返上していたら理想的とは言えないでしょう。定時内でレポートが書けて家族との時間が取れるのは理想的です。

  • 代替手段

    • 非常に重要なパートです。ユーザーがどうしても望んでいる成果を得たいなら、現在 ( これから作るベストな解決策に代わる )何らかの手段を取っているはずです。例えば、どうしても土日は子供との時間に当てたいので平日すごい残業しているなどです。

これら 5 つの分析をもとに、最終的に「○○なときに△△したいため□□できるようになる」という一文にアイデアをまとめます。

ワークショップでは、「動画配信サービス」を題材に参加者の方にバリューキャンバスを作成いただきました。

早川さんによるバリューキャンバスの解説

作成後に参加者同士、また有識者から投票を行い ( 有識者の投票は 3 票分としてカウント ) 、上位 3 バリューキャンバスについて発表を頂きました。集計するとプロダクトマネージャーの一人あたり獲得票数は他職種の 1.5 倍程度となっており、職種の職能を示す結果でした。

生成 AI が活きるプロダクト体験発見の鍵

プロダクトやサービスのユーザーが達成したいこと起点で考えることが結果的に生成 AI が活きる体験発見の鍵と言えると思います。上位 3 つのバリューキャンバスから生まれたアイデアを見てみましょう。

  • 映画好きの人がお勧めの映画の紹介を求められたときに、関心引く紹介を作れるよう、自分の視点を反映した映画の内容や面白さの要約が得られる

  • 40 代のお父さんが娘の価値観を理解し仲良くなりたいときに、該当世代が見ている動画の面白さがわかるよう、どのような点が面白いと言われているのか解説が得られる

  • 子供が長時間テレビを見ているとき、親としてみてほしいコンテンツを見てもらうために、子供が見られるコンテンツかつ好きなキャラクターの出演しているもので構成した動画が見られる

  • (同着) 新しいジャンルや配信者のコンテンツを見ようとしたとき、ファンと同じポイントで面白さを感じられるよう、暗黙で共有されている過去のエピソードの補足が視聴時に得られる

投票の多かったバリューキャンバスの発表

いずれも生成 AI が適用できそうなユースケースの背後に、映画好きの人や 40 代お父さんなど具体的なペルソナや状況があることがわかります。これはユーザーからフィードバックをもらいに行くときに「誰に向かっていけばよいか」を示す羅針盤になります。生成 AI ができそうなことから考えると、誰が求めているのかが曖昧になるためスムーズにインタビューへつなぐことは難しいでしょう。

入賞者には、バリューキャンバスを作成するときに気を付けたポイントを語って頂きました。

  • As-Is と To-Be のギャップに注目する

  • 現在の動画配信は若年層向けには最適化されていると考えたので、対象の年齢をズラして考えてみた

  • 自分自身が欲しいものから考えた

ギャップの大きさへの注目はインパクトの最大化、メインターゲットから外してみることは顧客セグメントの多様化を図るために重要と感じました。その意味では、ビジネスモデルを考えるうえでも重要な観点だと思います。「自分自身が欲しいもの」はプロダクト作りの鉄則であり、同じアイデアであっても説得力が変わると感じました。

アンケートでも、明日からユーザーが達成したいこと起点で考えてみたいとの回答が得られました。

  • どうしても手段から考えてしまう癖があるので、感情や、ペインに注目して考えた。

  • 顧客課題に向き合うことに集中できていなかったので、改めてそこにフォーカスしつつ、生成AIをHowの一つとして選択肢に常にいれるようにする

  • バリューキャンバスを活かしてプロダクトの解像度を高くしていきたい

  • バリューキャンバスなどを駆使して解くべき課題を見つけたい

さらに、様々な背景を持つ人でアイデアを書き出し共有することも体験発見の鍵と言えるかもしれません。本ワークショップに参加してよかった点として、バリューキャンバスを知ることができた、はもちろんですが「他のプロダクトマネージャーのアウトプットが見られたこと」「有識者からフィードバックが得られたこと」が挙げられました。「他参加者からのフィードバック」よりもアウトプットが見られたことが有益と評価されたのは注目です。

ワークショップで特に気に入った点のアンケート回答結果

「フィードバック」という形で言語化したものをもらうより、その人なりに「やってみた結果」を見せてもらう方が参考になることを示唆しています。

ユースケースの探索がなかなか進まない場合は、議論するのを一回辞めて参加者個々人で自分なりのアイデアを ( バリューキャンバスを使い ) アウトプットし、相互に見せ合うのが有効かもしれません。

明日からできること

自分のプロダクトやサービスでバリューキャンバスを書いてみること、それを一人ではなく幅広な人で行いアイデアを共有すること、を実践してみてはどうでしょうか。 A3 のバリューキャンバスの台紙を含め、必要な資料はすべて GitHub からアクセスできます。参加者の方からは次の感想を頂きました。

  • こういったワークショップ、社内でもやってみたいです!楽しかったです

  • 他の方のアイデアを見ることで、触発されてアイデアが湧いてきました。リアルイベントならではなので、また参加したいと思います。

  • 実際にバリューキャンバス書くことができていろいろなかたにご覧いただけたことがよかったです。

こちらの感想がいただけたことは開催者冥利に尽きます。

  • ビジネス側の関係者とユーザー体験について議論できるようになりたいエンジニア向けというのが、自分にマッチしていて、Howではなく課題に向き合うタイプのワークショップでとても良かった。次回も参加したいと思いました。

ちなみに、ワークショップで自作して頂いたバリューキャンバスは PM DAO で開発している Value Discovery を使うことで自動で作成できます。左は私が自前で作成したバリューキャンバス、右が Value Discovery で作成したバリューキャンバスです。

人手と自動のバリューキャンバスの比較

状況は書けるけど他の箇所がわからない、など 1 箇所明確だけど他が不明瞭な場合に使うと良いと思います。↑の比較では自動作成の方は状況の記述に引っ張られてペルソナが類似した記述になっている、また状況が望んでいる成果の単純な裏返しになっているかなと感じました。自分でバリューキャンバスを作成してアイデアの一文を作り、それを Value Discovery に入力したのでこれ以上具体化できなかったのではないかと思います。なので、固まったアイデアのチェックよりは固まっていない状況で使うと効果を発揮すると思います。

次回に向けて

ユースケース発見のワークショップは引き続き開催予定です!今回、生成 AI の活用を進める上での課題をアンケートでとったところ、「生成 AI でどんな機能を実装するのか議論が終結しない」が冒頭の報告と一致し一位のためですです。次いで「実装しても精度が期待したほどでない」「コストが思った以上に高い」が挙げられており、プロンプトの作成や実際計算してみた時のコストに課題があると推察します。

生成 AI 活用の課題のアンケート結果

次回は、アイデアを検証するためのプロンプトの作成を取り上げてもよいかもしれないと考えています。楽しみにしていただければと思います!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?