思い出の中の紫陽花
「雨」にまつわるお話を1つ。
私が昔住んでいた家の前には幅が1メートルぐらいの大きな溝があった。
小さいころは大きな溝だと思っていたから、もしかすると1メートルもないのかもしれない。
その溝は長く続いているものだったのだが、柵がない部分が大半で、ちょうど私の家の前には柵がなかった。
兄とバレーボールやバトミントンをして遊んだときはよくその溝にボールや羽を落としてしまったものだった。幅も広い分、深さもあるので、ヘリに座って足でボールをすくい上げたり、水が少ないときは溝に入ったりしていた。
また、1人で遊んでいるときに庭にいた大きな蟻をその溝から流したこともある。
その水路は近くのため池に続いていた。
柵にお世話になったこともある。
小学校3年生のときに一輪車の練習を1人でして、乗れるようになった。その時の練習相手は柵だった。少し遠い柵に毎日通った。
といっても、柵は1本、片側にしかないので斜めになりながら掴まって練習をした。掴まるよりもさっさと乗れるようになった方がバランスがとりやすかった。
柵はなんだかんだいい先生になってくれたのかもしれない。
そんな思い出がある、その柵の先。
家から小学校へ向かう道の途中に紫陽花が咲いていた。
水色や紫色のたくさんの紫陽花たち。
雨がたくさん降る6月ごろ、毎年のようにその紫陽花が咲いていた。
大きな溝を超えて、あの灰色の鉄の柵に届くぐらい、紫陽花の花たちが大きく咲き乱れていた。
1度だけその紫陽花の中にカタツムリを見つけた。
もう今はあるかわからないその紫陽花。
けど、あのしずくに濡れたきれいな紫陽花を、私は忘れない。
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