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エスカレーターが怖い

いつからエスカレーターに乗れるようになったんだろう。全然覚えていない。でも、幼い頃あの怪物が恐ろしかったことは、今も覚えている。

とにかくリズムがつかめなかったんだ。ぬるぬると生まれ出でる階段達に、ずっと置いていかれる気分だった。大縄飛びに入れない感覚に近いかもしれない。でも、生き物に見えるぶんこちらのほうが難易度が高い。

・・・巻き込まれかけている。そんな感覚が背後から自分の足に絡まってきて、どうしても踏み出せなくなってしまう。そのうち乗れると知っている親や姉はとっくに上で待っていて、周りの人もどんどん運ばれていく。小さな僕だけがそこでより小さくなり、生易しい地獄を味わっていた。

当然、いまなら自然とのれる。たまにリズムがずれてしまって足踏みすることはあるけど、それほどの恐怖はない。
ただ、いまだにうっすらと怖いことがある。それはむしろ、降りる時のことだった。

エスカレーターがなぜ生き物のように見えるかと言えば、動きながら形を変えるからだ。ぬるりと足元から姿をあらわし、にゅにゅっと体を膨らまして昇っていく。その様子は親へついていく行進のようでコミカルと言えなくもないが、終わり際はだめだ。

今の僕には、降り際のエスカレーターは拷問器具に見えてしまう。吸い込まれていく階段の僅かな隙間に自分も一緒に巻き込まれ、ぐちゃぐちゃになっていく姿を思い浮かべてしまうのだ。でも、足を止めることはない。僅かな恐怖に体を強ばらせるような年齢は、もう過ぎ去ってしまった。

それでも、やっぱりエスカレーターは怖い。どうしても生き物感が拭えない。幼い頃と今の思い込みが入り交じって、異形の蛇がぐるぐると巣をまわっているように思える。

なんとなくだけれど、この違和感は僕だけのものじゃない気がしている。

日本中、いや世界中で、透明な大人が蛇に食われ、子供は足を踏み出せずにいる。

エスカーターは、怖い。

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