薄毛とは負け戦である。
薄毛とは負け戦である。
我が軍はかつての輝きを失い、今や老兵ばかり。国土は減りつづけ、若い兵はいつの間にか去ってゆく。
大国と言われた黄金時代など見る影もない。今はただ、無情な太陽が荒野を照らすのみ。
どうしてこうなってしまったのか。私は、王であったというのに。
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王は無力であった。微かな違和感が徐々に膨れ、確かな疑念に変わった頃にはもう、国は蝕まれていた。
他国へ援助を求めても「諦めろ」と門前払い。臣下達の目の色が薄くなっていくのを肌で感じながらも、何もできなかった。
腐った土の上に、どんな種をまいても意味はない。後悔は尽きぬも、どれほど考えても僅かな光もない。なにをどうしても、芽吹く未来が見えないのだ。
運命に必死に抗っていたころ、見知らぬ臣下が私に囁いた。
「―水平線の向こうに、救いの薬があると聞きます。」
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すでに底の見えつつある国庫を注ぎ、その薬をとにかく求めた。民の暮らしなどどうでもよかった。私は変わらず贅沢に肉を食べ、麦の泡で喉を鳴らしながら、その上で薬を求めた。
学者達は「王の無駄な油が、毒となって国に撒かれているのですよ」と、強い言葉で諭してきた。力のある眼をしていた。
その言葉を飲み込み、もはやここまでと冠を捨ててしまえばよかったのかもしれない。
しかし私は、彼らに暇をだしたのだった。
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とうとう薬を手に入れても、救いはおとずれなかった。痩せた土地は枯れる速度をゆるめたが、それだけだ。緑が生まれないのなら、それは少しずつ死んでいくことと何が違うというのか。
水平線から届いたのは救いなどではなく、ただ首を絞める現実であった。それでも私はなにも捨てられなかった。薬も、冠も。
薄毛とは負け戦である。
どれだけ抗おうが、断頭台へ歩みを進めているだけなのだ。それを理解するのに、時間がかかりすぎた。
私は愚王であったが、せめてこの国と共に死のう。ミエール・トーヒ1世の名と共に。このような不毛を、産み出さないために。
ーそんな皮肉を自分で笑うと、足音が響いた。
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向こうから、あの見知らぬ臣下がやってくる。奴は他国の密偵だったのだろうか。いや、どうでもよいことだ。どちらにせよ国は落ちる未来だったのだ。どんな言葉を囁かれても、いまの私には意味がないのだから。
奴はゆっくりと私の前まで来ると、あの時と同じように耳元まで顔を近づけ、あの時より優しい声で囁いた。
「あの薬は、我が国のものと合わせてはじめて、救いとなるのですよ。」
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薄毛とは、負け戦である。
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