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舞台「ぼくのはははははのはは」※ネタバレあり

好きで生まれた訳じゃない、好きで一人ぼっちな訳じゃない、勝手に産んだくせに。そう、思ってた。
どこにでもある小さな町のどこにでもある一つの銭湯。母はその番台から、家族を、地域の人々を、いつもあたたかく見守っていた。そんな中、自分の境遇に悩み、荒んだ生活を送る息子。
「ありがとう」と言える日がくるのだろうか…

公式HPより

先月見た舞台「約束は昔日」で主演を務めた甲斐優風汰さんが出演する「ぼくのはははははのはは」(Aチーム千秋楽)を見て来た。甲斐さんは今回も主役。他にも約束は昔日でキーパーソンだった老婆を演じた眞知さん、テーマソングを歌ったスズキハヤツさんも出演。
脚本・演出は太田勝さんでこちらも「約束は昔日」 と同じ。

あらすじにある通り、銭湯を舞台に家族との関係性を描いた物語。

「約束は昔日」の時と同じく、台詞の一つ一つが心の奥底に届いて響いて涙が止まらなくなる。
号泣。
でもその後に必ずと言って良いほどおもしろい場面が来て心から笑わせられる。

劇中にこんな台詞があった。
気持ちのやり場がなくて葛藤して怒鳴り散らす主人公に叔母が言った一言。(かなりうろ覚え)

「怒るのは良いことだ。」
「怒った後に泣けば良い。泣いた後に笑えば良い。」
「全部やり尽くしたら死ねば良い。」

この台詞の順番通りに舞台は展開する。
続く場面はとても悲しくて苦しくて泣いて、その次の場面はバカバカしい程におもしろくて笑ってしまう。ついさっきまで号泣していたのに。

人生の縮図のようだと思った。

主人公は早くに亡くした母親に対して複雑な気持ちを抱えて葛藤し、自ら周囲に壁を作ってしまう。中盤で明かされた理由は衝撃的で、母親を許せない気持ちも分からないでも無かった。

甲斐さんが幼少期の主人公を演じる場面もあり、それを見ると強すぎる悲しさが怒りに転じてしまったのも無理はないと思う。むしろ怒ることで生きて行く原動力にしたのではないかとも。(失ったものや手に入らないものに対して嘆くと辛すぎるので、“もうあんなものいらない”と思い込む現象。)

「約束は昔日」の時は母親が主人公に大きな影響を与え、父親はそれほどでも無かった。
今回は劇中には母親の姿は一切出て来ないが、母親が物語の肝になっていて舞台を覆っている。父親に関しては微塵も言及されない。

そしてどちらにも血の繋がりのある家族を持たない女の子が出て来る。

家族との関係性に悩む人と、家族がいない人との対比で「家族って…?」と考えさせられる。

家族って…?

「約束は昔日」の時は「がんばれ」だったが、今回は「ごめんね」と「ありがとう」がキーワードだった。

劇の最後の方で主人公の従姉妹が「人に会える時間は限られている」と言う場面がある。
人間の寿命が80年として、主人公が祖母に会えるのはあと何年。1日2時間会うとしても、日数に換算したら1年にも満たない。

その中で、「ごめんね」と「ありがとう」を何回聞くのか。「ごめんね」よりも「ありがとう」の方をより多く言ってもらえる日が来るように、銭湯の常連は優しく言葉をかける。


何を意図してるのかよく分からないギャグみたいな行動や言動が舞台の上で繰り返され、最後の方に意味が明かされる。

複数の物語が同時進行していて、いくつもの家族(親子)の形や考え方を見せられる。

最後に流れるテーマソングも歌詞が物語とリンクしていて良い。

たった100分とは思えないくらい充実した時間でした。

また見に行きたい。

脚本家の太田勝さんは天才だと思う。

お金をください。