せいこう

せい-こう

【精巧】細工が細かく、よくできていること。
「きみってとっても綺麗な目をしている」
 お前はいつでもわたしの一部を褒めた。お前が褒めるたび、そのわたしの一部はただ音を立てて周りを飛ぶ虫のように軽微な存在に感じられた。ぶうん、と耳障りな音がして、確かにそこにいるのだけど何かをするわけでもなく、ただそこに居るだけ。無くなっても気に留めないようなものが、お前が言葉を発するたびに増えていく感覚。わたしという肉体がどんどんと薄れていく感覚。

【性交】肉体のまじわり。
 肉を打つ音が苦手だった。台所で、お前が鶏肉を叩いている音が嫌いだった。
「そんな馬鹿みたいに叩かなくていいじゃない」
「肉は叩くと美味しいんだよ」
 お前の言葉を思い出すたび、鼻腔を抜ける肉の生臭さが浮かんで吐きそうになる。冷蔵庫に眠る、血の滲んだ生肉。名前も持たない鶏の、冷たくなった可哀想な生肉。

【成功】目的どおり成し遂げること。
 お前の言葉は呪いを孕んでいた。耳元でささやかれた呪いは脳髄を麻痺させ、心臓は凍ったように時を止めた。血の巡らなくなった肉体は常温では腐ってしまう。わたしは冷蔵庫に入れられて冷たくなっていく可哀想な肉だった。叩かれ、柔らかくなって、じっくりと焼かれる可哀想な肉。お前は美味しそうに肉を食っていた。たましいの無く空っぽになった女の肉を、お前はさも幸せそうに食っていた。

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