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おいしい魚や肉や野菜を売るお店があれば、大丈夫、なんとかなる。

わたしが note のアカウントを開設してから、もう5年もたつのだと note が言う。「ひとまず環境だけ整えて、書くにふさわしいことが生まれたら記事を書こう」と思ってもう5年。聞けば、note は昨日、サービス開始から6年を迎えたらしい。そして、新型コロナウイルスの感染拡大によって、どうやら世界はまた大きな転換点を迎えようとしているようだ。書くべきことを待っている場合ではない。すっかり忘れられていたこの部屋に入り、埃を払って、ペンを執ろう――。

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午前中、諸手続きのために役所へ行く。整理券をもらって待つ。混雑はそれほどしていない。昨年の4月に訪れたときとそう変わらないぐらいか。窓口業務の職員さんはみんなマスク着用。当然、この状況下、少しでも感染リスクを減らしたいと思えば、不特定多数を相手にする業務に当たるときにマスクは欠かせないだろう。順番を待つ人も、みんなマスク姿。

少し待つうちに、どこからか舌打ちの音が聞こえてきた。音の主は、中学生もしくは高校生になりたてぐらいの男子だった。家族の手続きが終わるのを待っているのだろうか。スマホゲームをしながら、一人でベンチに座っている。よくよく観察すると、彼の舌打ちは、遠くでむずかる赤ちゃんの声に合わせて発せられているようだった。ゲームに熱中しているかと思いきや、赤ちゃんの声に反応して、舌打ちをしたり、時に「うるせえな」とつぶやいたりしている。

赤ちゃんは、時折、大きな声を上げるぐらいで、いわゆる“ギャン泣き”しているわけではない。彼は、休校が続いたり、友達と遊ぶことがはばかられたりしている日々のなかで、いらいらが募っているのだろうか。あるいは、そうでなくてもそうとうストレスがたまる毎日を過ごしているのか。とはいえ、そのストレスの矛先を小さな命に向けているさまは、見ていてあまり気持ちのよいものではなかった。思わず、彼のほうをじっと見つめていたら、目が合ってしまった。途端、彼はあわてて目を伏せて、ゲームの世界へと戻っていった。ごめんね。君もつらいよね。でも、子どもに優しい視線を向けられるというのは、関西のよいところじゃないか。

昼下がり、夫と二人、わっせわっせと、20分で家の片づけ。夫の幼なじみの整体の先生が来訪するのだ。少し前に勤務先の整骨院を退職したため、独立・開業準備中の今は、個人宅に訪問して施術してくれるという。この時期には、ありがたい。知らない人を家に上げるとなると心配だが、夫の幼なじみならそこもクリアだ。首のつけ根と左腕に重さは残るものの、自宅でリラックスできたからか、いつもより凝りがほぐれた感じもする。夫と二人で平にありがたがる。今はモニター施術期間中ということなので、少しでも役に立てるよう、よりよくなるためのアドバイスを真剣に考えようと誓う。

夕食は、魚屋さんでお得に手に入れたウニとさわらで、ウニ丼とお刺身。しばらく肉が続いていたのもあってか、魚のおいしさがしみる。おいしいものは大事。緊急事態宣言の対象地域になっても、おいしい魚や肉や野菜を売るお店があれば、大丈夫、なんとかなる。

夜、首相の会見を質疑応答まで見届けた後、夫とジムへ。前から予約していたクラスを受講する。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めてから休業しがちになっていたジムだが、少し前に再開したことを知り、凝り固まった体をなだめるために行ってみることにしたのだった。

受講予約をしていたのは4人。普段は、昼も、夜でさえも、たくさんの高齢者が通うジムだけど、この時期の夜の枠だから、きっとわれわれの他のメンバーは20・30代の人だろう。その予想は、まず、ロッカールームで揺さぶられた。いつもは空きロッカーを探すのに苦労するほど、人でぎっしりの場所だが、今日すれ違ったのはほんの5、6人ほど。そして、そのすべてが見た目年齢おそらく50・60代の人だった……! ロッカールームを後にし、スタジオに足を踏み入れたとき、予想は完全に打ち砕かれた。われわれ以外の2人は、見た目年齢50代の人だった……! メディアではしきりに「若い人が出歩いて……」と言うけれど、ことジムに限ってはそうではないらしい。あるいは、「若い人」というのは、10〜30代とかではなく、もっと幅広い年代を指す言葉なのかもしれない。あるいはあるいは、わたしの見た目年齢の目算に誤りがある、ということもあるのかもしれない。

久しぶりの運動は、ふとももに過大な負荷がかかったものの、全体としては、体の可動域が広がり、心地よいものだった。これは散歩では得がたいものだ。やはり、よく練られたプログラムをこなすことには意味があるのだな。クラスを終えた後、インストラクターの方と二言、三言、言葉を交わした。緊急事態宣言の対象地域となったことを受けて、今日のことのクラスを最後に、ジムは1か月の休業に入るのだ。「元気でまた会いましょう」と言うと、「本当に! 元気で過ごしてください!」と返してくれた。

ジムの今月の会費は、来月以降の会費に充当してくれるとのこと。休業になるのはジムのせいではないものの、会員としてはありがたいことではある。が、休業中、社員さんやインストラクターさんはお給料をもらえるのだろうか。胸が痛い。Zoom でレッスンとか、してくれないかな……。

帰り道、夫がぽつりとつぶやいた。「京都のあのレストラン、いよいよ経営が厳しいらしい。今年中まで使えるお食事券の販売を始めたみたい」。以前、夫に連れられて行った、開業して間もないレストランだった。それこそ、20代ぐらいの“若い人”たちのアイデアと希望にあふれたお店。そんな人たちが開業1周年を目前にして、苦境に立たされている。今のわたしにもし莫大な資金力があれば、彼らに必要なだけのお金を、もう戻ってこなくてもいいぐらいの気持ちで貸してあげられるのに。でも、わたしは三木谷さんや孫さんではないし、そんな力はない。わたしには、何ができるのだろうか。

化粧水が底をつきかけていることに気づき、寝る前にネットで注文。この頃は、Amazonでも「置き配」が推奨されているのに、このショップのフォームにはそれを選ぶ欄がない。感染予防のため、配達員の方の負担軽減のため、在宅時であっても宅配ボックスを使ってもらうほうがいいのだろうな。せめてもの気持ちで、「お届け時の希望」の欄にその旨を記しておく。できることは、やろう。

(2020年4月7日)


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