第2回:お風呂にする? ご飯にする? それともワタシ?

ベッドの中の治外法権、第2回。今回はカニバリズムです。動物は交尾後、メスがオスを食べるのはよくある光景であるし、様々な国で食人という文化が認められています。儀式的な食人は簡単に言えば、肉体の片見分けで、故人から生存者への肉体ないし魂の分配というなんとも理路整然とした文化であり、私としてはそんなに面白くもなんともない。また、シリアルキラーにおける食人も、基本的にはルサンチマンによる弱者への破壊願望が多く、これも弱者への暴力という構造に収まる。そのスケールの小ささ故に食指が動かないわけです。

ところで田舎に行くと蚊が交尾をしながら、私の血液を求めて飛んできます。「なんて強欲!」と顔をしかめる人も中にはいるでしょうが、私としては人類の悲願であったところの飛翔、生命維持と味覚の嗜みを兼ねた食事、そして性行を一度に行なっている彼らは実に羨ましい限りです。そして、食欲と性欲を同時に満たすことのできる行為に想いを馳せるわけですが、それがエロティシズムにおける食人でしょう。

実は、エロティシズムとしての食人は非常に文献が少なく、どうしても人類文化学と結びついた学術的なものが多くなってしまいます。しかし、日本には素晴らしい先駆者であり、生き字引きがいるのです。その人こそ、佐川一政です。

パリ人肉事件でお馴染みの彼。事件の内容は簡単に言えば、留学中に友人のオランダ人女性を射殺、屍姦後に人肉を食し、遺体を解体。それらを写真に収めた後、再度、加熱調理を行なったというものです。

彼が食人をしたのにはロジックがあります。そしてそれはフェチズムに貫かれており、カニバリズムとエロティシズムを繋ぐ架け橋として機能しているわけです。

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ーーーーーーーここから下は自己責任で!ーーーーーー


そのロジックがごく簡明に綴られているのが、彼によるマンガ、「まんがサガワくん」です。

再販された現行のものは表紙カバーの下=ひらの部分は真っ白となっていますが、初版のものは佐川が撮影した被害者女性の写真が掲載されています。

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このマンガは事件の発端から拘置所での生活までが描かれています。

さて、我々は「なぜ、彼は食人をしたのか?」という疑問に辿り着きます。そうした疑問に明快に答えてくれるのがこのページではないでしょうか?

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多くの恋愛において、なんらかの理由があり、対象人物のことが好きになる。好きになれば、その人物のそばにいたくなる。(中には震えが止まらなくなる例もあるそうで。)その延長上にセックスがあるわけです。

ここで佐川が展開するのは、そうしたごく一般的な恋愛の変奏と言って良いでしょう。かねてからの洋画に対する憧れも相まって、対象人物は「キレイな」白人女性である。その女性の「近くにいたい」から、近くにいた根拠・実感が欲しい。だから「ニオイを嗅ぎたい」、「接吻したい」、「体を舐めたい」(被害者女性の唇に損傷があるのはこの過程において性欲が食欲に変換されたため)。そして、それは口唇にまつわる小児性欲に限りなく接近し、アンモラルな世界における純粋な性欲に還元されていくのです。

ここで私が言いたいのは、異様・異端とされるエロティシズムとしてのカニバリズムは、フェティシズムを通過することによって、ごく一般的な恋愛や性行事情と同じ仕組みを獲得するということです。

つまり、ほとんど多くの人が持つ性欲あるいは恋愛欲求、また自己承認欲求には、システムがあり、そのシステムの中にはカニバリズムが内包されているという事実があるわけです。

よって、性欲の一可能性としてカニバリズムは誰にでもありうる選択肢であり、「ベッドの中の治外法権」第2回のテーマをとして選んだ次第です。

ただ、人肉は生では硬すぎて、調理すれば悪臭がひどいそうです。フリッツ・ハールマンくらい細かく刻んでソーセージにするのが正解でしょうかね?

また、カルマと言いますか、食人(特に脳)は狂牛病と同じようにプリオンタンパクが異常化し、クールー病にかかる可能性があります。長くエロティシズムを愉しむにはあまり向いていないと言えるでしょう。

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